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大人の言葉
小学生の頃、ソフトボールチームに入っていたので、日曜は大抵試合だった。
朝早くに集合し、誰かしらの保護者の車に振り分けられ、試合会場であるどこかの小学校へ移動という流れが、僕にとっての日曜だった。
そして、車の振り分けは大体決まっているのだが、何故かある日は、幼馴染のY君と一緒にN先輩のお父さんの車に乗ることになった。
N先輩のお父さんはとてもおおらかで、今となってみれば「ゆるい」と言われるような雰囲気の持ち主だった。
車内もその空気感のままに、くだけた時間が流れていたのだが、その中でいまだに忘れられない一言がある。
それは「全ての道はローマに通ず」という言葉だ。
渋滞をしていたのか、道を間違えたのか、そこに至るまでの経緯は全く覚えていないが、確かN先輩のお父さんは「焦ることはない」といった意味合いで言っていた記憶がある。
本来の意味とは少し違う気もするが、当時の僕はとても衝撃を受けた。
さらにN先輩のお父さんは、話の流れで「ホームランを打ったって、三振したって、何したっていいんだよ」といったことも笑いながら言っていた。
「こんな大人もいるんだ」
僕とY君は驚いた。当時はその感情をどう表せばいいか分からなかったが、今は一言で言い表わすことができる。
「素敵」だ。
もちろんあれから、N先輩とも、N先輩のお父さんとも、接点は何もない。
しかし、あの日の言葉は、しっかりと思い出している。
「僕もいつか、娘たちの記憶に残るような言葉を渡せられたらいいな」
そんな大人になれるよう、頑張ろう。