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技術士(経営工学・情報工学)が教えるDX(デジタルトランスフォーメーション)講座6 既存組織、既存業務のままでのIT化や改善はDXではない

 前述したように、DXは単なるIT化ではなく、部署の壁、企業の壁を超えたビジネス・イノベーションをめざすものです。既存組織、既存業務のままでのIT化や改善はDXではありません。DX推進チームを編成したところで、メンバーが既存組織や担当業務に縛られていては改革を期待できません。現場がトラブルで大騒ぎになっている中で、人ごとのように会議しているというのもおかしな話しです。

 実は、現場現物現実(三現主義)を無視して、将来構想を描くというやり方自体が、DXのあるべき姿とかけ離れています。トヨタ生産方式に「アンドン」という考え方があります。現場の担当者は異常に気づいたら、アンドンのひもを引っ張ることによってラインを止めて、関係者全員を集めて解決にあたります。まさに、部署の壁を越えた活動がそこにあります。「アンドン」の考え方が浸透している工場であれば、会議中のメンバーも例外なくトラブル現場に集まるのです。

 DXに取り組みたい、でも現場が忙しすぎて時間がとれない、多忙な部署からの参画が期待できないというのであれば、むしろDX推進のチャンスとしてとらえるべきです。自分の部署のことは関係ない、目先の改善など重要ではないと考えてしまうことが、最大のDX推進の障害です。「アンドン」は工場内での取り組みですが、これを全部署の仕事に適用すれば、りっぱな部署の壁を超えたビジネス・イノベーションとなります。社内のどこかで何か問題が起きたことを関係者全員で共有できる「デジタル・アンドン」のようなしくみをつくれば、まさにDXそのものではないでしょうか。

  部署の壁、企業の壁を超えたビジネス・イノベーションというと、難しいことのように聞こえるかもしれません。しかし、今までのビジネス活動が部署ごと、企業ごとに行われていとすれば、その糸口はいくらでも見つかるはずです。品質は品質保証部の仕事、設備維持は生産技術の仕事、在庫確認は発注担当の仕事、会計業務は経理部の仕事、人材育成は人事部の仕事、…。本当にそれでよいのでしょうか。本来、品質保証とは全社を挙げて品質改善に取り組む活動を意味します。会計情報の元は全て社内のどこかの部署で行われた活動を反映しています。どのような人材が必要なのか、どのような教育が必要なのかを知っているのは、人のことで困っている各部署のはずです。

  企業の壁を超えることを見つけるのも難しくないはずです。受注情報の元は客先の発注情報です。ネットショップでは顧客自身が注文情報を入力するのは当たり前のことです。商談での商品情報から始まって、見積情報や注文情報、納期情報、納品情報、請求支払情報など、企業間で共有すべき情報は少なくありません。依頼事項やクレームなど担当者が変わっても共有しておくべき重要情報もあるでしょう。また、客先ではなく仕入先との関係でも同じようなことが起きているはずです。また、化学物質使用や廃棄物処理などの環境取り組みや、食品でのトレーサビリティ、電子機器でのサイバーセキュリティなど、最下流から最上流までサプライチェーン全体で連携すべき情報も挙げていけばきりがありません。

  DXで重要なことは、高度な情報技術を使うかどうかではなく、部署の壁、企業の壁を超えた改善活動に取り組めているかどうかにあります。DXにおける先達の企業が部署の壁、企業の壁を超えた改善に取り組んできた結果、デジタル・アンドンのためのIoTやデータ共有のためのBIビジネス・インテリジェンス、企業間連携のためのEC電子諸取引、品質不良や納期遅れを予測するAI、サプライチェーンでの工程管理やトレーサビリティのためのブロックチェーンといった最先端の情報技術たちが活躍の場を見つけることができたのです。

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