【第2回】茨城県つくば市で20年間ディープテックベンチャー支援をしている「つくば研究支援センター」ってどんなところ?(石塚ベンチャー・産業支援部長インタビュー<後編>)
こんにちは!つくば研究支援センター(Tsukuba Center Inc.)のnote編集部です。5月のゴールデンウィークを終え、日中暖かいと感じられる日も増えてきましたが、みなさまいかがお過ごしでしょうか?つくばの公園では、新緑が美しく、少しずつ夏の訪れを感じるようになってきました。私たちも、この季節に合わせて、新しいことに挑戦したり、新たな出会いを求めたりすることも大切かもしれませんね。
さて、note第2回の記事となる今回は、前回に引き続き、つくば研究支援センターの石塚ベンチャー・産業支援部長のインタビューをお送りします。
<前回の記事はこちら>
石塚ベンチャー・産業支援部長インタビュー(続き)
ーところで、石塚部長は、お仕事と子育てを両立されていらっしゃったと伺いました。両立のためにどのような工夫をしてこられたのでしょうか?
仕事と子育ての両立は、今も多くの家庭が悩みを抱えている点だと思います。今は子供も成長しましたが、当時は児童館など子供を預かってもらえる施設が今ほど充実していなかったこともあり、私自身子供が幼い頃は大変なことがたくさんありました。
そんな中、夫と自分の両親には本当に支えていただいて、感謝してもしきれないという感じです。どうしても仕事で抜けられない場合などは、子供の面倒を代わりに見てもらったり、夫と交代で子供を迎えに行く体制を組むことでなんとかやりくりしていました。思い起こすと、本当に両立できていたかは自分でも自信がありませんが…。
でも、忙しい中でも”ここは大事にしようという”というポイントを決めていました。家事の中でも、自分は料理が好きだったので、家族にはおいしい食事を食べてもらおうということで、そこは力を入れて毎食自分で作っていました。家族に「美味しい」と喜んでもらえると、大変でも頑張ってよかったなと思えます。ちなみに得意料理は「茶碗蒸し」です(笑)
現在、当社のスタッフの多くが現役の子育て世代です。それぞれ大変なこともあると思いますが、チーム全体で助け合って働きやすい環境をこれからもみんなで作っていきたいと考えています。
ーつくばのディープテック・ベンチャーが抱えている課題について教えてください。
多くのベンチャー企業と話していて一番多く寄せられる相談は、「会社の経営者をどうやって確保すればいいか」というものです。
つくばには先端領域を切り開く研究者が数多くいらっしゃいますが、その中でビジネスサイドの経験も有する方というのは本当にごく稀です。いざ起業して会社経営を行うとなると、営業やマーケティング、資金調達など様々なタスクを同時並行的にこなしていくことが求められますので、研究者の方が自分一人ですべてを回していくことは難しく、経営チームの組成が事業成功の鍵を握ります。
そのため、つくば発ベンチャーにおいて外部から経営人材を採用したいというニーズはとても高いのですが、そんなに簡単に見つからない、というのが現状です。また、せっかく見つかったとしても、研究者の方との相性や考え方が合わず、短期間で会社を去ってしまうケースもあります。
特にVCから資金調達を行うような局面では、経営陣のチームアップも重要な判断材料になるわけですから、こうした人材面での課題は重要です。そもそも、ビジネスサイドの経験を持っていることに加えて、最先端の研究開発の内容や自社の技術的アドバンテージを正確に理解しつつ、外部の投資家や企業に説明できるスキルを有するような人材は希少なので、供給が限られているということもあります。
もう一つ、資金調達はやはり大きな課題です。特にディープテック・ベンチャーの場合には、研究開発にかかるコストが時間的・資金的にも大きいうえ、事業の不確実性が高いので、これまではなかなか必要十分な額のリスクマネーが入ってきませんでした。
ですが、ここ数年でかなり状況が変わってきています。ディープテック・ベンチャーに注目が集まっており、投資家のみならず多くのステークホルダーがシーズの発掘に力を入れるようになりました。多くの可能性を秘める研究開発のシーズが発掘された場合、そこに資金のみならず、然るべき人材が投入されるような動きも出てきています。
今後、つくばのみならず日本や世界のステークホルダー間での協働が促進されることで、大学や官民の研究機関から数多くのベンチャー企業が誕生し、成長しやすい環境が一層整備されることを期待しています。
ーベンチャー支援の業務で大切にされていることはなんですか?
