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デジタル化なのにアナログ仕事が増える マイナカードに見るガラパゴス症候群:佃均

TOP写真は筆者の許に届いたマイナンバー電子証明書更新の案内

 どうやらマイナンバーカード(マイナカード)と健康保険証の一本化は予定通り、12月2日に実施される見通しです。そこで今回はマイナーカードを取り上げました。

 筆者の許に「マイナンバーカード・電子証明書 有効期限通知書 在中」と表書きされた封筒が届いたのは今年の7月でした。5年ごと・誕生月の更新ということから、ご推察の通り、筆者がマイナンバーカードを取得したのは2019年、誕生月は9月です。
 ITの利活用に軸足を置いて取材・報道活動に就いている関係から、当然ながらマイナンバーがらみのシステムに関心があります(「した」というべきかもしれませんが)。住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)のしがらみから抜け切れていない、重要なのはデジタル(=マイナンバー)の利活用でアナログ)=プラスチックカード)の普及ではない、マイナ保険証は市町村ごとの医療助成制度とリンクできず診察券としても使えない等々、当事者には耳の痛いことを書いてきたのは事実です。
 カード取得を決めたのは、元号も変わることだし、マイナンバーとマイナカードの利用という観点から記事を——ということでした。ですが毎年3月の確定申告だけでなく、持病による2か月に1回の検診+調剤薬局と、1年を通して合計13回、ばかりでなくここ数年は官公庁に入る時の身分証明としても使っています。

■何も変わらない。でもそういうことになってまして
 入館時の身分証明はともかく、病院や薬局では紙の健康保険証の方が簡単です。紙の健康保険証の場合、利用者は窓口の係員に渡すだけでいいのですが、マイナカードだと読み取り装置にセットして顔認証か暗証番号の入力かを選ばなければなりません。そのあと過去の投薬や検診の情報を医療機関に提供するか、合計4回の「同意」「不同意」をタッチして初めて認証完了となります。
 過日出向いた総合病院で眺めていると、紙の保険証だと1人につき数秒、マイナカードだと30秒前後、暗証番号を間違えたりすると1分以上かかるようです。これで今年の12月以後、マイナ保険証ファースト/資格確認カードが混在となったら認証端末の前は大行列でしょう。
 混雑を回避する→端末台数を増やす→病院の設備投資が増える→医療サービスが低下するなら、本末転倒ということになってしまいます。それを過渡期の一時的な混乱ととらえるか、政府の強引な推進策の弊害と見るか、見解は分かれます。
 それはそれとして、本題はマイナンバーカード電子証明書の更新についてです。てっきりカードそのものを更新する(つまり新しいカードになる)のだと思っていたのは、“ITジャーナリスト”として何とも迂闊でした。近くの支所窓口で行ったのは、作成時に登録した4つの暗証コード(署名用、利用者証明用、住民基本台帳用、券面事項入力時補助用)を確認しただけだったのです。
 ——えっ?
 思わず声が出てしまいました。
 ——何も変わりませんよね?
 と筆者。
 ——そうなんですよね。
 申し訳なさそうに窓口の職員が答えます。

■アナログ仕事を増やして数年後は人手不足
以下、窓口職員との雑談。
 ——何のために私はここまで来たんでしょう?
 ——すみません。そういうことになってまして……。
 ——なぜ手続きするのか、ご存知ないんですか?
 ——知らないんですよ。
 ——私が取得したとき、発行枚数は1600万枚ぐらいでしたから、今はこんな感じ(窓口はガラガラ)ですが、3年後、4年後はたいへんなことになりますね。
 ——そうですよねぇ。マイナポイントで何倍にも増えましたから。
 ——今度は健康保険証がなくなるでしょ?
 ——でも資格カードは発行されますからご安心ください。
 ——私は健康保険も紐づけてますけど。
 ——一本化したって資格確認カードと併用。病院も役所もたいへん。
 ——その次は運転免許証も、ですもんね。
 ——落としたりしたら再発行が面倒になりそう。
 ——何も変わらないのに仕事を休んで手続きに来るって、どれほどの経済損失になるんでしょうね。
 ——はぁ……
 というあたりでそろそろ迷惑そうな空気が漂い始めました。
 何のためかを知らないのは当該窓口職員の問題だったとして、そもそも必要な手続きなのか、おおいに疑問でした。マイナカードの暗証番号/パスワードはマイナポータルで再設定できますから、同封されていた総務省・地方公共団体情報システム機構(J-LIS)名の案内書にある「お住まいの市区町村窓口へ」の文言は何なのでしょう。
 市区町村窓口職員のアナログ仕事を増やした挙句、数年後は人手不足に追い打ちをかけることになってますよね。何がデジタルか、と言いたくなってきます。

■ガラパゴスの平和にどっぷり
 デジタルを前面に打ち出しながら、その実はアナログで処理する本末転倒を、筆者は「ガラパゴスの平和」と呼んできました。外界から遮断された小さな島、自分たちに都合がいいルールに従っていれば無難に生きていける。
 昔からの習慣や仲間内のルールを変えるなんて、さらさら思ってもいない。何か新しいモノや考え方が必要でも、これまでの習慣やルールの範囲で対応する。そんなぬるま湯に浸かっているうち、世界は遠くに行っているでしょう。
 いや、今々の世界なんて関心はない、ガラパゴスなりの進化を遂げ、それが世界を征するんだ、と言うのなら、それなりの意味はあると思います。ひょっとすると260年に及んだ江戸時代はおろか、1万年を超える縄文時代こそ理想郷かもしれません。
 デジタル・トランスフォーメーション(DX)が話題になったのは2018年9に経済産業省が公表した『DXレポート〜ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開』がきっかけでした。以来、なにかにつけてDX、猫も杓子もDXで、最近は鮮度落ちが目につきます。
 社長「うちはDXをいつ導入するのかね」
 情報部門長「いや事務機器じゃないんですけど」
 というような“なんちゃってDX”が溢れかえっています。
 自治体DXも似たりよったりです。
  手続きからハンコをなくしました
  もうフロッピーディスクの時代じゃないですよね
  確定申告に領収書は要りません
 などはトの当然。まず職員の負担軽減。それがDXが目指すべき最初のゴールなんですよ。

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