ママは将来、枝豆を見て泣く人になるでしょう

6年前の冬。
我が家の2人目の宝物として、息子がうまれてきてくれた。

そんな彼について語るうえで絶対に欠かせないのが枝豆なのである。

彼と枝豆と私の想いを、ここに残しておきたい。

息子くんへ
ママはきっと将来、枝豆を見ると泣く人になると思います。あなたが生まれてから枝豆に何度振り回されたことでしょうか。

初めてスーパーの床に転がりながらイヤイヤを炸裂させたあの日。冷凍コーナーの前で15分かけて聞き取ったのは「大好きな枝豆が凍っててイヤだ」でした。ママはその時スマホを取り出して動画を撮らなかったことを後悔しています。それがあなたと枝豆との最初の思い出だったから。

夏の暑い日。
散歩中なかなか帰りたがらないあなたと「おうちに帰ったらアイスを食べよう♪」と約束をして、10分の距離を1時間かけてやっと帰ってこられたあの日。とにかく暑くて汗だくだったし、あなたの機嫌が保たれているうちにと、光の速さで冷凍庫からフルーツアイスを取り出して渡したの。案の定「これじゃない」と大号泣していたね。3秒前までご機嫌だったはずなのに、この世の終わりレベルで泣いているあなたをあの手この手で落ち着かせて抱っこして、40分かけて聞き取ったのは「アイスじゃなくてカチカチの枝豆の方がよかった」でした。なるほど、ママが冷凍庫を開けた時、アイスの横にあった冷凍枝豆が見えたんだね。
「凍った枝豆大好きなんじゃん」と、スーパーで奮闘したあの日を思い出して、汗だくの自分とぐちゃぐちゃのあなたを見てひとりで大笑いしました。大笑いしながら、何故だか分からないけれど1粒だけ涙もでてきました。

お祭りに行ったあの日。
「その歳で枝豆が好きとは渋いね大人みたいだね！好きなだけ食べちゃって！」と酔っ払ったお祭りおじさん達に気に入られて、わんこそばのように次々と枝豆をサービスしてもらったね。出されるままにどんどんと口に放り込むあなた。喜ぶおじさん達。翌日、いつものようにカーテンの隅で力んだあなたのオムツを開いて替えようとしたら、そのままの姿で昨日の枝豆がでてきたのを見て、ママはしばらく枝豆が食べられなくなりました。枝豆はよく噛んで食べてね。

そんな感じで、ここには書ききれないほどにあなたと枝豆の思い出があるのです。枝豆が耳に入ってしまったこともあったし、外食先で枝豆しか食べなくて困り果てたこともあったし、枝豆を理由にイヤイヤしたこともあれば枝豆のおかげでイヤイヤを乗り越えられたこともあったね。

あなたが入園するまでの3年間、あなたと枝豆に翻弄され続けた日々。振り返ってみれば、ママにとって宝物のような日々となりました。

枝豆が凍っていることに涙を流し、枝豆が食べたくて涙を流し、ぷにぷにのほっぺいっぱいに枝豆を頬張って泣きながら笑い、枝豆を握りしめて寝てしまったこともある。

枝豆への異常なほどの愛と想いを言葉に出来なくて泣くあなたに、余裕のある時は癒されたけれど、時間に追われている時はイライラもしてしまったし、泣けてくることもあった。

だけど今では、枝豆が欲しければ泣くのではなく「枝豆が食べたい」と言えるようになったね。冷凍コーナーを通って泣くことはないし、10分の距離は10分で帰ってこられるようになった。

そんな当たり前のことが、嬉しくて、喜ばしくて、ちょっぴり寂しい。
今でも枝豆が好きなことには変わりないけれど、枝豆を理由に泣くことは全くない。
いつの間にか、しっかりしたお兄ちゃんになったね。

これからはきっと、あなたと枝豆の思い出は今までのようには増えてはいかないのだと思います。もしかしたら、いつの間にか好物ですらなくなってしまう日もくるのかもしれない。

そして次はママが、冷凍コーナーを通ると泣けてしまうんだろうな。夏の暑い日に、冷凍庫を開けただけで涙が溢れてしまうかもしれない。お祭りに行っても、外食に行っても、お弁当を作っても、夕ご飯を作っても、もしかしたら耳鼻科に行っただけでも、きっと。あなたと過ごした日々が、あなたと枝豆との日々が、キラキラとそこら中に散らばっているんだもん。

枝豆を見るだけで、まさかこんな気持ちになるなんて。今はまだ、おかしくて笑っちゃうけれど。きっと、いや、絶対、溢れてとまらなくなってしまう日がくるんだろうなぁと思うのです。

そんな時、支えてくれるのもまたあなたと過ごしている“今“この瞬間なんだろうな。あなたの笑顔が今の宝物で、わがままや理不尽さが、未来の宝物となる。こんなにたくさんの宝物を、今までも、これからも、ありがとう。

もし次があるとしたら、あと15年くらい経った時。大人になったあなたと枝豆の新しい思い出を1つ増やせたらいいなぁなんて、こっそり思っているのです。ママはお酒が飲めないのだけれど、その日だけは、少しだけ一緒に思い出が作れたらそんな素敵なことはないだろうな。そんな日がくることを楽しみに、ママは今日も枝豆を流水解凍するのです。

ママより

#想像していなかった未来