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さよなら相棒、そして、はじめまして相棒
「本当に…よくここまでついてきてくれたよ」
愛車との決別、そして新しい相棒を迎える日までの間。いろんな書類をかき集める日々に、私は地味に追われていた。
買い替えに伴って所有権の解除に必要な書類をはじめ、車庫証明を取得するのに必要な書類など…。それぞれ提出するものを役所やら管理会社やら、至る所から取り寄せていたのである。
こうした一連の流れにおいては、一度や二度と経験したことがあるとはいえ、平日に仕事をこなしながらうまいこと確実に揃えていくのは、さすがに骨が折れるものであった。
少々面倒だと感じつつも、一通りの手続きはなんとか納車日までに間に合わせることができた。後は、静かに迫ってくるカウントダウンを数えつつ、残り僅かとなった愛車とのドライブ時間を、悔いのないよう楽しむだけだった。
いよいよ「転換期」を迎えた当日。目的地であるディーラーに到着して店内に入った後も、ここぞとばかりにUさんの方で用意された書類に署名を書かされることになった。
しばらくの間、ほとんど使う機会のない実印をはじめとした印鑑たちが、ここぞとばかりに活躍していく。手続きを済ませて外に出ると、さきほどまで走らせていた愛車と、今日から乗り始めることになる新しい相棒が並んで停まっていた。
まさに、一度きりのツーショットだった。稀に見ない姿に感慨深いと思い耽るも、今日を最後にこの2台が同じ場所に並ぶことは、もう二度と訪れない。
「記念に一枚写真いかがですか?」とUさんから勧められたが、私自身写真に写ることが苦手なので、2台が一緒に並んでいる姿だけを一枚の画像に収めた。
Uさんから操作の仕方や取り扱い方の説明を受け終わり、積んでいた荷物の移し替えも終える。後は愛車に別れを告げ、新たな相棒に乗り込んで後にするだけであった。だがその前に、やるべきことが一つだけ残されている。
私は隣に置かれている愛車に手を置き、これまで辿ってきた思い出を張り巡らす。長きに渡って共に走り続けてきた中で、この目に焼き付けたさまざまなシーンが、まるで走馬灯のように映像が浮かんでは消えていく。
たった一言や二言だけでは表し切れない。それほどに幾つもの情景が蘇っては心から溢れてくる。10年以上の付き合いで走り続けた日々は、何がどうであれ、計り知れないものであった。
私の20代という半生はこの一台と共にあり、今日に至るまで心の支えの一つであったことを、改めて思い知らされる。
はじめて出会った頃、
ひたすら高速道路を走っていた頃、
一人で旅をしていた頃、
新天地に向かって走らせた頃、
幼馴染、
両親、
兄弟、
友人、
かつての職場の先輩や同僚に後輩、
命の恩人。
ここに至るまで自分と関わってきた人たちを
助手席や後部座席に乗せて走らせていた頃を、
一つ一つ噛み締めながら…。
「それじゃUさん、この子のことをよろしくお願いします」
我が子を送り出すように、およそ10年もの詰まった思い出を込めた愛車を、Uさん率いるディーラーに託し、これから人生を旅していくための新しい相棒とともに静かに走り始める。
間もなく2024年という一年が終わりを迎えようとしている中、私は次のステージに向けて、秋晴れの下を駆けぬけていくのであった。
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