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【徹底解剖】人気の作り手 - 大久保醸造店

紡ぎ舎で最もたくさん売れている作り手の大久保醸造店。長野県松本市にある醤油・味噌づくりの名店です。
ここでは、その大久保醸造店の人気の秘密やどんな作り手なのかについてじっくりと探っていきたいと思います。


大久保醸造店・・・長野県松本市里山辺にある醤油・味噌蔵。創業は明治38年(1905年)で、来年2025年に創業120年を迎える老舗です。商号は、亀甲に喜の「キッコーキ」。一般的なスーパーマーケットの店頭に商品が並ぶことは滅多にありませんが、料理の世界では非常によく知られた名店で、商品の多くは名だたる料亭などに直接納められています。
「日々の料理こそ 明日への命 味は心で 五味調和」をモットーに、「旨み」を追求する作り手です。

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「醸造は時間の味」

大久保醸造店の大久保文靖会長が何度も口にする言葉です。

醸造とは微生物がタンパク質を分解しアミノ酸、つまり「旨み」を作り出すプロセスです。例えば、醤油や味噌なら原料の大豆に含まれるタンパク質が麹によって分解されてアミノ酸が作られます。

この過程はゆっくりと時間をかけて進んでいきます。どれくらいの時間かと言うと「年単位」の時間です。そうやって微生物が少しずつ少しずつタンパク質を分解して旨みを作り出します。逆に言うと時間をかけなければ本当の旨みは得られません。

そのことに愚直に向き合い、微生物たちがしっかりと働いてくれるための環境を徹底して整備し、あとはじっくりと菌の働きを時間をかけて丁寧に見守っているのが大久保醸造店です。

大久保文靖会長。「最近の食べ物は何でも過剰調味」と警鐘を鳴らします。

一例を挙げると、蔵の床下や壁には何トンという炭が入れられていたり、熟成につかう木桶は内側も外側も全て漆が塗られています(ちなみに大久保会長が全てご自身で塗られているのだそう)。それともう一つ印象的だったのは蔵内の清掃の行き届いた様子です。

そんな一つ一つのことが全て「いかに有用な菌がしっかり働いてくれるか。そしていかに余計な雑菌が広がらないようにするか」ということのためなのです。蔵を訪れると、とにもかくにもこの「環境づくり」への徹底した取り組みにまずは圧倒されます。

毎日綺麗に磨き上げられる床
漆が塗り上げられた木桶

「甘い」は「旨い」ではない

私たちもよく思うのですが、世の中「甘さ」を強調した食品に溢れています。例えば果物なんかもそうです。とにかく品種改良を重ねて糖度を競い合っています。個人的にはちょっと甘さ疲れしています。一昔前のしっかりと酸味もありながら自然で優しい甘さを感じる果物が食べたいと思われている方も多いのではないでしょうか。

味噌や調味料も同じです。スーパーの調味料コーナーで商品を手に取ってラベルの裏を見ると原材料にどれほど多くの砂糖が使われていることかと驚かされます。砂糖が使われていなくても、例えば米糀の割合をぐんと高めて甘さを感じさせるお味噌なども多く見かけます。それはそれで伝統的な製法ではあるのですが、大久保会長に言わせると「あれは旨さではない」とバッサリ。「みんな甘いのを旨いと勘違いしている。作る側もそんなに時間をかけられないから手っ取り早く甘さを加えて世に送り出してる」というのが大久保会長の見立て。やはりあくまでも旨みは時間を経なければ得られないものだ、と。

じっくりと時を重ねる蔵

でも確かにそうなのです。例えば大久保醸造店の味噌をいただくと、甘さなど足さなくてもその旨みでしっかりと満足できるのです。そして、色んな調味料をあれこれ加えなくてもシンプルに味が決まります。

ここでまた"大久保語録"が登場するのですが、初めて大久保さんにお会いした時に何度もおっしゃっていて印象に残っているのが「最近の食べ物は何でも過剰調味!舌が痺れちゃうよ」という言葉。大久保醸造店の醤油・味噌を食べ始めると、この言葉の意味が良く良くわかってきます。シンプルで何も加えなくても旨いものをいつも口にしていたら、化学調味料やら何やらで過剰に味付けされたものを食べたらとても味が濃く感じます。私たちも最近外食すると「濃い味だなぁ」と思うことが多々あります。

醤油・味噌というと「塩分」を気にされる方が多いと思いますが、大久保さんは80歳を過ぎても一切血圧等の問題もありません。毎日何杯も味噌汁を飲んでいるというのに、です。おそらく(これは推測ですが)、味噌自体の旨みがしっかりしているがゆえ少量の味噌で、そして余分な調味料を使わずに満足できるから、結果として「減塩」生活が送れているのでしょうね。

