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技術士(経営工学・情報工学)が教えるDX(デジタルトランスフォーメーション)講座8 定義からひも解くDXデジタルトランスフォーメーション

 そもそもDXとは何なのでしょうか。DXに関連するセミナーや書籍はいくらでも見つけることができますが、結局のところ、DXは何かという答えは見つからないということはないでしょうか。単なるIT化やデジタル化をDXと呼ぶような、あまりにもいい加減すぎるものは論外としても、高度なITを使った経営革新と言われてもなかなかピンときません。

 経済産業省が2018年に発表した『DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~』には、次のようなDXの定義が紹介されています。

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DX に関しては多くの論文や報告書等でも解説されているが、中でも、IT 専門調査会社のIDC Japan 株式会社は、DX を次のように定義しています。

「企業が外部エコシステム(顧客、市場)の破壊的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネス・モデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること。」

さらに、IDC 社は、現在、飛躍的にデジタルイノベーションを加速、拡大し、IT と新たなビジネス・モデルを用いて構築される「イノベーションの拡大」の時期にある、とした上で、

「企業が生き残るための鍵は、DX を実装する第3のプラットフォーム上のデジタルイノベーションプラットフォームの構築において、開発者とイノベーターのコミュニティを創生し、分散化や特化が進むクラウド 2.0、あらゆるエンタープライズアプリケーションで AI が使用されるパーベイシブ AI、マイクロサービスやイベント駆動型のクラウドファンクションズを使ったハイパーアジャイルアプリケーション、大規模で分散した信頼性基盤としてのブロックチェーン、音声や AR/VR など多様なヒューマンデジタルインターフェースといった IT を強力に生かせるかにかかっています。」
と DX の重要性を強調しています。 
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 ここに紹介されているDXの定義は、一見すると非常に難解でとてもわかりにくい文章なのですが、よく読んでみると見事にDXの本質をついていることがわかります。文章が長いので短く切って何がかかれているか見ていきましょう。

「企業が外部エコシステム(顧客、市場)の破壊的な変化に対応しつつ」
 エコシステムとは生態系のことであり、企業や顧客、サプライヤーなどが互いに依存しあって存在している全体としてのまとまりを意味します。ここでは企業の外部環境として存在する顧客や市場を外部エコシステムとしてとらえて、その変化に対応しないといけないと言っているのです。経営学やマーケティングを学んだ人であれば、SWOT分析の中の外部環境である機会と脅威を思い浮かべればよいでしょう。ただし、その変化がパラパラと起こるのではなく、エコシステム―経営環境まるごと激変するぞと言っているのです。

「内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら」
 今度は、SWOT分析の中の内部環境である強みと弱みを思い浮かべればよいでしょう。内部エコシステムを変革するということは、その構成要素である特定の部署や業務、社員ではなく、全部署、文化全体、全従業員を変えるという意味です。それを「牽引」するのは誰かと言えば当然、経営者であり、また幹部社員も現場の社員もトップまかせではなくリーダーシップを発揮しないといけないということです。

「第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して」
 ここでは、二番目の定義の中にある「企業が生き残るための鍵は、DX を実装する第3のプラットフォーム上のデジタルイノベーションプラットフォームの構築において」にも注目することが必要です。二番目の定義の後段で、第3のプラットフォームの要素技術がより詳細に例示されているからです。

「クラウド2.0、あらゆるエンタープライズアプリケーションで AI が使用されるパーベイシブ AI、マイクロサービスやイベント駆動型のクラウドファンクションズを使ったハイパーアジャイルアプリケーション、大規模で分散した信頼性基盤としてのブロックチェーン、音声や AR/VR など多様なヒューマンデジタルインターフェースといったIT」
 クラウド1.0がコンピュータや情報システムの仮想化によるビジネスの効率化を実現するものだったのに対して、クラウド2.0は、データの仮想化によるビジネスの高度化をめざしています。ブロックチェーンは物理的に分散したデータを仮想的に連結し、AR/VRは現実世界のデータと仮想世界のデータを仮想的に連結します。パーベイシブ AIとは水や空気と同じように意識せずともそこにあるAIであり、あらゆるものがIoT化してデータ化できればAIによる予測や制御が可能になっていきます。
 マイクロサービスとハイパーアジャイルアプリケーションについては、後述する予定のローコード・ノーコードツールがまさにこれに当たるものであり、クラウド上の部品的なソフトウェア(マイクロサービス)をAPIで呼び出して組み合わせ、高速にかつ柔軟にソフトウェア開発ができるというものです。

「新しいビジネス・モデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること。」
 最後のところは、まさにDXの真髄とも言うべき最重要なキーワードが並んでいます。DXはIT利用による業務改善や効率化といったものを指すのでは決してありません。「新しいビジネス・モデル」を構築しなければならないのです。そして、それは一回きりで終わるものではありません。高スピードで継続的にやり続けなければ競争上の優位性は維持できないのです。DX事例でよく紹介されるAIなど先進的なITを駆使した成功企業の例は、過去にDXだったことがわかるだけです。DXとは、経営革新の結果ではなく「革新し続けている状態」を指します。顧客や市場が求めることが変化し続けることを考えれば、このことは当然のことだとわかるでしょう。そして、顧客価値の増大をめざす上で、ネットだけリアルだけという発想も馬鹿げています。大切なことは、顧客エクスペリエンスの変革、要するに、新価値を創出して顧客に体験してもらい、もっと幸せになって欲しいと思う連続的な「イノベーション」の活動なのです。



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