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『旅をする木』で彼と出会えた

読書好きの父が「この本よかったよ」と教えてくれた1冊。

『旅をする木』星野道夫 著

アラスカへ移住した写真家と聞くと
タフでぶっ飛んだ人なんだろうな、と思っていたけど、
予想を反して、
星野さんの言葉はとても柔らかくて優しくてびっくりした。

本にはアラスカで暮らす星野さんの
日々の気づきが丁寧に綴られている。

日記のようでもあり、
大切な人への手紙のようでもあり、
厳しい自然の中で見つけた美しい世界と
同じ世界で多様な人生を送る私たち人間への、
愛と感謝とリスペクトに満ちた優しい祈り。

頬を撫でる極北の風の感触、
夏のツンドラの甘い匂い、
白夜の淡い光、
見過ごしそうな小さなワスレナグサのたたずまい……

ふと立ち止まり、
少し気持ちを込めて、
五感の記憶の中にそんな風景を残してゆきたい。

何も生み出すことのない、
ただ流れてゆく時を、
大切にしたい。

あわただしい、人間の日々の営みと並行して、
もうひとつの時間が流れていることを、
いつも心のどこかで感じていたい。

そんなことを、いつの日か、
自分の子どもに伝えてゆけるだろうか。

『旅をする木』P231


ときどき、自分は何のために生きているのか考える。

働いてても、果たして自分は役に立っているのだろうかと考える。


結果が、最初の思惑通りにならなくても、
そこで過ごした時間は確実に存在する。

そして最後に意味をもつものは、
結果ではなく、
過ごしてしまった、かけがえのないその時間である。

『旅をする木』P231

そうか。
ついつい、結果ばかりフォーカスしてしまうけど、
どんな時間を過ごしてきての『今(≒結果)』なのか。
どんな時間を過ごしていっての『未来(≒結果)』なのか。
それを丁寧に見つめることが大切なのだと立ち返る。

迷ったり間違ったり、
思い通りにならなくても、
何がより多くの人を幸せにする生き方かを自分自身で選び取っていく。
人生最後のその日まで、
そうして試行錯誤した時間の中で得た糧に、
私の生きる意味がある。
私たちの生きる意味がある。

そして、同じ瞬間、同じ世界で、
全く異なる時間を生きる存在が無数にあるという奇跡。

星野道夫さんが生きた意味。
彼は、彼が過ごしたかけがえのない時間を、
写真と言葉で残してくれた。

同じ時代を生きたもう会えない人。
だけど私は『旅をする木』で彼と出会えた。

本は時間と空間を超えて出会える人との出会い。
心に響く光る言葉を知る機会。

たくさんの人に読んでもらえたらいいなと思う1冊。

『旅をする木』星野道夫 著

*参照:『悠久の時を旅する』星野道夫 著

 

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