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短歌連作『ウルトラマリンブルー』『代赭』/月島理華

 つくば現代短歌会の会員である月島理華の作品『ペルセウス』が、第36回歌壇賞にて選考を通過し、『歌壇』2月号に掲載されました。そこで、月島理華と同じく会員である椎名十七によるネットプリント『花言葉概論Ⅱ』と『花言葉概論Ⅲ』から月島理華の連作『ウルトラマリンブルー』『代赭』を公開します。

『ウルトラマリンブルー』(花言葉概論Ⅱ)

ウルトラマリンブルー

性と愛 生まれた日から上がらない雨がわたしにとてもつめたい

あかねさす信号を一歩下がり待つ includeを目指されながら

ペール・ブルー 風車をみてる友だちの横顔をいつまでも見ていた

抒情とはやわらかな腕 愛といううつくしい暴力をふりかざす

砂の城に手をさし入れるように性欲の無いことを打ち明ける

うつくしい暴力を知らないままの夏の花火のその点対象

煌々と夜景にひとが生きていて町の名前をひとつも知らず

つめたいと言われることの振り掛ける一味の痛いまでのすがしさ

花も実もつけない木ではいられない あなたもいつか結婚をする

男の人を好きな男の人もいる いらすとやにはいらすとがある

ひかりあう恋人たちのメリー・ゴー・ラウンドをぼんやりと見ている

各停のシートに脚を閉じながら各停でしか行けない駅へ

夢の中がはつかに白い 塩害をなんども受けてきた街だから

あたたかな気持ちをひとに話すとき語彙のすべてがレモンイエロー

わたしを待つひととわたしがどちらからともなしに手を上げあう正午

回し飲みして友だちの恋人がわたしの気管支に生きている

ひかりふるスケートパーク 友だちと友だちの恋人に祝福を

海街が車窓を過ぎる 海色を腕の産毛が涼しんでいる

いつか来る春だと慰めてくれたひとのほんのり長いまばたき

あいまいな「そういうひともいるしね」にグラスの水滴をずっと拭く

『代赭』(花言葉概論Ⅲ)

代赭

清潔な嘘を吐きたい ふれてきたクリアファイルのすべてを燃やし

信仰をもっていることポケットに卵を入れるように話した

花梨という腕の怠さよ おとなにも寝顔があると知った夏の日

ほらごらん いっとう白く尾を引いて流れるあれがきみの後産

ひとびとの首の角度に見惚れつつ花火の夜に抜ける人波

分からないことだらけ醜い体だらけ 臍帯血がてらてら

暴動のニュースの声を聞きながらふれる卵にふたごの予感

神に嵌めなおされるのを待つようにシャンプー台に置く頭蓋骨

ピアスにふれながら話す昼下がり きみのしてきた夢精のことを

客体として生きていて晴れの日のどこか半透明な遠さを

これはなんの花のにおいだろう ふいに染色体がはんぶんになる

そういう、はそういう意味でかぶされる花かんむりの白色の花

浮かび上がる自分の声におどろいて泣くのをやめて 紫陽花だった

草笛で遠くの驢馬を呼ぶような喧嘩しかしたことないくせに

キャンディーで頬うらを傷つけて もっと繊細に生まれたかった

飲みこむ一瞬くちびるを固くしてどれをほんとうにできるだろう

生殖じゃないほうのこと話すとき冷えてゆく球根のような器官

歌は花、紙にインクを吸わせつつたしかに老いてゆく腕の骨

夜からの雨が小島を遠くしてあれは記憶がつながっていたころ

花柄の傘の外へと手のひらを差し出して確かめた やまない


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