大河ドラマ「光る君へ」第三十八話「まぶしき闇」所感
清少納言
冒頭のこのシーン、私は割と素直に見ましたが、今後ひっくり返るかもしれません。
源氏の物語を絶賛しながらも「恨んでいる」と言い、されどまひろのことはちょいちょいけなしながらも「腹を立てている」と言ったファーストサマー納言。これまでことあるごとに訪ねてきてくれるお友達として「まひろを恨んでいる」とは言いません。この感じをこの上なく可愛らしいと思ったのは私だけでしょうか。
対してまひろは無神経すぎると思ってしまいました。あれだけ「光り輝いていた皇后定子さま」を大事にしてきたききょうに対して「藤壺にいてくれたら」なんて口が裂けても言っちゃいけないでしょうよ。どっちかっていえば、中宮彰子さまだって定子さまとは従姉妹なのだから、その点強調してみたら良かったのに。ちなみに、ドラマではカットされていますが、定子さまの妹というのもいたらしいです。
ききょうは全部分かっているんですよね。左大臣道長の心や帝の心がどう動いたか、まひろがそのために何をしたか。でも「腹を立てている」と言いました。ここで「まひろを恨んでいる」と言ってしまえば友情はおしまい。友人同士でも「腹を立てる」ことはあります。この友情は、続いて欲しいけれど、まひろはそんなことに気づかず紫式部日記に納言の悪口書きそう。ほんと、主人公がそれでいいんでしょうか。
呪詛
不思議なのは、隆家が平気なことですが。
「公卿たちから白い目で見られる中、参内するのはかえって酷。」たしかし。伊周自身はそう思っていないからでしょうけれどね。帝にとっては敦康親王も敦成親王も同じ息子です。けれど帝、彰子中宮さまに伊周のことは相談しちゃダメよ。覚醒後の彰子さまだから神回答できたけれど、普通の女子はあんな風に答えられるものじゃないですからね。
この呪詛云々に挟まれたシーンでも、道長と頼通の会話。道長的朝廷観というか天皇観というか。「どのような方でも構わぬ」は言い過ぎかと思いますが、ワンチャン花山でも冷泉でも良かったってことでしょう?今の一条帝も、道長と表立ってバチバチに対立したら(折れなくなったら)下ろすってことを宣言した模様です。兼家パパはどちらかといえば鎌倉殿の義時と同じで「自分の家が政治を仕切るのが国のため」くらいに思っていた。その兼家パパとの違いを自分に言い聞かせるように「家のため、ではない」と、過剰なタメを作っていました。
参内停止が引き金を引いてしまったのか、ついにイッちゃった感がする伊周。ついに食べちゃった、お札。それどころか、呪詛の紙札をばら撒くマッドな姿を見せました。ちゃんと体調も管理できていないようで、歩くのも話すのもままならず、身支度も整っていないのでした。
以前、呪詛には形代が必要という裏設定があるのではという予想をしました。明子女王さまが兼家パパを呪詛したとき、最初の子を死産したように。伊周の場合は自分の心と体を、形代にしたのでしょう。
史実では、伊周自身はこの呪詛に関わりなくとばっちりだったようですが、ドラマでは別口でがっつり呪詛。どうも何とも。
月夜の宮の宣旨
月を見ながら道長以外の人のことを考えることがあるんやね、まひろ。で、思い出していた納言の言葉が「私の命は……」のくだりかいっ!と突っ込みたくなりますが、まひろはきっと納言が羨ましいんでしょうね。自分が惚れ込んだ主のために、命を懸けていると言い切れる納言が。まひろ自身も、生まれてきた意味を探し求めていたはずですが、何だか違う。まぁ、このドラマで今の状況で、まひろにそれ思われちゃ何だかドラマとしてパッとしませんが、それはもういつものことです。こんだけ源氏の物語が寵愛されているのに、生きている意味を見出せない紫式部なんて、じゃあ何のドラマなんだと言いたい(言ってるよ)。
そのドラマの根本を揺らがしまくっているまひろの回想を気持ちよくぶった斬ってくださったのが、宮の宣旨さま。いつもの理想系女房の姿はどこへやら「生きるためにここにいるのであろう?」と優しく現実をぶっ放します。ただ同時に、この人がはじめの印象と違ってただひたすらに厳しくも優しいマクゴガナル教授系の理想の上司なのは、その現実を受け入れているから。この人だけでなく、藤壺で上級女官として働いている人たちは、自身が女御であってもおかしくない血筋のお嬢様ばかりです。宮の宣旨は倫子さまや明子女王さまと同じく皇統からさほど遠くない血筋。倫子さまのパパは昔、微妙に年齢の合わない倫子さまをどの天皇の后にしたらいいか分からなくなってしまっていました(つまり后がねであったことにはかわりない)し、倫子さまの子の彰子さまが中宮なのですから、それくらいでもおかしくない。でも、宮仕の女房です。まぁこんなものですよ、生きていくには都合がいいのよと割り切って働いているからテキパキ仕事もできるのです。後から成り上がってきた中級貴族のまひろにも別に嫉妬しない。人のこともよく見ているから、多分まひろが裏でガチャガチャ言われつつもそれとなくかわしてきたのも見ている。っていうか、まひろが賢子のことをあんまり喋んなかったり、そもそも賢子を連れてきていなかったりした時点で、よっぽど隠したいほどか仲良くないかで、まひろの性格見るに後者だということは想像できるけれど、まあ機会があったから言ってみる。ほっとかない。
この人主役のスピンオフ回が欲しいと思うほど、一気にファンになってしまった、達観具合が半端ない宮の宣旨さまでした。
道長ぁ〜
倫子さまとの会話は、あらゆるところでノンデリカシー夫の烙印を押されていましたね(笑)。「そりゃそうかもしれないけれど、それを言っちゃいけないでしょ」というやつです。確かに、倫子さまからの猛アタックがあったからとはいえ、いやだからこそ、良い妻で良いおなごであると言ってあげないとね。こんなに十二単の似合う女優さんがやっているんだから(そこかい)。
とにかく、変にまひろとくっつけたまま離さないものだから、道長もなんか変です。
それに、やっぱりまひろの局に行きすぎ。おまけに、賢子をも手元に置こうとする。何だか、道長が最近誰とも会話が成り立たず、ギクシャクしているように見えました。
その他
・紫式部の紹介で和泉式部?ほんまか?
・離婚した旦那の官職にちなんだ女房名は、確かに嫌や。
・親王さまを愛していかた知らんが、立ち直っとるやないかい!
・宮のうんちゃらは、目の前の上司のお名前だからね。
・和泉式部日記も、まひろが最初の読者かいっ!
・「書くことで悲しみを救う」のは、本来紫式部であったはず。あ〜あ。
・藤吹雪が綺麗すぎる。貝合わせもいいわ〜。それを、肝心のまひろは見ていない。
・よく考えれば、藤のある藤壺の女房で、いくら苗字が藤原でも「藤式部」はすごい。藤原氏の女房なんて沢山いるはずなのに。
・明子女王さま!「道長が道綱を大事にするように。頼宗を大事に」って、そういう発想ね〜!それは過ぎた願いだとは思えないけれど。
・道長が「彰子を慕う敦康」を「藤壺を恋慕う光る君」と重ねて敦康を中宮から遠ざけにかかったのだとしたら、まひろの罪が重すぎる。
今日もお付き合いいただきまして、ありがとうございました。