自己肯定感0アラサーが1回の写経で「自信を持てた」話
ガンガンに効いた冷房の下で、私は筆を握っていた。
自己肯定感0女子が足を踏み入れたのは、写経道場。
五反田にある、薬師寺東京別院である。
「写経ってただ文字を書くやつでしょ?」
間違ってはいない。しかし、写経は書くだけで達成感が手に入る。
自己肯定感を上げるのに極めてハードルが低い、簡単な方法なのだ。
この記事では、なぜ写経が自己肯定感にいいのか。
その理由をお伝えしよう。
超インドア派の私が、自己肯定感の低い原因に気づくまで
「みんなみたいにできない」
「どうせ何をやってもうまくいかない」
昔からの口癖だった。
友人関係も恋愛もうまくいかず、受験も就活も失敗した。当然、自己肯定感は年々下がるばかり。
毎日絶望と後悔を感じる日々である。
どうにか人並みになりたいと思って始めたのが「自己啓発本」を読むことだった。
自己肯定感が低い人間は、実体験が足りていない
読書を始めたある日。
下記のような文章を見つけた。
自己肯定感の低い人は、「体感経験」が少ないというのである。
「自己肯定感が高いから、リアルが充実している」
そう思っていた自分には衝撃の文章だった。
「リアルが充実しているから、自己肯定感が高い」というのが正解らしい。
外出が嫌い、人が苦手な私
そして気づいた。私には体感経験が少ない!
自覚症状は大いにあった。
外出が嫌い
運動が嫌い
自分から人を誘うことはないし、誘われても正直少し躊躇する
自己肯定感が下がるのも、うなづける。
しかし、運動はハードルが高い。体力がないし、暑い。外へ出るだけでもしんどいのに、さらに動く気力がわかない。
そこで思いついたのが写経である。
室内、動かない、無心になれそう。
インドア派に優しい3拍子だ。
自己肯定感0アラサー、写経に行く
しかし、いざ寺院に辿り着いてもすぐには写経に入れない。作法があるからだ。なんと書き始めるまでに5段階踏む。
輪袈裟をかける
丁子(クローブ)を口に含む
香象をまたいで写経道場に入室
合掌して写経のためのお経を唱える
写経開始
思った以上に手順を踏むんだなというのが感想である。
さて、あなたは下記の植物が何か分かるだろうか。
丁子。香辛料のクローブである。
丁子には体内を浄める意味合いがあるらしい。
写経中は、丁子をずっと口に含んでいなければならない。スースーするような、独特の味。何より、枝を食べているような食感。
「どうしても無理なら、途中で吐き出しても構わないですよ」
優しい職員さんが、入室前にそっと教えてくれた。
最初の一字から「失敗した!」
使用する道具はすべて薬師寺東京別院にそろっているが、用意されている墨は、なじみ深い墨汁ではない。自分でする固形の墨だ。
だからまず、墨をすれるよう、すずりに水を垂らす必要がある。これまた親切な職員さんが教えてくれた。
「500円玉くらいの水を垂らしてください」
そうっと、水差しを傾ける……。
トトトトッ!
明らかに、500円以上入った。1000円はいったと思う。
結果、一字目からめちゃくちゃにじんでしまった。
般若心経の心得
焦った私に、再び職員さんの声がよみがえる。
「うまく書けないと思うこともあるでしょう。でも、写経で大事なのは3つのこころです」
3つのこころは簡単だ。しかし、実践は案外難しい。
かたよらない こころ
こだわらない こころ
とらわれない こころ
……よし、多少のにじみになんて「こだわらない」「とわられない」。
一心に書き進めるぞー。
周りがどんどん書き終わっていく
次に浮かんだ雑念。
「えっ、みんな早くない!?」
薬師寺東京別院の写経道場は、いつ入ってもいい。だから開始時間も終了時間もバラバラだ。入れ代わり立ち代わり、いろいろな人がやってくる。
しかし、明らかに私より後に来た人が先に終わっている!
次第に、そわそわし始める。まだ私、半分くらいなんだけど。
シーンという静けさ。隣の人が墨をする音さえ気になる。
だめだめ。深呼吸だ。「こだわらない」。
口の渇きを感じて唾を飲み込むと、丁子の味が再び舌をなでる。うーん、決して美味しくはない。しかし、落ち着きを取り戻した。
所要時間2時間弱、ようやく書き終わる
平均1時間~1時間半らしいので、だいぶかかった方だと思う。最後に願い事、住所、氏名を書いて、再度全体を見返す。
私、こんなに細かい字でこの量書ききったんだ!
全部で約260文字。一筆一筆、筆の動きに気を配りながら書き進めた。止め、払いも意識した。決してうまくは書けなかったけど、満足感がある。
もう一ついいことがあった。「自分なんて」と思う時間がなかったのだ。
書いている間、途中で気がそれることはあった。周りの人ほど早く書けなくて焦ることもあった。しかし「自分は書くのが遅いから、もうやめよう」とは一度も思わなかったのである。
書けば終わる安心感
書き始めから終わりが見える、ほどよい分量である。お手本をなぞるだけだから、難しいことも考えない。ただ一心に、文字と向き合うだけ。
常に自己卑下してしまう私にとって、自分を悪く言わない貴重な2時間!
ただ「やりきった」。
達成感とともに、私は書いたお経を納経盆に置いた。
最後に見上げた仏様は、きっと私の満足げな顔を見ただろう。
なお、書いたお経はすべて奈良にある薬師寺のお堂に納められるんだとか。
最後に
「私なんてどうせ」が口癖となっている、私のような方はいないだろうか。
自己肯定感の低さに悩む方はぜひ、一度写経をしてみてほしい。書くこと(なぞること)に向き合う静かな時間は、小さな達成感をきっとつれてきてくれるから。
なお、薬師寺東京別院に行かれる方は、迷子にならないようご注意いただきたい。私は10分迷い、歩きに歩いて最後は交番に泣きついた。
交番には、すでに用意された道案内の紙があった。薬師寺東京別院についても「道に迷いませんでした?」との質問をされた。
どうやら、多くの人が辿り着けないようである。
紙がくしゃくしゃなのは、私が汗水垂らして迷った証拠だ。
興味を持たれた方は駅を降りてすぐ、交番に行くことをおすすめする。
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