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はるか昨日のことのように思い出す

「30歳を過ぎたら、時が経つのが早く感じるようになるよ」


十数年以上前、当時お世話になった先輩であるW氏をはじめ、ひと回り年上の同僚や年配の上司を含む何人から、その台詞を耳に胼胝たこができるぐらいに何度も聞かされていた。

その頃の私は、まだ学校を卒業して間もない時期だったために「時間の経過が早く感じるようになる」と云われても、その実感が一ミリたりとも湧いてこなかった。

勿論、学生だった時の感覚が抜け切れていないこともあり、そうした話が先輩方を中心に時々話題に持ち上がってくるたびに、私は半信半疑の心持ちで聞き流していたと思う。

当時のことを考えれば、にわかに信じがたいことでもあった。それぞれ感受性が異なっているとはいえ、同じ時間軸に沿って行動しているというのに、そんな極端に早く感じるものなのだろうかと。


想像がほとんどついていない日々から、やがて十数年以上の時が経ち、現在に至る。

終礼が鳴り終わった金曜日の夕方、私は新天地でこれからお世話になる先輩方と、これといって取り留めのない雑談を交わしていた。その中には、時間の経過について無意識に話をすることもあった。

気づけば今月に入ってから、あっという間に5日以上が経過している。一週間の月日を振り返る余裕もほとんどなく、まるでつい昨日までに起こった出来事みたいな感覚に浸っていた。

それと同時にこれまで長年の間、私の心の中でつっかえていた疑問が、いつの間にか水に溶かされていった「何か」のように、薄れていたことに気づいたのである。

これがW氏をはじめ、先輩方が口酸っぱく云っていたことだったのか。年齢を重ねるにつれて時間の感覚が早くなっていくのを、私はこの日を持って改めて自覚したのである。

理解するのに十年以上もかかってしまったとはいえ、自身がこうした一種の意識を持っている間は、まだまだ序の口なのかもしれない。これよりさらに一年そして十年と過ぎていくごとに、時の流れをもっと早く感じるようになっていくのだろう。

そしていつしか、仲間たちと共に謳歌した日々や、孤立した中で己と向き合った日常も。ずっと歩いてきた道のりが、はるか昨日のことみたいに、ふと思い出す日が多くなっていくことを。


ただ、そうやって思い出が重なり過ぎて遠のいてしまう前に、まずは就職することができたことに関しての報告を入れようと、私はひとり静かに決意するのであった。せめて、今でも交友関係が続いている方々には。

最後までお読みいただきありがとうございました。 またお会いできる日を楽しみにしています!