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縮毛矯正と私

私の半生は縮毛矯正と共にあるといっても過言ではない。

自分がクセ毛なんだと自覚したのは中学二年生のころだった。
中学生にもなるとやはり異性の目も気になる年頃。
と同時にクラス内でもイケてる人、イケてない人が明確になるのもこの頃だ。

いわゆるイケてる人たちは皆、髪の毛がまっすぐだった。なかにはワックスやコテで髪の毛を遊ばせてる者もいた。

一方私といえば髪の毛が四方八方にうねるうねる。遊ばせるどころか私が髪の毛に遊ばれていた。

このクセ毛に私は大いに悩んだ。
学校から帰り、リビングにいる両親を見ると
父は天パ、母は剛毛と「あぁ、たしかに私はこの二人の息子なんだなァ」と思わずにはいられなかった。
(母は剛毛って、なんかすごいパワーワードですね)

そんな中学生だったため、なんとなーく自分に自信も持てず背中を丸めるような日々を過ごしていた。

高校生になると明らかに私と同類であるハズなのに前髪だけ時には全体が不自然にまっすぐな人たちを見かけるようになった。

部活の先輩に聞いてその正体がわかった
彼らはストパーとやらをしているらしい。

これをするとどんな頑固なクセ毛もあーら不思議!おどろくほどサラサラストレートヘアーになるではありませんか!

これで私も自信のない日々から解放される!
もしかしたらクラスの女子から「えっ、なんか月見クンかっこよくない?」とか言われちゃうかも!デュフフ
などと考えたら、いてもたってもいられなくなり、さっそく週末に美容院へ駆け込んだ。

「おれをストパーにしてください!」
ストパーという単語の使い方もよく分かっていない男子高校生が来た、そんな雰囲気を微塵も感じさせない美容師さんはさすがプロだった。

「縮毛矯正っていうメニューもあるけどどうする?」
美容師さんはそう優しく尋ねてくれた。

「なんすかそれ」と聞いたところ「縮毛矯正は永久的でストパーは半永久的」と端的かつ分かりやすい解答をもらえた。

であればもちろん永久だろう!と息巻いたのはいいが問題はその価格である。
当時の正確な価格は覚えてないが
縮毛矯正はだいたい5000円くらいしたと思う。カット3500円と合わせると8500円。

私の当時のお小遣いは8000円
カット代は親からもらえるものの流石に縮毛矯正のお金は出してもらえないだろう。

だが!私もまっすぐな前髪を手に入れたい!
髪をかきあげたらサラサラっと自然に降りてきて欲しい!絡まって落ちてこないのはもうやだ!
私がいま心から笑えていないのは、
気になるあの子にメールが送れないのは
「前髪うねっててなんかサーセン」という卑屈な気持ちを抱いているからなのだッ!

と思い、一瞬にして次のお小遣いまでの友達との予定や好きなバンドのCDの発売日などを逆算して「あ、じゃあ、縮毛矯正でオナシャス」と美容院さんに伝えた。

〜数時間後〜

「おおお…」

鏡に映る自分を見て、私は思わず感嘆の声をあげた。
そこには夢にまで見たサラサラストレートを手に入れた私が座っていた。

「ありがとうございました!」
自分のお小遣い以上の金額を払い、私は意気揚々と美容院をあとにした。


週明けの月曜日
私は堂々と胸を張ってクラスまでの廊下を闊歩していた。
先週までの猫背でクセ毛な男はもうそこにいなかった。

友達が声をかけてくる
友「おっ!ストパーかけたんだ!」
私「ふっ。まあネ」
友「これさー、いっつもあれみたいだなーって思うんだよな」
私「?」
友「あのー弁当仕切るさー、、あ!バランだ!バラン!」
私「!!!!」

バラン…?

その瞬間、目のまえで揺れるまっすぐな髪の毛が一瞬にして緑色にみえた。

あ〜、なるほどね〜なんかこれ見覚えあるな〜って思ってたら毎日かーちゃんが作ってくれる弁当に入ってるからかーウンウン、なるほどね〜♪

私が手に入れた自信は脆くも崩れ去り
そこには猫背でバランな前髪をもつ男だけが残った。


そんな男が
生え際から中間までアイロンをいれてもらい毛先は自然なままでや
全体にパーマをあてるなどといった技を覚えるのはもう少しあとのことであった……。


***

そんな私と、同じく学生時代をクセ毛に悩まされた妻との間にできた子はストレートヘアだった(襟足だけ内側にくるんっとしてる)。

この子が将来もし自身の髪の毛に悩むようなら
そのときは私が得た経験をもとに出来る限りのサポートをしようと思う。

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