最高の素材から最大の旨みを引き出す。

つまるところ、大久保醸造店がやっていることはとてもシンプルなのだと思います。それは「最高の素材から最大の旨みを引き出す」ということ。そしてシンプルだからこそ誤魔化すことが一切できず、シンプルだからこそ品質の高さがストレートに私たちに伝わってくるのです。

「青森の大豆は福士武造さん」などと個人名の挙がる厳選された原料

大久保さんの話を伺っていると、商品に使う原材料はもちろんのこと、自身が普段から口にする食材についても全て作り手の個人名が挙がります。原材料で言えば、大豆や小麦、そして琥珀だし等に使われる本枯れ節や宗田節なども全て「この人」という作り手を決めて仕入れています。

これに限らず大久保さんはとにかく人との繋がりを大切にされる方です。会って、話して、その人を知って、そしてその人が作ったものを知る。そういう方なのだと思います。「いいか、商売は会社と会社がするものじゃない。人と人がするものだ。それを忘れてはいけない」という言葉が印象に残っています。そして、「人と人」ということについては、もう一つ教えていただいた言葉があります。

"道遠ければ馬の力を知り、日久しければ人の心を知る。"

長い距離を行かなければ馬の力量は分からない。そして、同じように人との付き合いも長くなればなるほど、その人の本当のことがわかってくる。という中国の諺です。

調子がいい時だけチヤホヤする人ではなく、長い付き合いの中で、良い時も悪い時も手を取り合いながら、共にいいものを作り上げていけるような関係性をしっかりと築けるような人と商売をしていきたい。そういうメッセージだと受け止めました。

人間同士の信頼関係が一朝一夕には手に入らないのと同様、醸造による旨みもじっくりと長い時間を掛けなければ得られないもの。そしてそれよりももっと長い時間をかけて大久保さんは微生物たちとの揺らぐことない信頼関係を築いてきたのだろうと思います。大久保醸造店の醤油・味噌がなぜこれほどまでに多くのファンに支持されるのか。それはきっと大久保醸造店と微生物たちの信頼関係にしか出せない旨みをみんながしっかりと感じ取っているからだと思います。

販売個数順に見る人気ランキング

どの商品も当店の販売個数ではトップ10に入る人気商品ばかりですが、その中でもたくさんお選びいただいている順に並べてみました。

第1位 美しが原味噌(米味噌)

ほんのり自然な米の甘味が感じられる味噌。1年熟成なのでマイルドで馴染みやすい味噌です。普段のお味噌汁や味噌鍋はもちろん、豆乳味噌スープなどにもとてもおすすめ。迷った方はまず最初はこちらをおすすめしています。


第2位 琥珀だし(万能だし)

白だしのように使っていただける琥珀だし。当店のリピート率No. 1の商品です。和でも洋でも中華でも、ちょっと琥珀だしを足すだけでピタッと味が決まってくれる、まさに「万能」だし。我が家で使わない日はありません。


第3位 万葉乃里(玄米味噌)

玄米と大豆をそれぞれ別々に糀にして仕込み、それを合わせて味噌にするという大変手間のかかる製法で作られています。それを木桶で二夏以上熟成させた長期天然醸造の味噌です。味も香りも別格の深み。麻婆茄子などが引き立ちます。


第4位 紫大尽(淡口醤油)

うす口醤油というと「しょっぱい」というイメージを持っている方も多いと思いますが、紫大尽は旨みがしっかり感じられるきれいな味わい。白いご飯に鰹節を乗せて紫大尽を一回ししてからお湯をかければ、それだけで絶品の出汁茶漬けに。


第5位 紫歌仙(濃口醤油)

濃口醤油は、通常なら半年〜長くても2年熟成が一般的ですが、紫歌仙は3年の長期熟成。角が取れたまろやかな旨みと塩味のバランスがとても良いお醤油。どのお醤油か迷った方にはまずこちらをおすすめしています。年に1回しか搾らない限定醸造。


第6位 甘露醤油(再仕込醤油)

通常塩水と麹を混ぜて諸味にして熟成させるところを、塩水の代わりにお醤油を使って仕込む「再仕込」。とにかくコクと旨みが別格です。しっかりと脂の乗った赤身の刺身や、お料理の隠し味として。


せっかく毎日使う調味料だから、じっくりと丁寧に作られた美味しいものを使ってみてはいかがでしょうか。一度味わっていただければきっと違いがお分かりいただけると思います。

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