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後出しふりかけに気を取られて

8月もようやく終わりが近づいている頃、私は中目黒を訪れていた。


この日も例の如く、一連の用事を済ませた後、すぐに駅に向かおうとせずにとある場所へと向かっていた。この時の私は、以前から目星を付けていた洋食屋で昼食を取ろうと、自宅から外出する前に決め込んでいたのである。

そこは、駅から徒歩でおよそ10分かかる場所に位置する、主にハンバーグを取り扱っている洋食屋さんだ。そこでは4つのこだわりを持っており、某サイトで閲覧したランキングでは上位に入っているほどの人気店らしい。

私が抱えていた用事は、正午に入る一時間ほど前に終わっていた。とはいえ、日頃から活気に満ち溢れているお店ならば、一番のピークに差し掛かるであろうお昼時の前でも、少々混雑しているかもしれない。


そう思いながらもお店に入ったところ、幸いなこと席はほぼ空いている様子であった。平日のサラリーマンやOLたちなどの姿は見受けられず、ほぼ貸切状態を目の当たりにして少々浮かれていたのである。

献立の書かれた冊子にあらかた目を通すと、お店のイチオシとされているハンバーグを、ご飯や味噌汁、それにサラダなどが付いたランチセットで頼むことにした。

やがて運ばれてきたウェルカムドリンクなるものをはじめ、どれにおいても非常にユニーク揃いで、見ていて新鮮さに満ちていた。勿論、メインディッシュであるハンバーグも大変美味であった。


間もなく食事が終わろうとしているところで、突如として私の座っている席に、店員さんから瓶詰めのふりかけが、手元に出されたのであった。

この時、片手に持っている茶碗は、すでにほぼ空っぽになっていた。かける対象であるごはんに、かけるにもかけようがない。いきなりの登場に、私はほんの数秒ほど硬直してしまったのである。

それならば、単におかわりをすればいい。目を通したメニューには、おかわり自由の文言が書かれているから気兼ねなく頼める。しかし、ある程度の満腹感を得られた私にとって、これ以上は要らない状態だった。

こんなタイミングで出てくるとは思いも知らず、ある意味で予想外の事態に直面してしまった。そして、一通り出されてきたランチコースのトリを務めるつもりで満を持して登場したふりかけも、まるで呆然と立ち尽くしているような光景が写っていた。 


名残惜しいと思いながらも、後出しとなったふりかけは結局、一度も味を知るどころか触ることも一切ないまま、一足早めのランチは終わってしまったのであった。

はじめて訪れた洋食屋さんで、お目にかかったハンバーグに舌鼓を打つも、土壇場で駆け込んできたふりかけに対して靄がかかってしまい、ほんの少しだけ消化不足に陥っていた。

何より、次にこの場所に訪れる時がいつになるかわからない。もしかしたら今回が、最初で最後になるかもしれないとも考えていた。

食事が終わる前に、軽めの量でご飯をおかわりした方が良かったのだろうか。そう迷いながら、アクリルスタンドに入ったメニューボードに目を移すと、思わぬものが目に飛び込んできた。


このお店では、通常のメニューをテイクアウトできる他に、サラダにかけるためのドレッシング、それに例のふりかけが個別で買えるそうだ。

しかしながら自家製オリジナル商品であって、やはり値は張っている。けれど、あのふりかけが一体どんな味であるのか、知らないままではいられない。この時の私は何故か、一商品に対してご相伴に預かりたい一心であった。

そして会計を済ませている最中に、私は店員さんに一言声をかけた。さすがにその店員さんは、初めて訪れてきたお客様がまさかアレに手を出すとは…と、内心驚いていたのかもしれない。

「すみません、このふりかけを一つ頂けますか?」

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タダノツカサ
最後までお読みいただきありがとうございました。 またお会いできる日を楽しみにしています!