「青色の瞳の少年とカモメ」

青い海と空の境界線とたなびく雲。
大きな弧を描いて飛ぶカモメ。

「カモメは海を渡るんだ。
海を渡っていろんな国の景色を見て、
またここに戻ってくるんだ。」
幼い頃に父が教えてくれた。
父の瞳は深い青色だった

広い空を自由に飛んで、
いろんな国の景色を見てみたい。
この思いは年々強くなった。
僕はよく空を眺めて父さんの言葉を思い出していた。
僕の瞳は青さは深まっていった。

「空ばかり見てるからだわ」
母さんは呆れていた。

15歳の頃、リリエンタールの
カモメ型グライダーを自分で描いた。
リリエンタールは鳥が飛ぶ姿を研究して、何度も何度もグライダーで飛んだらしい。
得意げに母さんに見せると、
「本当にあなたは変わってる。でも私、これに乗って自由に飛んでみたいわ!」
と嬉しそうに笑った。
カモメ型グライダーの美しい曲線を見たら誰だってみんな、自由に空を飛んでみたいと思うに違いない。
リリエンタールも、カモメを見て自由に空を飛んでみたい、いろんな国の景色を見てみたいと思ったのだろう。
もしかしたら、変わり者と思われていたかもしれない。

僕は17歳になった。軍に入ることになった。
行われている戦争の相手は弱小の島国。
すぐに戦争は終わって家に戻れると思われた。

しかし、戦争は思いのほか長引いた。
僕は家に戻れることなく18歳になり、
僕は町に爆弾を落とすための戦闘機にのることになった。
その日、僕の顔は青い瞳より青ざめていただろう。
暑い夏の日なのに、手の震えが止まらない。
それでも、僕の戦闘機は飛び立った。

上空からのどかな山並みが見える。
その先には広い川が三本横たわっていた。
川には立派な鉄橋がかかっていた。
他の戦闘機が橋に向かって焼夷弾を撃ち始めた。
僕は飛行機を川の上空で右へ旋回させた。
川の先に広がる海の方へ。

大きく美しい弧を描きながら
僕の戦闘機はリリエンタールの
カモメ型グライダーになった。

カモメは海を渡るんだ。
海を渡っていろんな国の景色を見て、
またここに戻ってくるんだ。

戦闘機はゆっくりと海へと舞い降りた。
そして静かに沈んだ。

word by Tsukushi🍀

2024年8月17日

※オットー・リリエンタールは鳥の羽根による飛行を研究し、グライダー型の飛行機で2,000回以上の実験をおこない、のちにライト兄弟をはじめとする航空パイオニアの人々に多大な影響を与えたそうです。

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