
なぜ私は出家したのか
南インドのティルヴァンナーマライにあるラマナアシュラムに滞在していたとき、なぜ私はあちら側ではないのかと、ふと不思議に思いました。
私にとって、”それ”は当たり前に”ここ”にあるのに、なぜ世俗の人間として、あちら(アシュラム=非世俗)との関わりを持っているのだろうと。
私は以前は出家(一時)をしていました。
ここで、そもそもなぜ私が出家をしようと思ったのかについて改めて書いておくことにしました。
上座部仏教の国(タイ、ミャンマー)では、短期出家が認められていて、私は何度か僧院で出家修行をしています。
僧院にしばらく滞在するも辛くなって逃げ出し、諦めきれずに再び出家することを数回繰り返したのです。
私が最初に出家修行をしてみようと思ったきっかけは、タイの僧院(瞑想センター)に滞在していたときのことでした。
あるとき、僧侶(比丘)の列に子どもの僧侶(沙弥)が数人加わりました。
その僧院は外国人の滞在者が多く、大人の外国人から恭しく三礼や食事の布施をされて、はじめはその沙弥たちはもじもじしながら恥ずかしそうに、食事を受け取っていました。
その後も、読経の合間などに、沙弥たちがキョロキョロしていたり、ふざけ合っていることを比丘(出家者)から叱られたりして、私たちは微笑ましく見ていました。
しかし、1週間もすると、沙弥たちはなんとも堂々と托鉢を受け、私たちより一段高い座に座って、手本を見せるかのように仏像に向かって三礼をしていました。
そうして、しばらくして子どもたちは還俗して帰っていきました。
その子たちは帰り支度をして、在家の信者として滞在していた親たちに混ざって遊んでいました。
どこにでもいるタイの田舎の子供たちのようにも見えますが、僧侶としての面影も残しているようにも感じました。
彼らの変貌ぶりを見て、僧侶になるとはどのようなことかと興味を持って、出家をしてみたのです。
あるとき、私は見習いの出家者(沙弥)としてミャンマーの田舎道で歩く瞑想をしていました。
見習いであっても、短期間であっても、同じ格好をしているので、他の人から見れば同じように出家者(比丘)です。
そこに現地の子供たちがはしゃぎながら目の前を通り過ぎようとしていました。
私に気づいた子供たちは静かになり、その場で立ち止まって、私が通り過ぎるのをじっと待っています。
子どもたちは目を伏せ、こちらを覗き見ることもありません。
私は通り過ぎてから、ふと振り返ってみました。
そこで、年長の女の子が他の子供たちを促して、地面に頭をつけて三礼をしていました。
私はそれを目にして、すぐにでもその場を離れたくなるほど、恥ずかしくなりました。
なぜなら私はただ自分が瞑想修行をしたくて、たまたま出家者の格好をしていただけだったからです。
当時、私はミャンマー人の信者から三礼されるときや布施を受けるとき、心の片隅に居心地の悪さも感じていました。
私たち外国人にとって、伝統的な宗教としての仏教(生まれたときから当たり前にそうであった定めとしての仏教)の外にいること、そして出家者の体験すること(一時出家)は難しいことではなかったからです。
しかし、修行を続けるうちに、少しずつ僧侶であることの自覚と責任を引き受け、世俗的な関心や迷いも手放していき、修行に専念するようになりました。
そうして、孤独(自他の二元性)を克服して、もう世俗に逸れることがなくなったとき、ようやく私は本当の意味で出家者となりました。
私は今でも、どこでなにをしていても、どんな格好をしていても、変わらず出家者であると感じています。
僧院の近くの村をタクシーで通ると、家とも呼べないような簡素な小屋で暮らしをしてるミャンマー人の生活を垣間見ることができます。
そんな日本よりも貧しいミャンマーの人たちのお布施で支えられて、特別な不自由もなく、瞑想修行に専念できたことは、感謝という以前に、今の私という器を再形成したことは疑いようもありません。
私は宗教や伝統にはそれほど興味はなく、関わりもほとんど必要としません。
それでも、これまでそれらに触れて学んできたことは何世代も先に受け継ぐものであり、自分がその一端を担っている自覚を持っています。
私には取り除くべき教えも見出しませんし、付け加えられるような教えも持ちません。
もう欲しいものはなく、教えたいという想いもなく、救うべき劣った人など見出さず、それでも私は、ただ私がなすべきことをなしていきます。
それは今のところ僧院(アシュラム)の中ではなく、ここですべきことのようです。
いいなと思ったら応援しよう!
