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"治部煮"とクリスマスのニューヨーク【レストラン櫻】

こんにちは、月兎です🌙🐇

そして、メリークリスマス🎅🎁🎄
みなさまいかがお過ごしでしょうか?

今年は年末年始休暇が長いため、もしかしたらクリスマス頃からまとめてお休みをとっている方も多いかもしれませんね。
ディズニーをはじめとした娯楽施設やレストランなどは例年以上ににぎわいを見せていることと思います。


そんな中、前回記事から斜め上のクリスマスネタを提供し続けている本note、シー・オブ・イマジネーションジャーニー。
今回はさらに邪道を進み、和食×クリスマスのお話をしようと思います。

というわけで、本記事では私がディズニーシーの中で最も愛してやまないレストラン、「レストラン櫻」を取り上げます。
このレストランの背景を踏まえたうえで、2024年のクリスマス期間限定で販売されていた「本日のおすすめ」メニューについて、今日もやかましく妄想たっぷりでお届けしていく所存です。

いつもよりは食レポ的な側面が強くなるかもですがあしからず。



それでは早速、豪華絢爛で賑やかなクリスマスのニューヨークへ出かけましょう。

※なお本記事でご紹介している「本日のおすすめ」メニューは本日2024年12月25日までの販売となります。ご了承ください。


ニューヨークの和食レストランは誰のため?

まずは「レストラン櫻」の背景のお話から。

アメリカンウォーターフロントが1912年のニューヨークを舞台としているなか、大きな異彩を放つ"和食"のレストラン。
このレストランを切り盛りするオーナーの出自と遍歴が、今日のお話のカギとなってきます。


「レストラン櫻」のオーナーは、"チャーリータナカ"と呼ばれる人物です。
大阪出身のバリバリの日本人で、1880年にニューヨークへ移住してきました。
アメリカでできた友人に"チャーリー"という愛称をもらい、以後このような名前で慕われることになります。

もともとは漁師であり、アメリカに渡ってきてからも漁師として一生懸命働いてお金を稼ぎます。
やがて「リバティ・フィッシュマーケット」というニューヨークの魚市場を買収し、改装してレストランとして経営を開始。
…というのが、「レストラン櫻」開業までの簡単な道のりです。


ここまではただのバックグラウンドストーリーですが、レストランで提供されているメニューを考察したり、今回の本題であるクリスマスとの関係性について妄想したりするためには、ディズニーの外から知識を仕入れてくる必要があります。

まずは、「20C初頭の日本人移民による和食のレストラン」というのが実際の(我々が住む現実世界の)歴史ではどうだったのか?をみていきましょう。

アメリカにおける和食の始まりは、19C後半にハワイや西海岸に移住した日系移民向けに和食を提供したことなんだそうです。
冷蔵輸送の技術がなかった当初は、漬け物や缶詰・乾物といった限定的な食品のみを取り扱っており、この当時の商売を「タクワン貿易」と言ったりします。

一方、当時のアメリカ国民の和食に対する意識はどうだったかと言うと、最初の関心は1904年の日露戦争での日本の勝利でした。
「どのようにして魚食が日本人を勇敢で強くしたのか?」というタイトルの記事が掲載されたこともあったのだそう。
そして、アメリカ人の食生活の改善のために和食が研究対象となり、次第にこの食文化が受容されていきますが、当時はまだアメリカ人の口に合わないという評価が強かったとされています(だって海を渡って届く食品が「タクワン」とかだから、そりゃあ、ね)。


時は流れ1914年。
ニューヨークで最初の本格的日本料理レストラン「都」がオープンします。
開業したのは桑山仙蔵というこれまたアメリカに移り住んできた日本人。少々の年代のズレはあれど、「レストラン櫻」の開業の経緯とほぼマッチしています。
そして、日本料理を知っている日本人によって和食が提供されることで、漬け物や缶詰では味わえない美味しさがアメリカに浸透するきっかけとなったのです。

その「都」において提供された料理は、最初はすきやきや天ぷら、テリヤキなどアメリカ人の口にも合いやすいものだったと言われています。
移住してきた日本人と、和食への関心が高いアメリカ人の双方を顧客として成功させた、戦前のニューヨークでは唯一の和食レストランということで注目を集めました。

