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パンの耳にラヴソングを

神父さま。

私の話を聞いてください。

私は食パンの耳が大好きです。いえ、愛しています。

しかし耳以外の場所、あの白い部分が大嫌いなのです。


ミチコが大嫌いなのですよ…!


食パンの白い部分の名前は「パン」?
ミチコは「パン」と呼ばれているのですか?
やっぱりあいつは天下の大嘘つきです。あいつはね、パンなんていうよそよそしい総称じゃないんですよ。ミチコというんです。そうやって彼女は真実を殺し歩いて生きてきたのですよ。きっと私以外は誰も知らない。私はミチコと呼ばせてもらいますよ。
だって憎しみには物語がなければ。物語にはキャラクターがいなければ。キャラクターには名前がなければ。


ミチコはいつだってフワフワしています。焼く前なんて特に。焼いた後はいくらかカリッとするのですが、やっぱり中はモチフワしっとりです。多くの人はミチコのそういう所が好きなのでしょう。きっと彼女自身も愛されポイントは理解しています。でなければ「ランチパック」なんてものは生まれないんですよ…!

神父さま、あなたはランチパックこそがこの世の楽園だと思ってはいませんか?ミチコと、よく味付けされた具だけが存在する世界。悪のない満ち足りた世界。フワフワモチモチした世界。

では聞きましょう。耳はどこへいったのですか?ランチパックになれなかった耳の部分はどうしたのですか?


答えてください…!!


そうですか、楽園とは排除によって成り立っているのですか。
誰もが幸福になれるシステムではなく、価値なきものが追い出されるシステム。


私はそうやってパンの耳が虐げられるさまを何度も見てきました。

隣の席のヤマザキは、給食で食パンが出ると耳だけ引き出しにいれて隠すようなやつでした。私はそれが許せなかった。だからヤマザキが隠すたび、私はそれをこっそりと家に持ち帰りました。そしてポタージュのようなものにひたして愛でたのです。

時には高温の油で揚げて、砂糖なんかをまぶしてやることもありました。そしたら「これが私なの…?」なんて言うわけですよ。おめかしした自分を見てはしゃいでいました。そういう日は決まってホットミルクで愛でてやるんです。


いつものように給食には食パンが出され、ヤマザキはそれを引き出しに隠しました。だから私もいつものように、こっそり連れ出そうとしたのです。でもいないんです。あるのは教科書やノートだけ。確かに見たはずでした。

鼓動が、徐々にはやくなっていくのを感じました。
一番上に積まれていた教科書をどかしました。
こんなところにいるはずないのに二番目も。
三番目も。
四番目も…。
そして最後。



ヤマザキィィィィィィィィィィィィィィィィ…!!



圧縮され、平たくなったパンの耳がありました。



手に取るとポロポロ崩れて、窓の外をみると夕日が射していて、教室はとても静かで。
だから、泣いたんです。

私で、ひたしたんです。


ヤマザキが憎かった。だけどもっと憎かったのは、そうさせてしまったミチコでした。
ミチコが愛されモチフワしっとりだから、パンの耳はそれと比べられてしまう。ミチコより堅いパンの耳は嫌われてしまう。
比較という行為が価値の優劣をうみだしてしまうんですよ。


だから私はそれを変えてやろうと思うのですよ、パンの世界から。

私はいままでの食パンの製法をぶち壊す。
それによってミチコはぜんぶ堅くなる。耳よりも堅くなるんだよ。
そうしたらどんなことが起きる?

みんながパンの耳を愛するようになる、そうだろ?


全てのミチコはラスクみたいに堅くなっちまうのさ。


神父さま、神を信じるあなたにランチパックを渡しましょう。
偽りの楽園を拝めるのも最後なのですから。


「迷える子羊よ、これを」


山崎製パン|ランチパックスペシャルサイト|ランチパック関連商品




神父さまこれは…。

ああ!
ランチパックから排除された耳は「ちょいパクラスク」という別の商品になっていたのですか。
私はなんということを…。
楽園はひそかにつくられていた、ということですね。


でもいったい誰が?


山崎製パン…!


ヤマザキが壊し、ヤマザキが創る。


主よ、感謝します。



-おわり-

photo by shamaasa



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