世界を壊すのは過去で世界を創るのは未来だけど、過去あるから未来がある
vol.93【ワタシノ子育てノセカイ】
欲するものに手が届きそうなときほど、声を排除し、視野が狭まる。
世界を変えるのはいつだって、声なき声のさらにまた声なき声なのに。耳を済ませば地鳴りするように、いつもほんとは響いてる。だけど痛くてたまならない、と耳を塞ぎつい目前の安心にしがみつくんだ。
いつの時代もそうやって、世界は滅んできたんだろうな。
◇
ところで私には「実子誘拐」で6年以上離れて暮らす、10代のふたりの息子がいる。
◇
2024夏休みの後半戦。私の甥姪らが2.3日帰省することになり、長男タロウと次男ジロウにチャンスがやってくる。
いとこの帰省は母に会う理由として、どうやら認可が下りやすいみたいなんだ。察しているタロジロは8月の前半に、いとこたちがいつ来るかを各々で私に問うてきていた。
当時は日程どころか帰省すら定まっていなかったのだけど、いとこたちも帰省してみなで遊びたい一心だったらしく、子どもとして科せられた日常のタスクを計画的にこなしていたらしい。
結果、いとこ会が18日から開催される運びとなる。総勢9名の子どもたちがおばあちゃんちに大集合した。
◇
子どもたちの曾祖母と食事する運びにもなり、タロジロは7年ぶりに再会を果たす。
曾祖母は私の母方の祖母で、幼少期の多くを私は祖母と過ごしている。夏休みなどはまるまる祖父母宅に滞在するほどだったから、幼いながらに居心地の良さを感じていたんだろう。
もはや育ててもらった祖母と、私までなぜか7年ぶり。いつでも会いに行けたんだけど、実子誘拐以来、どうしても足を運べなかったんだ。
曾祖母のお家へ向かう途中に、タロウが不思議そうに口を開く。「久しぶり過ぎへん?近くやねんからもっと会いにいったげななぁ」。タロジロは昨年亡くなった父方の曾祖母とはそこそこ会っていたので、そらそう感じるだろうに。
一方のジロウはすっかり曾祖母の記憶をなくしていて、タロウと私で曽祖父母の話をするたびに、記憶を思い起こすべくひとり唸る7年を過ごしていた。
◇
私たちには7年ほど暮らしがないので、重ねる日常の時間に、親子の記憶を容易に圧縮されてしまう。
思い出すための、時間がないから、記憶が消えるんだ。
実子誘拐当時、ジロウは5歳。定期的に面会交流できていた、小学2年生くらいまでの記憶も、もう薄れていてほとんどないらしい。タロジロは4学年差あるので、タロウと私のふとした会話にて、ジロウは消えた自分の記憶にストレスを抱える。
だからこそ兄弟で思い出に差異がでると、ジロウはいつも敏感に反応する。5歳から8歳くらいまでは、タロウが思い出話をするたびに「ジロウは一緒におった?」「ジロウはそのとき何してた?」と懸命に自分の存在を思い出の中に探そうとした。
小学4年生くらいからは、面会交流が途絶えて密会ばかりになったから、タロジロと3人で会う時間は激減。家族の思い出は極端に減り、タロウとジロウは各々で母と過ごす時間を重ねている。
まぁそもそも記憶以前に、ジロウには、母と暮らした体験が、ほとんどない。
◇
7年ぶりに再会した98歳の曾祖母は、嘘みたいに歳をとっておらずで驚いた。曾祖母は私の顔を見るなり「まどかやな」と微笑み、手を握って離そうとしない。
幼いタロジロと一緒に遊びに寄った記憶が、湧きあがるようによみがえり、私自身も幼少期まで戻るような感覚に陥る。
自分のルーツを確かに味わえる瞬間に、私はどうしてか自分を見失いそうになった。
久しぶりの曾祖母に対して、タロウは目を細めて挨拶を交わし、ジロウはほぼはじめましての形相ではにかみ、和やかな再会となる。だけど穏やかに流れる空気は瞬で消えて、総勢9名もいる曾孫たちの活気にただただ包みこまれた。
祖母である私の母も、それはそれは嬉しそうで、子々孫々と親子がつむがれる意味を私はかみしめる。
変わらないおばあちゃんの姿に、繋がる命の尊さを改めて味わった。7年も不義理をしてしまい、ごめんなさい。生きていてくれてありがとう。私も今まで、生きていてよかったです。
◇
奇跡の夏休みを過ごせた7月↓↓
ジロウとモスバーガーへ行くことになり、道中にて野球留学の話で盛り上がる。
ジロウはロサンゼルスでメジャーリーグを観戦したい、と2024春から口にしているから、どうせなら野球しにいけばいいやん、と私が話しを持ち掛けたんだ。
するとジロウは、来週にでも行くんか!?くらいの勢いで、あれこれと考えはじめた。12歳のジロウは実はメジャーリーガーになりたい。
夢は膨らむ。「ジロウはメジャーリーガーになれると思うから、ウンヌンカンヌン」と話した私にジロウがすかさず疑問を呈す。
「なれると"思う"なんや?」
私、大失敗。ジロウと夢の話をするときはいつも、私は絶対に言い切りを使ってきた。10代に突入したジロウは当初、未来への言い切りに違和感があったらしく「そんなことない」とか「わからんやん」とか疑問を呈していた。
ところが2024夏、逆の疑問を呈されている。
「思うじゃないな。ジロウはなれるんや」と私が改めると、ジロウは太陽みたいな顔をした。
つづいて「ジロウがメジャーリーガーになったとき、お母ちゃんもアメリカに住むわ」と私。すると「ジロウは遠征でおらへんから、お母ちゃんけっこうひとりになるで?」とジロウが真顔で心配した。
◇
さて8月19日。いとこ会2日目も早朝からタロジロは参戦。昼食時、ジロウがメジャーリーガーになる、といとこと叔母が耳にするやいなや、みんなしてアメリカに飛んでジロウの夢を盛り上げた。
誰ひとりとしてジロウの夢を疑わない。というかもはやメジャーリーガーになっている。しかも半移住して同じ敷地内でみんなで暮らすらしい。
ジロウの顔をのぞいてみると、満ち溢れる自信で輝いていて、タロウはかたわらで静かにエクボ。
いとこのひとりが「私、英語の勉強がんばってアメリカに住むわ!来年はニュージーに留学するし!ジロウの応援するなら英語を喋れた方がいいと思うねん!」とジロウに宣言。
ジロウの夢に自分の夢を重ねて未来を膨らます姪に、ジロウはたじたじになって、もはや誰の夢のはなしやら。
人と交わり繋がることは、自分に厚みをもたらして、世界をどんどん変えて、夢をカタチにしていくこと、なのかもしれないな。
子どもたちは、やっぱり未来だ。
ご賛同が2,000筆を超えました!!
子どもを愛するみなさまと
よりよい社会を子どもたちに贈ります