「レストラン櫻」も、日本人移民たちの憩いの場となった魚市場で故郷の味を懐かしむことができるよう、チャーリーがレストランを開いたと動機が明かされています。
一方で、アメリカンウォーターフロントにおける我々ゲストの役割は"ニューヨーク市民"なので(※詳しくは下記記事を参照)、まだ十分に和食文化が浸透していない時代でアメリカ人にも愛されている、という点で現実世界の歴史における「都」と合致するのではないでしょうか?
※ただ、我々ゲストも「現実世界における」日本人、アメリカ人、中国人...といったように国籍がバラバラだったりするわけで、まさに"人種のサラダボウル・ニューヨーク"って感じでほんとにいいですよね...(何のぼやきやねん)


もちろん現代こそニューヨークには多くの日本料理店がありますが、20C初頭においては決してスタンダードな存在ではなかった和食のレストラン。
日本人移民にも現地住民にも愛される「レストラン櫻」は、日本とアメリカという全く違う背景を持つ2つの国の架け橋とも言うべき存在なのではないかと、今日も勝手に妄想してはニヤニヤしています。


"クリスマス"と"チャーリータナカ"の融合

さて、先ほど"2つの国の架け橋"という表現を使いましたが、具体的にはそれぞれのどんな伝統や文化を繋いでいるのでしょうか?
いろいろ考えられるのですが、せっかく今日という日に記事を投稿している以上、欧米圏で発達した"クリスマス"という行事と、チャーリータナカの生まれ故郷の"郷土料理"との間に、(無理やり)繋がりを見出していきたいと思います。

というわけで、ようやく今日の本題、今季限定の「レストラン櫻」のクリスマスメニューである「本日のおすすめ」のご紹介です!

※この先飯テロ注意




・季節の前菜(帆立貝の若竹椀)

まずは前菜から。
「若竹」はタケノコのことで、それ以外にも鱈や柚子・かまぼこなど海の幸を多く使用した、心温まる一品です。

特に鱈はアメリカでもよく獲れる魚のようでして、漁師だったチャーリータナカらしいチョイスですね。
かまぼこも海の幸といえばそうですが、練り物なので保存が効きやすくかついろんな料理に合わせられるので、当時のアメリカの和食事情を考えると納得です。

前菜についてはさらっと触れる程度にして、次いきます。


・蟹とぶどうの白和え
・合鴨と和牛の治部煮風
・サーモンとイクラのご飯
・漬け物(沢庵のごま和え?)

こちらがメインのお料理。
漬け物については公式ホームページのメニューにも載ってないので適当に名前をつけてます。
味噌汁は単品で注文できるので追加で頼んでみました(値段忘れましたが350円くらいだったはず)。

「サーモンとイクラのご飯」と「沢庵のごま和え」については簡単に紹介し、残りの「蟹とぶどうの白和え」「合鴨と和牛の治部煮風」を、やかましく妄想ありで深掘っていきます。


・漬け物(沢庵のごま和え?)

まずはこちら。白いので雪をイメージしているかと思われますが、普通に沢庵です。
ただ、先ほど「タクワン貿易」というワードをご紹介した通り、当時は和食のイメージとして沢庵を思い浮かべることも多く、冷蔵技術のない中で日本人移民にとっての故郷の味であり、かつ臭いのキツさからアメリカ人からは敬遠されてしまった食材だといえます。
その沢庵を漬け物として登場させたのは、もしかしたら日本人とアメリカ人の心を繋ぎたいというオーナーの思いがあったから…かもしれません。



・サーモンとイクラのご飯

ではお次、サーモンとイクラのご飯。
大葉とホースラディッシュ(わさび)でクリスマスツリーを再現しているのだそう。
これはシンプルな海鮮丼なのでただ食レポをするなら、ごま油の主張がまあすごい。
食べてみないとわからないごま油くんの存在感があり、個人的には好きな味でおいしくいただきました。

ただ、これ1個で「れすとらん北斎」(東京ディズニーランドにある和食レストラン)のいちメニューとして成り立つんじゃないか…くらいにはボリュームがあって重ためのご飯でしたね。



・蟹とぶどうの白和え

ではでは、こちらの「蟹とぶどうの白和え」についてベラベラと語らせていただきます。


蟹といっても種類まではわからないのでなんとも言えないのですが、アメリカで獲れる蟹はズワイガニくらいで、しかもそれはここ20〜30年ほどのお話。あまりアメリカの食材として蟹は聞いたことがありません。
一方日本では北海道を中心に多くの種類の蟹が水揚げされ、他にも山陰地方や北陸地方などが有名。ここでももしかしたら日本産の蟹が使われているのかもしれませんね。

