見出し画像

法とお金と言葉の隷属をふり払うひととき

vol.114【ワタシノ子育てノセカイ

愛が貧しいと違いに恐れる。

共感できない環境で"わからない"と否定して、自分が正しいと信じたくて、わからせようと躍起になっちゃう。違いの否定は怯える姿で、"自分はわかる"という驕り。

ダサい自分こそ、慈しもう。何かを否定したくなるときは、愛してほしいと願っているだけだから。

ところで私には「実子誘拐」で7年以上離れて暮らす、10代のふたりの息子がいる。

2025年1月30日木曜日。下校密会にて、次男ジロウからコンビニへ行きたいと所望される。

理由を尋ねると、お友達の誕生日プレゼントにギフトカードを買いたいという。オンラインゲームのプラットフォームであるロブロックスの、ブロックスフルーツというゲームの「悪魔の実」をどうやらプレゼントしたいらしい。カタカナいっぱい。

予算は3,800円で、お年玉を使うという。ジロウと私の間では、母方縁者からのお年玉は、すべて好きなように使っていい約束になっている。なのでほな買えばええやん、なのに私ときたら、つい口を挟んでしまったんだ。

「小学6年生がお友達にプレゼントする金額として、3,800円ってジロウはどう思う?」って。

つどつど自分を懸命に探すジロウは、時折天井を仰ぎながらも5往復くらい私と言葉を交わす。結果、ジロウは「高い」と判断したけど、どうしてもプレゼントしたいという。理由を尋ねるとジロウは、言葉をいっそう絞り出すように口にして、目からは涙を滲みだした。

「1年に1回しかない大切な日やろ?欲しいもんもらえたら嬉しいやん」

ジロウにとって「誕生日」はかけがえのない日で、3歳の誕生日を迎えるころから、ダレカレかまわずに自慢を積み重ねてきた言葉ががある。「ジロウの誕生日の前は誰の誕生日でしょうか?お母ちゃんの誕生日の次は誰の誕生日でしょうか?ジロウとお母ちゃんの誕生日は一日違いやねんで!」。

実子誘拐されたと知らない5歳のジロウは、誕生日について無邪気に周囲にふれまわり、その翌年もそのまた翌年も、声を大に伝えつづけて今に至る。

なぜか会えない母親と、なぜか遠慮なく繋がれる日が、ジロウにとっては誕生日なんだ。

ジロウと私は、最寄りのコンビニへギフトカードを買いに行き、画面の世界の中で一緒に、プレゼント用の悪魔の実を手に入れた。

そもそもじつは、ジロウには悪魔の実を買った体験がすでにある。2024年の私からのクリスマスプレゼントが、悪魔の実である「ドラゴンの実」だったんだ。

当初、クリスマスに現金が欲しいと頼まれて、何事かと尋ねてみると、ギフトカードを買いたい、となり、ゲーム内のアイテムが欲しい、となり、ドラゴンの実が欲しい、に辿り着いた。

ドラゴンの実を買うためには、日本円をロバックスという通貨に替えないといけなくて、ロバックスにするためにはコード入力が必要で、コードのあるギフトカードを買うために現金がいる、とも説明してくれた。

為替レートと手数料についても質問をすると、後日、レートが20%よくなるサイトを携えて回答をくれた。

結果、ドラゴンの実が欲しくて現金がいるとわかった。私の各種疑問点もジロウはすべて調べあげてクリアにし、どうしてドラゴンの実を欲しいかもプレゼンしてくれたので、クリスマスにオンラインアイテムをプレゼントすることになったんだ。

私にとって不慣れなクリスマスプレゼントやお友達の誕生日プレゼントについて、ジロウと日を渡って断続的に話し合えたのは、下校時間さまさまである。小学校の存在に感謝。

一方で、数日に渡ってジロウとプロセスを追ううちに、私はジロウの生活環境を再認識してジレンマを味わった。

おそらくジロウは「お金は卑しいモノ」という環境で生きている。たとえばクリスマスプレゼントにお金はダメで、何か欲しいモノにするよう言われたそうだ。ジロウからしたら、お年玉や進級祝いと何が違うねん、だろう。

ついでに学校では「お金が山ほどあればほしいものベスト3」を記入する目標シートのような各自の掲示物がある。6年生の1年間、毎学期更新して子どもたちは書き込んでいた。学校の先生たちにとってはもう、お金はあるモノになっているんだろうな。

お金の感覚は、実子誘拐問題に直結する価値観でもある。親子の引き離しがたいしたことない感覚があれば、だいたいお金は卑しいと感じるはずだ。

概念の反転をも厭わない言葉へのいい加減さでもある倫理観の乏しさと、思考停止の環境にてジロウは日々を過ごしている。

ま、親と引き離されっ子の環境は、大方そうなっちゃうよね。そもそも、学校は基本が不条理なので、日本ではある意味、常識的な環境でジロウは生きているともいえるだろう。

お金は目的という結果ではなく、ツールというプロセスで、本来は実体などない。人間に「信じる」力があるからこそ、具現化しているにすぎないんだ。

2月13日木曜日。下校密会にてジロウが、お友達に誕生日プレゼントを買いにいきたいと息を弾ませ車に乗り込む。またしても悪魔の実をあげたいらしく、ジロウのお年玉を使うという。

1回目に口を挟んだ後悔が私にはあったので、今回はジロウにすべてを任せた。前回が高いと判断したゆえ予算は下げて、2,800円らしい。適正価格はわからんが、私にとってはまだ高額だ。

ジロウは友達と一緒に自転車でギフトカードを買いに走り、コード入力とアイテム購入のために一旦、友達とバイバイして私の元へと戻ってきた。オンラインでの買い物は、私と一緒にする約束があるんだ。

プレゼントを買えたジロウは、お友達が喜んでくれるかワクワクしながらも、お小遣い帳とにらめっこを始めた。2020年から記録をつけている帳面で、駄菓子などで10円100円単位の動きはある。

ここひと月でつどつど使った金額をジロウはわかっていて、残高も確認しているけど、合計でいくら使ったかは意識がなかったらしい。というのも丁度、1月の収支を書き込むタイミングだったんだ。じっとお小遣い帳を眺めるジロウが口を開く。

「プレゼントの金額をもう1回考え直すわ。欲しいものをあげたいけど、今のジロウには高すぎる金額やった。ジロウにはいつお金が入ってくるっけ?お金ってどうすれば増やせるん?」

ジロウにお金を学ぶタイミングがやってきました。ロブロックス、お友達、誕生日、その他周辺環境もろもろ、すべてにありがとう。

暮らしがないと、子を見守るには不安ばかりがよぎるけど、大丈夫。やってみないと始まらない。迷っても、ひとりでも、進む道が響くように、感じる心をもうしばらくは、一緒に育てて親子になろうね。



2025年1月貯まる使用済ギフトカード
嬉しくてたまらない12歳のジロウさま
お金と法と言葉をつかう人間でいます!

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集