アンチ・エアポッズの到達点
iPhoneユーザーなのにAirPodsを所持していない。そもそもAirPods自体に触れたことすらない。
こんなことを云おうとするなら、俗にいう「Apple信者」とやらの人物から『あなたはそれでもiPhoneユーザーですか!?』などと、一斉に声を荒げて騒ぎ出すかもしれない。
というのも、私は4、5年ほど前にiPhoneに切り替えておきながら、今日まで複数のヘッドホンやTWSを含むイヤホンを持っているにも関わらず、一度もAirPodsを持ったことがないのだ。
5年以上前にAirPodsが世に放たれて以降、人気の多い街中を歩けば、あるいは電車に乗れば、誰かしら付けている人を必ず一人は見かける。
という具合に今や、私たちの生活の中に当たり前のように定着してきている。逆に一日を通してそれを付けている人を、一度も目にしない方が難しくなりつつあるほどに。
現在もiPhoneを所有しているユーザーが、国内で大半の割合を占めている以上、その存在を知らない者はほとんどいないだろう。
だからこそ、徐々に人と同じ物を持つことを拒むようになった捻くれ者の私は、AndroidからiPhoneへと切り替えた際、敢えてAirPodsに触れずまったく新しいタイプの完全ワイヤレスイヤホン(以下略:TWS)を手に取ったのである。
自分が良いと思った音楽をより良い物で聴きたいからこそ、どうしても金銭面を理由に妥協はしたくなかった。
かといって、万人向けとされているソニーのノイズキャンセリングに特化したTWSやAirPodsに心を開こうとせず、あまり耳馴染みのないメーカーを中心に、あれこれ探りながら試聴してみた。
その結果自分の耳は、アメリカはニューヨーク発のブランド『Master & Dynamic』から当時発表されたばかりのMW07 Plusに行き着いたのである。
因みに、他に発売されていたTWSの中ではもっとも値段が高く、ほぼ同じ時期に発表されたAirPods Proよりも上回っていたと思う。
それ踏まえ、今まで使ってきたイヤホンよりも音の解像度が高いはもちろんだが、特に低音においては両耳から流れた瞬間、まるで体の奥の神経に届きそうな感覚に思わず息を呑んでしまった。
他にも、同じ色でも一つ一つのデザインが異なる外観や、ちょっとしたことでも落ちにくい独自の規格を持ったイヤーチップに、高級感漂うステンレス製の充電ケース、などなど…。
一つ一つ挙げていったらキリがないくらいに、このTWSには私の想像をはるか超えるほど、かつ今まで体験したことのない魅力が溢れている。そこから取り憑かれるようにして、ほぼ毎日肌身離さず持ち歩きながら3年以上使い続けてきた。
今は役目を終えて、昨年に購入した別のモデルを愛用しているが、私にとって初めてのTWSがかなり満足のいくものであったこともあり、次に使うものに移行するまでかなり時間を要してしまった。
ゆえに、自分の耳がその音に慣れ親しんでいる以上、贅沢な悩みかもしれないが今現在もAirPodsに手を出そうという勇気(?)が湧いてこないのである。