それとは反対に、ぶどうについてはアメリカでよく栽培されており、しかもワインの一大産地として、ニューヨーク州が挙げられることもしばしばあります。

日本の蟹と、アメリカのぶどう。
正直どうしてこの組み合わせ?って感じはしますが(合わせて食べてもめちゃくちゃおいしい!ってほどではなかった)、こういったところから文化の融合が読み取れなくもないかな...と。


そして、なにより重要なのが"白和え"という調理法です。
豆乳や白ごま、白味噌で和えることからこのような名が付けられていますが、特に"白味噌"については日本人でも馴染みのある方とない方ではっきり分かれるんじゃないかと思います。

関東甲信越地方や東海地方を中心に消費される赤味噌と違い、白味噌は京都や香川・広島など西日本で広く愛されるお味噌。
有名な京都の「西京みそ」なんかも白味噌です。
大きな特徴として、赤味噌に比べ塩分が少なく、麹や水飴が配合されていることから甘口であるということが挙げられます。

「レストラン櫻」のオーナーであるチャーリータナカは大阪出身。
西日本出身の彼にとって馴染みが深く、かつアメリカ人の口にも受け入れられやすい甘口の和食レパートリーとして、"白味噌"という選択はあまりにもおしゃれだとは思いませんか...?
そして言うまでなく、白和えの見た目が雪を表現し、緑や赤の彩りを加えてクリスマスを象徴しているわけでして...
副菜とはいえ、もし本当にここまで考えられていたら感服の一言です。



・合鴨と和牛の治部煮風

いよいよ最後のメニュー、メインディッシュとしてこちらをいただいてきました。

お肉もお野菜もなにもかも味が染みてて、とにかくめちゃくちゃおいしかったのですが、
おそらく多くの方にとって馴染みの薄いであろう、"治部煮(じぶに)"とは一体何なのか?
これを深掘っていくことで、思いもよらぬクリスマスとの関係性にたどり着いたので、最後にご紹介しようと思います。


治部煮とは、石川県金沢市の代表的な郷土料理です。
江戸時代から庶民に親しまれている料理で、当時この土地にはカモが多く飛んできたため、鴨肉が使われることが多かったと言われています。
この鴨肉に小麦粉などをまぶし、加賀特産のすだれ麩をあわせて煮ることでできる、とろみのあるタレが特徴の一品です。

この治部煮の起源は諸説あるので一概には言えないのですが、そのうちのひとつに、江戸時代に加賀藩祖・前田利家と親交のあったキリシタン大名・高山右近が宣教師から教わり、加賀藩に伝わったのではないかという説があります。
高山右近は人生のすべてをキリスト教に捧げた最も有名なキリシタン大名。
1587年に豊臣秀吉の「バテレン追放令」の対象となってしまうものの、加賀藩に迎え入れられ金沢の文化形成に大きく貢献したと言われています。

そんな彼が、1608年に金沢の南蛮寺で大がかりなクリスマスパーティーを主催した、という記録が残っているんだそう。
異教の儀式を一目見ようと多くの人が押し寄せ、ご馳走も豪華に用意されたとのことで、もしかしたらそこで彼とゆかりの深い治部煮が振舞われたのではないか...?という想像が膨らみます。

キリスト教が弾圧された世の中で、彼がキリスト教の布教に命を捧げ、「クリスマス」という文化を金沢の町に広めた背景を踏まえると、
"治部煮"という郷土料理には、金沢という古きよき日本の伝統と、キリスト教の由緒正しきクリスマス文化の両方が息づいているのではないかと、読み取ることができるのではないでしょうか。

高山右近の肖像画(引用:https://yonohikari.sakura.ne.jp/lordukon.html)


200年ほど時が進み、幕末〜明治時代。
アメフロの時代設定的に、チャーリータナカが生まれたのはこのぐらいの時期だと考えられます。
何度か触れた通り彼は大阪出身で、石川県(加賀藩)と何かしらの縁があるという言及は特にされていません。

なので、一見彼とは無縁な治部煮という料理ですが、注目いただきたいのは料理名にある「和牛」「治部煮"風"」というところ。
和牛といえば三大和牛の近江・神戸・松坂が有名ですが、これらはすべて近畿地方産であり、彼とゆかりの深い食材と言って差し支えないでしょう。
つまり、これはチャーリータナカ特製のなんちゃって治部煮なのです。

