旅路
高い山を登るには時期を選ばなければならない。山に関して無知である以上、登らないという選択を常に宿していなければ、いつか大事なものを失ってしまうだろう。今五体満足で歩けていること、歩きたいと思えることは誰かの血と汗、力と技術、計算と偶然に助けられているからだということを忘れてはいけない。確かに憧れや挑戦は美談にするに易い。ただし、手の加えられたものを避け、全て自力で乗り切ることは能力的に不可能であるし、その話を持ち帰れなくなるような旅路も虚しい。逃すことで逆に想像が膨らんだり、新たな選択を閃いたりするのだから、失った機会を指折り数えることは生産的ではない。