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#彼女を文学少女と呼ばないで/村上春樹「純粋な幻想を求めて阿片を常用する一八世紀の耽美的な詩人のように」

『街とその不確かな壁』村上春樹


私が〈夢読み〉に任命されたのは、何かの間違いだったのではあるまいか?
私にはもともと夢を読むような能力は具わっていないのではないか。
私は間違った場所で間違ったことをさせられているのではないか?

あるとき作業の合間に、私はそんな不安な気持ちを君に打ち明ける。

「心配しないで」と君はテーブルの向かい側から、
私の目をのぞき込むようにして言う。

いま少し時間がかかるだけ。このまま迷いなく仕事を続けてください。あなたは正しい場所で、正しいことをしているのだから


ぼくは暗い階段を降り続ける。階段は限りなく続いている。
そろそろ地球の中心まで達したんじゃないか、という気がするくらい。
でもぼくはかまわずどんどん下降していく。

まわりで空気の密度や重力が徐々に変化していくのがわかる。

しかしそれがどうしたというのだ?
たかが空気じゃないか。たかが重力じゃないか。


日常的にスカートをはくことは、
きっと彼の心持ちに何よりすんなり馴染んだ行いなのだろう。

そしてそれがどのようなことであれ、
その理由がいかなるものであれ、
自分が美しい詩の一行になったみたいに感じられるというのは、
なんといっても素晴らしいことではないか。


『人は吐息のごときもの。その人生はただの過ぎゆく影に過ぎない』

______夜啼鳥が孤独な夜の歌をうたい、
中州の川柳がそれに合わせるように細やかに枝を揺らした。

春が巡ってきたのだ。


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