安里紬
短編小説「私の日」4話をまとめました。 恋愛小説ですが、現代ファンタジーとも言える作品です。 切なくて、泣ける。 そんなお話を書きました。
noteを始めて、ご挨拶代わりに短編小説「私の日」を載せてみました。 私は小説を読むのも書くのも、大好きです。 漫画も読みます。 絵は描けないので、漫画は描きません。 恋愛小説が多いですが、どちらかと言うと、人と人が出逢うことで生まれる変化や、人の成長を描くことを得意としています。 あとは、必ず感動してもらえる作品を心がけています。 人生って、幸せで上手くいくことばかりじゃなくて、辛いこと、悩むこと、悲しいこと、悔しいこと、たくさんの壁に行く手を遮られることの方が多いと
いきなりのお知らせで、失礼しました。 お久しぶりです。 というよりも、noteが活用できていません。 ちゃんとマメに投稿したいなと思いつつ、結局、物語は書けても、noteには何を書けばいいのかわからず… 創作大賞の噂を聞きつけて、恋愛小説を一つ投稿してしまいました。 そして、自分の記事を眺めて気付きました。 大事なお知らせをしていないことに。 小説、出版しておりました!! 「舞い散る桜に、あなたを想う」 文芸社様より、5月刊行。 6月28日には、電子書籍も発売さ
エピローグ 柔らかい陽射しの中で、詩陽は目を覚ました。 背中に感じる温もりと頭に下にある腕の存在にホッとして、詩陽は伶弥を起こさないようにゆっくり体勢を変える。 詩陽の大好きな涼し気な目は、今はしっかり閉じられており、耳をすませば、規則的な寝息が聞こえてくる。熟睡していることを確信し、これをチャンスとばかりに、詩陽はじっくりと伶弥の顔を眺めた。 「……かっこいいなぁ」 昔から整った顔をしているが、年を取るたびにかっこよさが進化しているような気がする。見た目と
第29話 帰ろう 詩陽は目の前に立ち塞がる藍沢を見て、ポカンと口を開けた。 『伶弥のバカ! 伶弥なしでは生きていけないようにしておいて、藍沢さんの方に行っちゃうつもり? 昔も今も私には伶弥しかいないし、伶弥にも私しかいないでしょ⁉』 『今更じゃないですか? 来栖さんの気持ちを知っておいて、その上に胡坐をかいていたのは誰ですか?』 『それは、悪かったと思ってる。でも、手遅れだと言われても、私は諦めない。だって、私の好きな人は、後にも先にも伶弥しかいないから。伶弥、ごめん。
第28話 伶弥の悪夢 伶弥の悪夢は、藍沢が赴任して二日目に始まった。 「来栖さん、小鳥さんと付き合っているんですか?」 唐突に突き付けられた疑問に、伶弥は珍しく言葉を失い、藍沢を見つめる。 「それとも、片想いですか?」 藍沢の真意を探ろうと表情の些細な変化まで留意するも、如何なる感情も思考も読み取れず、伶弥は警戒心を強める。 「藍沢には関係のない話だろう」 「内緒というわけですか」 その瞬間の、藍沢の笑みは背筋を凍らすような酷薄なものに見えた。皆に見せる
第27話 ぶつかる想い 詩陽は雑音の中から、的確に藍沢の声を拾っている自分に嫌気がさし、デスクに頭をぶつける衝動を堪えることができたのは奇跡だと思った。 詩陽のデスクから少し離れたところにある伶弥の席とその隣に設けられた藍沢の席。大した距離はないはずなのに、それがやけに遠く感じる。伶弥の外泊問題は解決したが、藍沢との問題は未解決のままだった。 「あ」 口から思わず声が漏れ、慌てて口を塞いだ。藍沢の手が伶弥のスーツの裾を掴んだのだ。それを伶弥はそのまま好きなように
第26話 宣戦布告 詩陽は玄関の開く音が聞こえた瞬間、ソファーで姿勢を正した。反射のようなものだったため、自分の行動に首を傾げる。そうこうしているうちに、伶弥がリビングに入ってきた。 「詩陽、ただいま」 「おかえり。ご飯は?」 時計を見ると、既に二十一時を過ぎている。 「簡単に済ませてきたわ。ごめんね、一緒に食べられなくて」 「ううん、気にしないで。毎日遅くまで大変だね」 気にしないでなんて、心にもないことを言ってしまったと、内心で嘆息する。 本当は藍沢と
第25話 ライバルは、突然に 冬も深まり、時折豹変する伶弥にもようやく慣れてきた、ある朝。詩陽は目の前に立つ女性を見て、無意識に握った手に力を込めた。 「今日から、企画部で働くことになった藍沢瀬里さんだ」 「藍沢瀬里です。よろしくお願いします」 部長の隣に立つ藍沢はふわふわパーマのかかった明るい茶色の髪を持つ、二十代前半の女性だ。ぱっちりとした目に、艶のあるぷるんとした唇。背は低いが、スタイルはよく、とても目を引く容姿をしている。 「来栖、いろいろ教えてやってくれ
