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思春期の息子と俺【小説】1,108字
息子とドライブ中、そろそろ飯時だと思い話しかける。
「どうだ、何か食いたいものあるか?」
「何が食べたいと聞かれれば好物の寿司がいいという考えもある。でも、写真や現物を見ながらあれこれ選んでみたい気もしている。そうやって冒険した食事をするのもいい」
小六の息子はなにかにつけて、こういう小難しい言い方をするようになってきた。頭良く見られたいのか、特別な自分を演出したいのか、はたまたアニメか漫画のキャラに影響されているだけなのか、特に心配はしていない。思春期早期の人格形成の時期にはこんな風に極端になることもあるのだろう。
俺が子供の頃もこんな感じだった。それを親父やお袋にからかわれて傷ついたものだ。そんな思いを息子にはさせたくはない。だから、俺は決してからかわないようにしている。
「じゃあ、あそこのファミレスにするか」俺はそう言って車を店の駐車場に停めた。
「看板に子供のイラスト……これじゃあ人間の子供の肉を食わせる店だと勘違いする奴もいるかもな……」
息子は誰に聞かせるでもなく、まあ、俺に聞こえるように言っているのだが、そんなことを呟いている。
「おいおい、怖いこと言うなよ。サイコパスだなぁ」こんな風に息子が喜ぶようなことを言ってやる。
この頃の子供はネットに落ちているなんちゃってサイコパス診断をやって、わざとサイコパスになるような解答を選び、「自分、サイコの自覚ありませんが」という顔でサイコ診断高得点を出すのが好きなのだ。
「サイコ、パ、ス……? でも、豚カツ屋には豚の絵が書いているし、焼き鳥屋にはニワトリの絵。その法則から言って至極普通の発想だと思うが……」なんてブツブツ言っている。これは喜んでいるのだ。
店に入り、俺はキツネうどんとネギトロ丼のセット、息子は寿司の盛り合わせを頼んだ。
「結局、寿司を頼んでしまうとは。これも人間のエゴか」なんて息子は言っている。それを言うならエゴではなく性じゃないのかと思ったが、指摘はしなかった。
腹を満たした俺たちは再び車に乗り込む。目的地まではもうしばらくかかる。
「着いたら母さんを降ろすの手伝ってくれよ。降ろしたら後は父さん一人でやるからさ」
「うん、でも、目玉だけはくり抜いておこうよ。ホルマリン漬けしておきたい」と息子。
「おいおい、サイコかよ。でも、やるとしてもホルマリンは毒性があるから気を付けろよ」
軽口を叩くようなことを言ってはいるが初めてのことに緊張しているのだろう。子供っぽい口調に戻っている。子供の頃、俺が初めて親父の手伝いをした時もそうだった。
「母ちゃんの顔の皮だけは取っておこうよ。父ちゃんが再婚した人に被せよう」なんて意味不明なことを言ったっけ。懐かしい。
2021年10月
見出し画像に写真をお借りしました。
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