ヒットチャートを駆け抜けろ!
私が学生だった頃のある休みの日、父親と一緒に家から少し離れたCDショップに出かけていた。
そこは当時私の住んでいた地元では、邦楽や洋楽問わずクラシックやジャズなど豊富な品を取り揃えており、都内にあるタワレコなどに負けず劣らずの規模を有していた。
車で向かうことおよそ10分で着き、お店の正面入口を入って真っ先に見えたのは、メジャーデビュー10周年を迎えてリリースされたスガシカオのベストアルバムであった。
「日本のキング・オブ・ファンク。初のベスト・アルバム!!」と大々的に表されたポップの下には、プラスチックケースの上にコピーか何かで印刷された紙が貼り付けられたCDの見本の山がずらりと並んである。
父は普段から大の洋楽好きであり、邦楽のCDに手を出す機会はほとんどない。だが珍しく目移りしてしまったのか、お互いに買うものが決まってレジに並んでいた際、父が手に持っているカゴの中にはその一枚があった。
やがて数日後、父から買ったばかりのベストアルバムを渡されると同時に、車で聴きたいからカセットテープに録音してほしいと頼まれたのである。
この時の私は、一緒に行って買ったばかりの某ミクスチャー・ロックを主としたアーティストの新譜を聴いている最中だった。
反抗心で「自分のでやればいいじゃん」と一瞬言いそうになったが、父の使っていたオーディオデッキは、CDからカセットテープへと録音する相性がなぜか悪いことを咄嗟に思い出した。
録ったものを再生するたびに毎回ザラついた音に対して、私も若干気になっていた。仕方なく引き受けることにして、自分が使っているMDコンポの前で神経を無駄に張り巡らせながら、約2時間かけて録音をおこなったのである。
おそらく私がスガシカオの音楽にのめり込むきっかけになったのは、偶然にもその時間があったからかもしれない。
そのベストアルバムの中で「光の川」「クライマックス」「秘密」の3曲にどハマりしたのは間違いない。ただその一方で、デビュー曲「ヒットチャートをかけぬけろ」も実はヘビーローテーションしていたのである。
因みにスガ氏自身が、サラリーマンの時期を経て30歳にしてメジャー・デビューを果たしたという事実を踏まえる前とその後では、個人的にはだいぶ印象が変わっていると思う。
演奏の完成度はもちろんのこと、歌詞に綴られた言葉の重みが増していく、という率直な感想を持った。もしも社会人の過程を踏んでいなければ、もしかしたら世に放たれていなかったかもしれない、と考えただけでもゾッとしたが…。
後にPVを見た時、今やトレードマークであるサングラスをかけず帽子を被っていたのは少々驚きであったが、こんな時期もあったんだと新鮮に思えて、一層惹かれるものをこの時感じていたのである。
それよりも「ヒットチャートをかけぬけろ」でシーンに降り立つだなんて誰も想像していないし、今でもたぶん真似ですら一つもできやしない。
スガシカオさん、デビュー27周年おめでとうございます。
最後までお読みいただきありがとうございました。 またお会いできる日を楽しみにしています!