第24話 事件の顛末 詩陽は光を感じ、ゆっくりと目を開いた。 特徴のない白い天井に、クリーム色のカーテンが見え、静かな中に時折、機械音と小さな話し声が聞こえてくる。 詩陽は白いシーツのかけられた掛布団を跳ねのけて、勢いよく飛び起き、周囲を見回してみた。足元の方で何人かの看護師と医師が行き来しており、遠くには見慣れない機械が見える。 「あ、あの!」 大きな部屋にいることに気付き、声を出すことを躊躇ったものの、控えめな声で近くを通った看護師を呼び止めた。 「あ
第23話 駆けつけてくれるのは、いつだって 玄関のチャイムに気付き、詩陽は顔を上げた。 突然訪れた人の気配に心臓が跳ねる。ここに自分がいることを知らせることができない以上、助けが来るはずはない。期待してはならない。 詩陽はそう思って、ずっと膝を抱えて涙を堪えてきた。このチャンスを逃せば、二度とここから出られなくなるのだと思うと、否が応でも緊張は高まっていく。 詩陽はドアをジッと見つめ、息を殺した。この部屋は玄関からそれほど離れていないため、大きな声を出せば聞こ
第22話 消えた宝物 詩陽が甲斐に監禁されている頃、伶弥はまだ会社にいた。伶弥はデスクに置かれた書類から目を離し、今は誰もいないフロア内を見回す。 昨夜の可愛らしい詩陽に想いを馳せ、伶弥は熱い息を零す。物心ついた時には既に詩陽に想いを寄せていたのだから、片想い歴はかなりの長さを誇っている。 正直なところ、鈍感な詩陽に伶弥の想いがどの程度届いたのかはわからない。これまで冗談のように伝えてきた自覚はあるから、それも自業自得だと思っている。 それは恋愛方面に疎く、男
第21話 伝えられなくなった想い 詩陽がはぁっと大きく息を吐くと、星が瞬き始めた夜空に吸い込まれていった。これから夜が更けていくと、更に星が綺麗に見えそうな天気なのに、詩陽の心はどんよりとしている。 「本当は幸せだったりするんじゃないのかな」 初体験を終えたばかりなのに、どうしてこうもモヤモヤするのか。昨夜は確かに嬉しいと思ったし、今朝も甘い伶弥を遇いながらも、心は満たされていた。体の気怠さも照れくさかったが、嫌ではなかった。 それなのに、心葉との会話で自分が返事
第20話 初めての恋バナと詩陽の失言 「もう我慢しないでくださいよ」 唐突に聞こえた心葉の声に、詩陽は飲みかけていた紅茶を吹き出すところだった。 現在、詩陽は心葉と一緒に、社員食堂で昼食をとっている。そこで偶然会った西村も合流して、わりと平和に食事をしている最中のはずだった。 詩陽が噎せながら、恐る恐る心葉を見てみると、その視線は西村の方へ向いていた。心葉の言葉も西村に向けられたものだとわかり、ホッとしたはずが、動悸は未だに治まらない。 昨夜、伶弥に言ったば
第19話 遠慮するのは、もうやめる 程よく温まった体に、冷たいお茶を流し込む。それから、詩陽はほうっと息を吐いた。 「お風呂、最高……」 一人の時も入浴時間は大切にしていたが、詩陽の自宅よりも広い浴室のお蔭か、伶弥のマンションで入る湯船の方が疲れは取れる気がする。 カフェを出た後、二人は昼食をとると、ウィンドウショッピングをして、公園を散策し、夕飯の材料を仕入れて帰ってきた。夕飯は今年初の鍋だった。 きのこたっぷりの鍋はヘルシーで、出汁のきいた風味は詩陽の体
第18話 街中でのキスは禁止します 「いい話だった!」 詩陽は両頬を覆って、うっとりと宙を見る。家族愛を描いた洋画で、評判通り、いや、期待以上の出来の作品だった。派手さはないが、家族それぞれの心の揺れと絆が上手く描かれていて、詩陽は大満足である。 向かいでコーヒーの飲んでいる伶弥も満足そうな顔をしている。 「ええ、いい話だったわね」 映画好きの伶弥も楽しめたことが嬉しくて、詩陽は満面の笑みで紅茶を口に運んだ。 二人は映画鑑賞の後、近くにあるカフェに入り、余
第17話 朝の挨拶が足りない 澄んだ朝の空気に、落ち着くいい匂い。体に少し倦怠感はあるが、憂鬱になるほどではない。 詩陽は、はふっと欠伸をして、目を開けた。白い天井が目に入り、手元を見れば、アクアブルーのシーツに覆われた掛布団が見える。 「ん?」 詩陽のベッドでアクアブルーのシーツを見たことはない。新作だろうかと考えたのは一瞬こと。 「おはよう」 すぐ真横から聞こえた低く掠れた声に、詩陽の心臓は転がり出るところだった。 「おおおおお」 恐る恐る横を見