F-SOAIPによる記録の標準化を目指して
わかばケアセンター 居宅業務管理課 課長
主任介護支援専門員
遠藤 貴美子
居宅介護支援経過を見直すことで、自分の支援に自信をもってほしいです
居宅介護支援経過の正解とは?
皆さんは、居宅介護支援経過(以下、「支援経過」という)を
記入することは得意ですか? 不得意ですか?
得意、不得意ではなく法律で決められた事だから、
先輩に書くように教えられたから仕方なく書いています
という声が聞こえてきそうですね。
これはあくまでも私の想像ですが、支援経過は面倒だと思っている人が多いのではないでしょうか。
私がケアマネジャーになりたての数十年前、
担当件数が多く、1日に何十件もモニタリング訪問をしていました。
帰社すると体は疲労困憊、頭は思考停止状態でした。
そんな状態で支援経過を書き始めるのですから、訪問での内容を思い出せず、
手が止まってしまい全く仕事が先に進まないのです(しかも手書きの時代!!)。
「書けない~、思い出せない~」とぶつぶつ言っていました。
このようなことを毎月繰り返したことで、
いつしか私は支援経過を書くことに苦手意識を持つようになっていました。
ある時、会社に実地指導(現在の運営指導)が入ることになり、
下っ端の私は先輩のファイルに不備がないかチェックをすることになりました。
そこで私はびっくりしました。
先輩たちの支援経過は何行にも渡って、びっしりと記録が書かれているのです。
ただただ書かれている記録は、時には1ページも使用され、黒い塊のようでした。
「さすが先輩!詳しく書いてすごいな」と思う気持ちと同時に、
自分の記録の短さや中身の薄さに罪悪感を持ち、
「たくさん書いてある支援経過が正解なのだ」と思った出来事でした。
居宅介護支援経過から見えてきたこと
2021年3月31日に厚生労働省は
『「介護サービス計画書の様式及び課題分析標準項目の提示について」の一部改正について』 を発出し、
介護サービス計画書の様式を一部改正しました。
その中で支援経過は、「介護支援専門員等がケアマネジメントを推進する上での判断の根拠であり、
介護支援専門員が日頃の活動を通じて把握したことや判断したこと、持ち越された課題などを、
誰もが理解できるように記載する」と明記されています。
そして、そのために具体的には表1で示すような記載方法をあげています。
この通知を目にした時に、
「こんなに丁寧に、しかも具体的な記載方法まで示してくれるなんて親切だけど、
日時や曜日なんて… … 当たり前じゃないの?」と思いませんでしたか?
これを深く読み解くと厚生労働省からみたケアマネが記載する支援経過は
「基本的なことも書かれていない」と厳しく指摘してきたことになります。
日時等の客観的な事実や根拠が記載されていない、
記載者しか理解できない支援経過を書いているケアマネさんが
全国に一定数は存在するという事実が見えてきました。
記録の標準化を目指して
「令和3年度介護支援専門員の資質向上に資する研修等のあり方に関する調査研究事業」 でも、
「支援経過記録の書き方について、各研修課程でも研修の内容に入っていない」と指摘を受けている通り、
支援経過を含む記録の書き方の研修や指導は今までほとんど行われてきませんでした。
このような現状において、
「ケアマネジャーがおそらくもっとも負担に感じている業務の一つが記録ではないか」という思いから、
国際医療福祉大学大学院特任教授の小島章吾氏と、埼玉県立大学准教授の嶌末憲子氏が、
医療職と福祉職が共有できるような記録方法である「F-SOAIP」を開発しました。
簡単にF-SOAIPを説明すると表2のようになります。
私がA区で行ったF-SOAIP研修終了後アンケートでは
「大変良かった」と「良かった」の回答を合わせると95%を占めました。
私が、このF-SOAIPの魅力的だと思う利点は専門職が行った実践過程や
思考過程を可視化することができること、
記録を読まなくてもパッと見てわかることです。
F-SOAIPは項目ごとに記載していくので、自分の頭の中にあったモニタリング訪問の画像を文書として
見える形にすることができます。さらには自分が不在でも他のケアマネジャーが迷うことなく記録を探し、
理解することができるのです。
安心して休みが取れますね!
ここまで読んで頂いた皆さん、F-SOAIPを使ってみようと思っていただけましたでしょうか?
正直、初めは記録に時間もかかるし面倒で、私も一度挫折しました。
しかし記録の重要性を感じて再び書き始めました。
私もまだまだ勉強中ですので、先生や共にF-SOAIPを学ぶ仲間から指摘を受けながら記録を修正しています。
そのやりとりの中で、
「記録には書かれていないけど、この時あなたはどう思ったの?」や
「記録にないけどそのあなたが行った介入(=I)に対して、利用者はどんな反応だった?」という指摘に
ハッとして、一瞬だった支援を振り返ることがあります。
このように記録の重要性を理解し、さらには標準化されることで、自分の支援を振り帰ることができる、
そしてそれはケアマネジャーの質の向上に結びつくと期待しています。
ⅰ 「介護サービス計画書の様式及び課題分析標準項目の提示について」の一部改正について、介護保険最新情報VOI.958、2021年3月
ⅱ 介護支援専門員の資質向上に資する研修等のあり方に関する調査研究事業報告書 2022年4月