只の独り言
未だ見ぬ貴殿に初めてご挨拶申し上げる。
また前回から大分日を空けてしまった。
それまでは特段ぼやく事が無かったというのもあるし、小説の執筆を重視していきたいという思いもあった故の事である。
だが、先日当方が敬愛しているバンドのボーカルの訃報を聞いて、ぼやくどころの心持ちではなかったという事も添えておきたい。
亡くなったバンドのボーカルと言うのは、以前のぼやきにも話していたBUCK-TICKの櫻井敦司氏の事である。
忘れもしない10月の24日、祖父の訃報で崩した体調を何とか整え、母の十三回忌も済ませて漸く肩の荷が下りた頃だった。
忙殺されて一月程触れずにいたPCを開き、久々に小説の執筆作業に入ろうとした矢先にあるネットニュースが目に飛び込んだ。
ここで少々薄情な事を言わせてもらうと、その日流した涙は祖父の訃報が届いた時以上の水量だった。何分祖父の方は危篤の知らせを事前に受けていた事もあって覚悟は出来ていたし、11月4日に向かうライブが近付いて浮き足立っていたが故にその時のショックは比較にならない程だった。
中止となったライブ当日までは、存命だった頃の彼の動画を観る事すら辛かった。逆に曲はBUCK-TICK以外のものを聴こうとすると気が滅入る一方だった。そして「この曲はまだライブで聴けてなかったな」と考えてはまた溜息を吐くという我ながら非常に面倒臭いと思う程の不安定さだった。
だがライブだった日の翌日ある映画を同居人に勧められ、それを鑑賞し終えた時にはすっかり彼の死を受け入れられるようになっていた。
スティーブン・キング氏の「グリーンマイル」である。
是非貴殿等にも薦めたいので物語の仔細は省くが、大恐慌の時代にアメリカのある刑務所にて不思議な力を持った黒人の大男ジョン・コーフィが死刑囚として入所する話である。
人の死に敏感な時期に何てものを見せてくれるのだと最初は思ったが、その映画は当方に「死の美しさ」というものを教えてくれた。
そしてこれこそが、櫻井敦司氏が歌で語ろうとしていた死ではないだろうかと考えた。
ジョンはその不思議な力で己の使命を果たし、自身を憎む者達の目の前で電気椅子に座らされたが、死刑執行を行った看守達は間違いなく全員が彼を愛していた事だろう。
そして彼もファンを喜ばせるという使命を果たし、彼を愛する者達に囲まれて旅立っていったのだ。
鑑賞を終えた後、頭の中で渦巻いた感情は結局涙となって流れ出たが、また明日から頑張ろうと思えるようになっていた。
人は生まれながらにして、生きていられる間に自分にしか見つけられない使命を課せられているのかも知れない。
それは特に見つける必要の無いもので、恐らく多くの人達は見つけられないまま旅立っていく。
だが中にはそれが必要不可欠なものと勘違いをして、生き急いだ末に自ら命を断ったり罪を犯してしまう者も居るのだろう。
己の使命を見つけ、更にはそれを果たす事が出来た者への特典こそが「美しい死」なのだろうと当方は考える。
死刑囚ジョン・コーフィの死は、今まで見た誰よりも美しかった。恐らくきっと、櫻井敦司氏も同様に美しかったことだろう。
当方は恥ずかしながら、小学校時代から行っていた創作を続ける事が己の使命だと未だに断定が出来ないでいる。
余所見をする事も多ければ、「やはりこんな不向きな事が使命である筈が無い」と投げ出してしまいたくなる事も多々ある。
だがやはり、生きている限りはこの生まれ持った特技を活かし続けていきたいと思っている。
そして無事使命が果たせたならば、美しい死を迎えて閻魔王となった櫻井敦司氏に一言挨拶を交わしたい所存だ。