不条理が人生で世界は矛盾でできているからおもしろい
vol.75【ワタシノ子育てノセカイ】
傷つく体験にて”失う”と”失わない”には雲泥の差がある。傷の深みが違うんだ。
失う傷は命も失いやすい。失った何かを自分だと思い込んでしまうから。失う傷も失わない傷も、だいたい同じ局面で起きるけど、失うと絶望感がわき、失わないと恐怖感がます。
どっちも痛そうだけど、今を未来にできるのは、過去を失って希望を探す、絶望感だけなんだ。
◇
ところで私には「実子誘拐」で6年間離れて暮らす、10代のふたりの息子がいる。
◇
2024年春。受験をがんばった12歳の姪が、お祝いを兼ねて泊まりにやってきた。長男タロウと次男ジロウのいとこである。
前回、いとこ同士で顔を合わせたのは、私の祖母のお葬式にて。ジロウはハプニングに見舞われたので、ほんとに顔を合わせるだけの再会となった。
春休み前の今回、交流できるチャンスが久しくやってきたけど、そうそうスムーズに会えないのが実子誘拐っ子の特長でもある。親子の引き離しがもはや文化となっている日本では、離婚にともない、片側の親族との断絶は日常的に起きている。
自由に会えない親子のみならず、生き別れになっている親子がいても、日本社会はたいして驚かない。助けを求めたとてたいがい言語がかみ合わず、なす術なしとなるのは、単独親権制度に侵された社会病理といえる↓↓
とはいえなす術を見つけていくのが人生なので、ジロウはいとこに会うため、自分なりに考えてあれやこれやと試行錯誤した。
◇
最終的にジロウがとった作戦は、母親との密会交流をやめる、という手段だった。
2021年の離婚後ほどなくして、面会交流が不履行となって以来、ジロウは私と放課後にこっそりと交流をつづけている。だけど実は、とうの昔にバレており、だからこそ条件にされている。
いとこと会うため、母宅で過ごすため、必死に考えるジロウの姿から、裁判所での子どもの人質交渉をふと思い出す。この条件をのめば、子どもに会わせてあげますよ、子どもに会わせてもらえますよ、子どもに会えるじゃないですか。
司法関係者だけかと思ったら、日本社会が子どもをモノ扱いする国なだけだと気がついた。条件を付けて他者をコントロールする教育は、日本のデフォルトだからしかたない。約80年間つづけた単独親権制度の社会は、心を失いつつあるんだろうな。
母親と会えないことを学校に相談してみたい、というジロウの願いもむなしく打ち砕かれた直後でもある↓↓。春休み前の最後の密会交流として、ジロウはいとこに会うために、不条理を呑み込む決断を下した。
ジロウがコントロールできる範囲を模索した結果ともいえるので、理に適っているといえばそうかもしれない。
「お父ちゃんがお母ちゃんから連絡きたって言ってたで」と笑顔の報告もあった。私の連絡により、却下されたいとこ会の参加の道が開かれ、参加条件が「母の車で下校しない」をのむことだったんだ。
ジロウがあれこれ試した結果、母から父への連絡を私に要望し、いとこ会への切符を手に入れたともいえる。
◇
3月19日火曜日は姪が到着する日。タロウの志望校の合格発表日でもあった。姪のお迎え準備にバタバタしていると、タロウから10時半にLINEが届く。
「受験受かった」
時間的に合格発表の直後だろう。受かったことより、連絡がきたことについ驚いてしまい、ほんの少し遅れて、タロウの高校受験に想いを馳せた。
自分の力を最大限に発揮して、学校の勉強をこなせる環境にタロウはない。現に受験が近づくにつれて、思うように学習がはかどらない様子を感じ取れた。習慣という親からの子育てを、失くしてしまったからだろう。
実子誘拐は、子どもの人生を、未来を、これでもかと閉ざそうとする。親というアイデンティティを容赦なく搾取するんだから、生きることで精一杯だ。
自分をぼんやり消されたまま、高校受験をやり切ったタロウに、感謝がこみあげて涙まで溢れだした。
◇
21日、いとこ会。明るい都会っ子である姪の華やかな迎え入れをよそに、シャイなタロジロはたじたじとなる。
12歳の姪は一学年下のジロウが同じ身長になっていて大騒ぎするが、ジロウは喋りたいのに言葉に詰まるし、タロウは笑いながら距離を取りつつ傍観者をきめこむ。
実子誘拐前はしばしば自宅を行き来して、きょうだいみたいに一緒に過ごした。久しく戯れる子どもたちの姿は、すっかり大きくなっているのに、どうしてかあの頃の小さな姿に見える。
確かに成長している子どもたちの傍らで、私の時間だけが止まってるんだ。進め、進め、時間は、刻々と、流れている。
15分もすれば、子どもたちのぎこちなさは、すっかりと消えていた。
◇
近況報告にて姪とタロウの卒業式の話に花が咲き、式典での大人の話はつまらない、と盛り上がる。すると卒業式に参加したばかりの11歳ジロウが、意気揚々と喋りだした。
PTA会長さんが単独親権制度みたいな話をしてたで。血の繋がりがあってもなくても家族やし、とかなんとか言ってて、単独親権制度って単語は使ってないけど、親権制度の話やなって思った。
2時間半も座りっぱなしで暇すぎた、とさっきまで嘆いていたジロウの言葉に、タロウは少し固まり、姪は質問を投げかけ、法改正の話へと移っていった。
一生懸命に言葉を探して説明するジロウの姿に、実子誘拐という社会問題を、ちゃんと自分事にしているんだと私は実感する。あと3年で親権が意味を失くすタロウは、どうなんだろうな。
タロジロとバイバイした夜、眠る準備にはいりお布団の上でゴロゴロしながら、姪と共同親権の法改正について対話した。もちろん姪は自分のいとこたちが、母親に会えなくなっていることを理解している。そろそろ寝ようかという時間にさしかかり、姪が話しをまとめてくれた。
政治って大事やな。
◇
翌日、複線の駅まで二人でドライブして、姪の3泊4日の旅は終わりを迎えた。元気で華やかな時間をくれた姪は、どんな時間をすごしたんだろうか。
姪が帰宅したころ、姪の母である私の妹からLINEがくる。姪がアウトプットしたお泊りの感想について、私との対話時間をあげたらしい。
政治の話をしたこと、親権制度の見直しを国会でしてること、外側だけ変えて内側が変わらない危機なこと、共同親権で少子化がましになるかもなこと。などなど。
私が話した内容をメモしていたわけじゃないのに、こと細かに覚えていたっぽい。姪が妹に伝えたまとめで、LINEは締めくくられていた。
子どもは両親に自由に会えるべき。
いとこ会できた21日は、雪の積もる朝だった。姪は積もった雪を見たことがなく、一度でいいから雪遊びをしてみたかったんだ。季節外れの雪に、受験勉強を頑張ったご褒美かも!とはしゃぐ姪。
朝日が射してきた7時台から一緒に雪遊び。日差しが雪に反射して、姪がいっそう眩しく見えた。
子どもたちは、未来だ。