私の個人的な意見ではありますが、「最後までベンチャー企業の味方でいること」を一番大切にしています。
会社を立ち上げて、事業がうまくいかない時、苦しい時こそ、インキュベーターである我々の真価が問われると考えています。苦しい谷底を踏ん張って持ちこたえて、そこから返り咲いて事業を再び軌道に乗せる経営者を何人も見てきました。でも、伴走支援の担い手である私たちが苦しい時に手を放してしまえば、そこで失った信頼を取り戻すことは二度とできません。
もちろん、ありとあらゆる手段を検討して、それでも会社をたたまざるを得ない時には、弁護士さんなどの専門家に委ね、私たちは手を引かなければなりません。それでも、最後の瞬間まで経営者に寄り添って、共に可能性を追求することが自分たちの存在意義ではないかと思ってやってきました。
なかなか個別の事例をお話しすることは難しいのですが、例えば当社に入居していただいている企業様との関係でも、事業がなかなかうまくいかずに家賃を支払っていただくことが難しい場合に、そのような状況に陥ったことを責めるのではなくて、どうやったらお支払いいただけるか、一緒に悩んで考えること、それが私たちが提供できる最大の付加価値です。
そうやって活動を継続していくうちに、うれしいことに、地域を代表する企業に成長するベンチャーも生まれています。例えば、創業時は2~3名、当社の小さなオフィスから始まって、その後時間をかけて事業を成長させ、今では地域で数百人の雇用を創出している企業があります。また、同じく当社に入居していた企業の中から、たった一人で会社を立ち上げ、短期間で会社をグロースさせ多額の資金調達を成功させる先もでてきました。
いずれも常に事業が順風満帆とはいえない中で、それでも逆境に立ち向かって乗り越えてこられた経営者の方々を本当に尊敬していますし、そうした方々の支援に携われたことは、”インキュベーター冥利”に尽きるといえます。
ー今後、つくば研究支援センターではどのような分野に力を入れていきますか?
国や自治体も、この数年でスタートアップ支援策を大幅に拡充しています。企業にしてみれば大きな追い風が吹いているということができますが、民間の動きや資金調達の手法が目まぐるしく進化している今、当社自身にも変化が必要だと考えています。
つくば研究支援センターは、役職員全員で20名弱の小ぶりな組織ではありますが、ここ1~2年でベンチャー支援の人員を3名採用するなど、組織を増強しています。昔は私ともう一人、2人だけの体制で入居企業様とのやりとりから外部との連携までこなさなければいけなかったので、提供できる支援にも限界がありましたが、ようやく積極的に攻めていけるマンパワーが揃ってきました。社員の中には、自己研鑽を積んで中小企業診断士の資格を取得し、新たな活躍を始めた人材もいます。
私を含め、当社には1988年の創設時からのベテランメンバーが多く在籍していますが、新しいメンバーには、是非様々なチャレンジをして「新しいつくば研究支援センター」をつくっていってほしいなと思っています。次の世代にバトンをわたせるよう、私自身もこれまでのネットワークを活かして、新しいチャレンジができる環境を整えていきたいと考えています。
ーつくばでベンチャー企業の創出や成長を更に加速するためには、どんなことが必要だと思いますか。
研究学園都市として最先端の研究機関が集積するつくば市には、約 150 の研究機関に最先端の 研究・事業シーズがあります。また、つくばには研究機関のみならず、自治体、金融機関、当社のようなインキュベーション施設など、様々なプレイヤーがベンチャー支援の活用を行っていましたが、これまでは産学官金のステークホルダー全員が同じ方向を向いて動いていると言いにくい状況でした。
しかしながら、2022年には「つくばスタートアップ・エコシステム・コンソーシアム」(※)が設立されるなど、地域の内外をまたにかけた協働のメカニズムが動き出しました。近年では、茨城県とつくば市といった自治体の間の密接な連携や、研究機関と地域内外の投資家・インキュベーター・アクセラレーターの協力体制、大手企業とベンチャー企業の協業など、様々な点で過去とは違ったアプローチがどんどん出てきています。
予算や人的なリソースにはもちろん限りがありますが、その中でも全員で知恵を絞って、なんとかより良いものを作っていこうという機運が生じてきています。
今後は、このコンソーシアムのような枠組みを活用して、具体的な連携の成功事例を一つずつ積み上げていくことが重要だと考えています。また、ベンチャー企業の成長を支援する上では、国内のみならず海外のプレイヤーやサイエンスパークとのつながりを構築して、つくば発のベンチャー企業が海外に進出し、研究開発やプロダクトの製造につなげることのできるような下地を作っていくことも必要になってくるのではないでしょうか。
ー最後に、つくばで起業を考えている未来のCEO・CTOに一言お願いします!
自分で起業して会社を立ち上げるとなると、やっぱり大変なこともすごくあると思います。ですが、これまでも多くの創業者の方を見てきて、皆さん起業することで人生が変わる、道が開けてくるという、そういった瞬間に数多く立ち会わせていただきました。
研究者としての活動とはまた異なる形で、社会や経済の変革を自ら巻き起こしていくという達成感は、起業して初めて味わうことのできるものなのかもしれません。
これまで20年間、つくばでベンチャー支援の仕事をさせていただいてきましたが、今は本当に大きな注目が寄せられていて、チャンスの波が来ていると思います。苦しいこともあるかもしれませんが、 一度きりの人生、もし本当に起業をしてみたいという気持ちがあるというのであれば、挑戦する価値があるのではないでしょうか。
もし起業に挑戦しようと思い至った、その際には、是非お気軽につくば研究支援センターにご相談をお寄せください。社員一同、精一杯皆様の挑戦を応援させていただきます。
ー石塚部長、ありがとうございました!
次回予告
今回は、つくば研究支援センターのディープテックベンチャー支援を担当している石塚部長へのインタビュー<後編>をお届けしました。
次回は、実際につくばで先端技術の社会実装に取り組むベンチャー企業のインタビューをお届けします。お楽しみに!
取材:つくば研究支援センター ベンチャー・産業支援部 大塚和慶
※本記事は、個人的見解・意見を述べるものであり、つくば研究支援センターの組織的・統一的見解ではなく、それらを代表するものでもありません。