中学時代の「謎」の答をあなたに
塚谷君へ。お元気ですか。私は年齢相応に、そこそこ元気です。
お手紙しましたのは他でも無い、中2の時のあの謎の答えをお知らせしたく筆を取りました。
謎とは、何か分かりますか。
ヒントは「机」、それから「宇宙戦艦ヤマト」です。もう分かりましたね。
塚谷君が机いっぱいに鉛筆で描いていた宇宙戦艦ヤマトの模写(作成途中)、
そこの横に毎日、メッセージが鉛筆で走り書きしてありませんでしたか?
そのメッセージの主は誰か、気になっていませんか?
だってあんなメッセージ交換が何回も続くなんて、なかなかそういう事って無いじゃないですか。
先に結論を言うと、それは私だったのです。
ごめんなさい。
メッセージの内容は他愛ないものでしたよね。
私が放課後に、「上手ですね」と書き、
翌日の放課後にはあなたの文字で、
「ありがとう」
とありました。
その後、何回かやりとりがあり、ある日の放課後に机を見ると、
「君だれなの?」
とあった日から、私は返事を書かなくなりました。
理由は想像できますか?
ひとことで言うと、勇気が無かったんですね。
私は成績もスポーツも外見も、すべてパッとしない存在でしたので。
いっそヤンキー(ツッパリ)にでもなれたらパッとしたのかも知れませんが、それさえもハードルが高い人間だったんです。
そんな私の名前を書いたら、あなたはどう感じるだろうか?
途端にメッセージは途切れて、がっかりしたあなたがもしかしたら
「藤井、ふざけんな」
と怒るかも知れないと、臆病になってしまったんです。
その翌日か、翌々日だったか、いつものように放課後、美術部の部室から自分の教室に戻り友人としゃべっていた時の事です。
あなたが剣道着姿で、教室にやって来たんですよ。
カッコよかったな。洗いざらした藍色の剣道着を揺らしながら歩くあなたは本当に凛々しくて見とれました。
わざわざ放課後に教室に来るなんて、
あの机のメッセージ主を確認しに来たのでしょうか?
あの時はヒヤヒヤしたりドキドキしたり、ハートが忙しかったです。
さて、こんなお知らせを何故今さらするのかお伝えしておきます。
あの机の上に書いた宇宙戦艦ヤマトを、ある日消す日が来たでしょう。
私はよく覚えていますよ。
担任の先生が、ある朝のホームルームで、あなたの机を見て、落書きを消すように言いましたよね。
あなたは消しゴムを使い、全て消してしまい…。
「先生に怒られたの、私のせいでもあるよね。ごめんね」
と、あなたの机に書いたのが久しぶりで最後のメッセージでした。
それで、あの…。
あの担任の先生、この前亡くなったんです。
塚谷君、当たり前かも知れないけど、人はいつか死ぬんだね。
それまでにしておきたい事は、迷わずすべきだよ。
そのうちの1つが、このお知らせだったのです。
もし良かったら、あの未完成だった宇宙戦艦ヤマトをもう一度描いて下さい。
私も横で応援します。
勇気を出して、昔好きだった事も伝えます。
もちろん、ヤマトの絵の端っこに手書きでね。