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転機と新天地とガタイのいい担当者
「タダノさ〜ん、そろそろ新車なんてどうですか?」
「いや〜、チョットムズカシイッスカネェ〜」
Uさんは、愛車の面倒を見てもらっている担当者である。現在私は、半年に1回の頻度でおこなわれる点検のために、自宅近くにあるディーラーへと訪れている。
その当日、店舗の敷地内に入って駐車場に停めようとすると、Uさんらしき人物がこちらに駆けつけては誘導してくる。そこから駐車を終え、ドアを開けて挨拶を交わした後にUさんは、ごまをするようにして新車の買い替えを促してくる。
それに対して私は、片言を喋る外国人になったつもりの小ボケをかますように、Uさんの催促をひらりと交わしていく。その途端になぜか、お笑いコンビのオードリーの漫才よろしく「ヘヘヘヘヘッ」と、お互いの笑い声がこだまするのであった。
そんなUさんのいる店舗でみてもらうきっかけとなったのは、以前まで面倒を見てもらっていた地元のディーラーに対して、愛想が尽きたからである。担当者がほぼコンスタンスに変わるという常態と化している中、いい加減に見切りを付けなければならないと思っていた。
数年前、私が新天地へと向かう物件を探している中、また担当者が変わる通知を知らせる一通のハガキが届いたのである。この時の私はいったい何を思っていたのか、偶然にもタイミングが合致したことを好機だと思い込みー
「変えるなら今しかない」と、自ら言い聞かせるようにして悟ったのだった。
それからの変更の手続きは容易であった。ウェブを開き、専用のサイトで変更に必要な項目にそれぞれ入力をおこなってからは、転居先より最寄り店舗からの連絡を待つのみとなった。
引っ越しの準備を進めながら待機すること数日後、一本の着信が入った。その相手こそ、後に担当者となるUさんである。はじめは電話のみでやりとりしていたが、日にちが経つごとに通話やメール等では、どうしても完結できない部分が出てくるのだ。
一通りの変更をお願いしてもらうことに伴い、公的に取得した書類の提出や諸々の手続きを行う必要が浮上してきた。ここまでは想定していたつもりであったが、中には一から作成しないといけない書類もあったため、揃うまでにはかなり骨が折れるものであった。
それと同時に、愛車の点検を行なってもらう時期にもちょうど差し掛かっていたのである。やがて一通りの引越しが終わってから一ヶ月後に、新しくお世話になる店舗へと直接出向く流れとなっていった。
そこで私は、Uさんとはじめて対面を果たした。当時はコロナ禍の真っ只中であるため、お互いにマスクを着用した状態での挨拶を交わす運びとなったのである。
ただ、電話口で想像していた人物像と、実際にお会いしたそのギャップに、私は思わず目を丸くしてしまったのを憶えている。まさかUさんが、一回りガタイがいいとは思いもしなかったのだから。
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