郷土料理の知識として、アメリカに渡る前に彼は治部煮という存在を知っていたのかもしれません。
もちろん、高山右近という人物がこの料理の背景に存在しているということも。
クリスマスで賑わうニューヨークの町にふるまう和食として治部煮が最適だと考えた彼は、関西出身というアイデンティティも込めて、「合鴨と和牛の治部煮風」というメニューを考案した...そんなストーリーが妄想できるのではないでしょうか?
鴨肉は当然アメリカ人には馴染みがないはずですから、和牛も合わせることで海外で大人気な"すきやき風"の治部煮にしたことも、「レストラン櫻」のバックグラウンドストーリーに合致していて、本当に本当によく練られたコンセプトだなぁ...と思わずにはいられません。


現実世界の歴史とのマッチ具合と、鴨肉と牛肉(すきやき)とのアンマッチ具合がほんっとうに絶妙で、
ディズニーシー全体と現実世界の両方を外観できる我々ゲストだからこそ感じる、この「合鴨と和牛の治部煮風」というメニューの若干の違和感(イマジネーション)、口にしたときの「何で合うの!?おいしい!!!」となる"想定外の出来事"までが、クリスマスのレストラン櫻における一連の冒険なのではないか...!?!

またしょーもないディズニーシー妄想が炸裂していますが、いつものことなのであしからず。
とにかく、今回の櫻のクリスマスはコンセプトも味も最高でしたよ、という熱量が伝われば幸いです。



というわけで、今回は「レストラン櫻」とクリスマスメニューについて考察してみました。
最後までお読みいただき誠にありがとうございます!


すんごい回りくどい食レポにすぎなかったですかね...?笑
いつもの「冒険とイマジネーション」要素をレストランにまで当てはめるのはなかなかそう簡単ではないのですが、これはこれで楽しめましたでしょうか?

一番好きなレストランがここなのもあって、今後レストランの紹介をする予定は今のところないのですが、また面白そうなネタが思いつけば記事作りたいと思いますので、楽しみにしていただけると嬉しいです。


さてさて。
今年も残すところわずかとなりまして、2024年の投稿は本記事で最後となる見込みです。

今年の7月からゆるゆると投稿し始め、9月にディズニーシー23周年を迎えるタイミングで企画した「ファンタジースプリングス特集」を皮切りに、現在に至るまで本格的に記事作成に勤しんでまいりました。
想像以上の方に私の記事を読んでいただき、誠に感謝しております😭✨

記事へのスキやコメント等、いつも大変励みになっております🙇
2025年もさらなるイマジネーション力の向上に努め、冒険を絶やさぬよう精進して参る所存ですので、
こんなよくわかんないアホアホ記事たちでもよろしければ、これからもご贔屓にしていただきますよう、来年も何卒よろしくお願いいたします🐍

何はともあれ、今宵はよいクリスマスをお過ごしください🎅🎄
そして、良いお年をお迎えくださいね🌅


それでは、またのご来航お待ちしております⛵️
よい冒険を🌏
Thank you for coming and spending time where adventure and imagination set sail.


【参考】
https://www.tokyodisneyresort.jp/tdrblog/detail/210128/
https://www.jstage.jst.go.jp/article/marketing/42/4/42_2023.018/_html/-char/ja
https://shizenjin.net/hokuriku_food/local-foods/file104.html
https://www.maff.go.jp/j/syokuiku/kodomo_navi/cuisine/cuisine3_2.html
https://kanazawa-okiniiri.com/machiaruki/view/94
https://www.kanazawabiyori.com/editors/2014/12/689.html




〈お知らせ1〉
2024年11月7日(木)の15:05、東京ディズニーランドで行われていたハロウィーンのスペシャルパレード、「ザ・ヴィランズ・ハロウィーン“Into the Frenzy”」のテーマ曲『MAKING MAGIC DAY AND NIGHT!』を私のYouTubeチャンネルでアップしました!!!🎉

この秋、月兎の心を何よりも弾ませてくれたこのパレードに、感謝を込めて、誠心誠意細かいところまで、とことんこだわって作りました。
自分ができる最大限の恩返しを、ぜひ聴いていただけると幸いです。

いいなと思っていただけたら、高評価や曲の感想・コメントお待ちしております。10メートルくらい跳び上がって喜びます。
相当な労力をかけて丁寧に作りきった、大事な宝物に仕上がりましたので、3分ちょっとだけ、耳を傾けてやってください。
どうぞよろしくお願いいたします!


🎃MAKING MAGIC DAY AND NIGHT!🦇
作曲:Adam Gubman & Danny Elfman
編曲:月兎
ジャケット画像:Chat GPTにより作成
参考:CAFUNE-かふね- 様

▼音源はこちら


〈お知らせ2〉
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