仕事と介護の両立支援の専門知識とは
労働政策研究・研修機構 副統括研究員
池田 心豪
育児・介護休業法との関係で仕事と介護の両立支援について研究する労働研究者
仕事と介護の両立支援には、育児・介護休業法の正確な理解が必要です
企業が行うのはケアラー支援ではない
近年、家族の介護をしながら働く労働者を「ビジネスケアラー」ということがあります。経済産業省がこの言葉を政策の看板にしたことにより、今ではコンサルタントやジャーナリストも自明のようにビジネスケアラーという言葉を使うようになりました。しかし、英語圏にbusiness carerという言葉はありません。一般的に使われる英語はworking carerです。国内でも古くからこの問題にかかわってきた専門はビジネスケアラーとはいわず、ワーキングケアラーと言います。
しかし、企業が従業員の仕事と介護の両立支援を行う場合、その対象をワーキングケアラーと呼ぶことも厳密にいうと正しくありません。英語では、employees with caring responsibilitiesというのが一般的です。和訳すると「介護責任を有する従業員」ということになります。つまり、企業にとって支援の対象はcarer(ケアラー)ではなくemployee(従業員)なのです。
仕事と介護の両立という問題に悩む人は同じですから、ケアラーと呼んでも従業員と呼んでも、どちらでも良いように思うかもしれません。しかし、ケアラーと呼ぶか従業員と呼ぶかは、企業ができる支援の範囲を明確にする上で重要です。
ケアラー支援とはケアラーとして個人が直面する問題を解決したり回避したりできるよう支援することです。その意味で、企業は、従業員がケアラーとして直面する問題の多くに寄り添うことはできません。要介護者との関係、家族・親族との人間関係、友人との付き合い方、介護疲れや介護ストレスによる自身の健康不安等、ケアラーとしての悩みは尽きませんが、そうしたプライベートな問題に企業が立ち入ることはできません。企業ができることは、家族の介護という問題を抱えることになっても従業員としての立場(地位や待遇等)がおびやかされないよう支援することです。
労働法の1つである育児・介護休業法も雇用就業者つまりemployeeを支援する政策です。その目的は介護離職の防止ですが、介護という家族的責任によって雇用就業者としての地位を失うことがないよう支援することが目的だといえます。このように整理することで、仕事と介護の両立支援において企業が果たすべき役割が明確になると思います。
仕事と介護の両立支援は難しい
近年、仕事と介護の両立支援にかかわるコンサルタントが増えているように思います。今年5月に成立した改正育児・介護休業法は、その流れに拍車をかけるように思います。
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