Tomorrow Is in Your Hands
主任介護支援専門員
社会福祉法人運営の居宅介護支援事業所(単独型)所属・管理者
浦田 龍
Twitter @RYU_PINKDARK
介護支援専門員の仕事は「個別の介護問題に介入していく」特性上、『あそび』や『笑い』を伴わせることが難しい。
自分自身がご機嫌に仕事を続けていく上で、『あそび』や『笑い』をどう伴わせていくかがテーマです。
制度や社会システムは『妄信』するのではなく、『是非を問う』のが我々介護支援専門員の役目です。
臨床に直接触れている我々が顕在化した課題を言葉にして問題提起していく必要があります。
『ケアマネジャーを紡ぐ会』愛知支部長の田端氏から、TwitterのDMで本原稿のご依頼をいただきました。身に余る光栄です。
「こんなふざけたことばっかり言ってるのに? 他にもっとフォーマルな適任者がおられ……
いや、待てよ……せっかく頂いたお話をイキって断るのも調子に乗ってるみたいで嫌やな……おもしろそうやしやってみよう」(この間0.5秒)
従って、もし本原稿がツルツルにスベるようなことがあれば、筆者個人としては一切の責任を負いかねます。
全ての責任は田端氏が負います。
さて、介護支援専門員の倫理要綱(日本介護支援専門員協会)にはこう記されています。
「(公正・中立な立場の堅持)
私たち介護支援専門員は、利用者の利益を最優先に活動を行い、所属する事業所・施設の利益に偏ることなく、公正・中立な立場を堅持します。」
映画監督フランシス・フォード・コッポラは映画『ゴッドファーザー』3部作をして「あの中で私はマフィアというグループを描きたかったのではなく、アメリカというひとつの国を描きたかったんです。(中略)
彼らは自分たちのグループの利益を第一と考えそれを熱烈に追い求めている。これは資本主義社会の第一義的なことではないでしょうか」と回顧しています。
私は、(肩書にも触れた通り)複数の介護保険事業を行う社会福祉法人において居宅介護支援事業所所属の介護支援専門員として勤務しており、その置かれた立場からこの『公正中立』という言葉の裏に付着した意味について日々考えています。
介護支援専門員は、介護保険市場において『公正中立を標榜する制度』と、『自分たちの利益を第一と考えるグループ』の両立をする立場にあります。
介護支援専門員が先行して市場に出て、自分達のグループのサービスに利用者を誘導し、その紹介率がそのままサラリーマンとしての社内評価になります。
この構造上、『所属する事業所・施設の利益に偏ることなく、公正中立な立場を堅持した結果として、いつまでも出世できない介護支援専門員』は、『自分達のグループのサービスに利用者を誘導し、グループの利益に寄与した後輩介護支援専門員』が出世して社内での裁量を拡大していくのを、指をくわえてみていればいいでしょうか。
労働者としての介護支援専門員は「ボーナスカット? ぐぬぬ… 利用者の利益が最優先なので、自分の利益が後回しになるのは仕方ない」と呑み下すことができるでしょうか。
公正中立な立場を堅持した結果、起こるこの副作用は誰も保障してくれません。
私はよく介護保険事業を『漁団』に例えるのですが、船のメンテナンスをする部隊、燃料を調達する部隊、仮に自分が漁に出て釣果がなかったとしても、他の船の釣果を再分配してもらえるので、各事業が補完しあってリスクヘッジし、事業の安定性や継続性を担保しています。
たまに併設サービスへの不満を漏らす介護支援専門員を見かけますが、あれはやってはいけません。
一体型である以上、併設サービスの資質向上は漁団全員が当事者である必要があるからです。
単独居宅介護支援事業所でない限りは、漏らす不満以上にそのスケールメリットを享受しているはずなのです。
大規模事業者を優遇する報酬設計においては、市場の寡占化は今後より顕著になっていくでしょう。
では、介護支援専門員が公正中立であることが利用者にとってどれくらいの価値に成り得るでしょうか。
利用者「ケアマネさんのところの併設サービスで一体的に表現してくれたほうが、我々としても利がある」という見立てがあった場合、公正中立の姿勢を堅持していることそれ自体が意味を持たないのではないでしょうか。
では、『医療介護連携』『事業所間連携』が喧しく言われるなか、どう連携を促進させていけばいいでしょうか。
本当に連携を促進させたければ、文化背景や理念の異なる事業所間で、そもそも連絡が取りにくい中で強引に体裁を整えるのではなくて、共通言語を扱う同一グループ内で一体的に表現したほうが、連動性があって合理的じゃないでしょうか。
このように考えていると、ひとつの疑念を抱きます。
『公正中立を標榜する制度』の方にこそ歪みがあるんじゃないか、と。
介護支援専門員が所属する居宅介護支援事業所が『単独型』か『併設型』かによって堅持する姿勢は変わるじゃないか、と。
国際社会がいまだかつて体験したことのない未曽有の高齢化に日本がどう対処していくのか、我々介護支援専門員が対峙するミッションは多岐に渡ります。
グループの短期的な利益に焦点を当てるような近視眼的なものの見方では、社会システムそのものが立ち行かなくなります。
「公正中立な姿勢を堅持しようとしても、そもそも選択肢がない。あれだけ堅持していた姿勢は一体なんだったのか」ということも起こるでしょう。
介護保険市場の負担増と給付抑制がより顕著になり、2060年自分達が高齢になってサービスを利用する(「その頃には制度が解体されている」というツッコミはここではご容赦ください)側になって「使い勝手が悪い」と憂いても、若い世代に「あなた達世代が目先の自分達の利益優先で全部刈り取ってしまって、制度の持続可能性を軽視した結果ですよ」と言われたら抗弁のしようがありません。
そんな混沌とした状況下で、どのように風を詠めばいいのか。
加速度的に変化していく社会に併走することができるのか。
居宅介護支援費1076単位を握りしめて、考え動き続けたいと思います。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?