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技術士(経営工学・情報工学)が教えるDX(デジタルトランスフォーメーション)講座9 エコシステムが古い下請構造を破壊し、新しい企業結合を生み出す

DXとは何かについて、まずは全体的な理解のための話しをここまでしてきました。今回はその区切りとして、DXと切って切れない関係にあるエコシステムについて考えてみることにします。次回からはいよいよDXについて、その進め方や技術的詳細について入っていきます。

エコシステムについては、DX関連の書籍やWebサイトでも丁寧な説明を見られるようになってきました。まずはその定義について確認した後で、本稿の主目的であるDXにおける具体的な実現イメージについて述べてみたいと思います。

エコシステムという言葉は別に新しいものではなく、本来的には「生態系」を意味する用語であり、同じ世界に暮らす様々な生物たちが、お互いに依存しあいながら生きている状態のことを指します。私たち人間も含めて生物は、自然界でただひとつの種だけで生きていくことはできません。大気や気候現象、土壌などの環境要素を含めた栄養を吸収する微生物、そしてその微生物を食べる虫、その虫を食べる動物、さらには動物の排泄物から栄養を吸収する植物といった連鎖関係を構築・維持しながら生きています。

 自然界の「生態系」をビジネス社会に照らしてみると、消費者や企業、教育機関、行政組織などの間にも同じような依存関係があることに気づきます。社会全体もみても産業連関という連鎖関係を見つけることができ、特定の産業、さらには一メーカー企業だけをみてもそこには、材料から材料加工、部品製造、部品組立、製品販売、購入、消費、廃棄、回収といったビジネス上のエコシステムが存在しています。

 製造業や建設業、さらにはIT業界にさえも見ることができる昔ながらの下請け構造も一つのエコシステムとしてみることができます。末端のプログラマーがフリーランスや副業としてシステム開発というエコシステムに参画し、そこで得た報酬で自分自身も何らかのアプリを購入して利用するとすれば、まさに相互依存の関係がそこにあると言えるでしょう。

 DXにおいて、問題となるのはこれら既存のエコシステムが崩壊し、新しいエコシステムが形成されつつあることにあります。前回ご紹介したDX定義のように、企業は外部エコシステムの変化に対応しつつ、内部エコシステムも変革しければなりません。外部エコシステムはインターネットやスマホといったデジタル技術の登場によって変化している一方で、日本の企業の多くがデジタル技術をうまく利用できず、内部エコシステムの変革にもがいている姿は、地球環境の変化について行けずに絶滅した恐竜のように思えてこないでしょうか。

 当然、日本においてもこの新しいエコシステムに適合しつつある企業が登場してきています。しかもこうしたDX先進企業は、より圧倒的な競争優位を持つ新商品・サービスの開発や、新たなビジネスモデルを創造するために、自社単独の力では弱すぎることを知っています。日本の先進企業どころか、GAFAのような世界トップのDX企業すら、ありとあらゆる企業連携を模索しています。M&Aもその一つにすぎず、日本でも設立可能になったLLC(合同会社)やLLP(有限責任事業組合)形態によるJV(ジョイントベンチャー)活動も活発に行われています。日本では、昔の方が異業種交流会や青年経営者会議のような企業グループによる活動が活発だったような気がします。

 古いエコシステムの破壊と新しいエコシステムの創成は、イノベーションが生まれようとするときに、必ず起きるものです。その典型例が、旧態依然として下請け構造の終焉であり、新しい企業結合の登場なのです。

 さて、新しいエコシステムとして企業結合が必要となった時、その参画企業には何が求められるでしょうか。いっしょにビジネスをするための共通のルールやしくみが必要になるはずです。古い商慣習や企業独自のルールに縛られている企業とは密な業務連携などできるはずもありません。だからこそ、業務の標準化、できればグローバルスタンダードに合わせるべきなのです。

 しくみの方も同じです。古いオフコンシステムや外部連携が困難な情報システムは、DX推進上、負の資産です。SQLによるデータ連携、APIによるシステム連携できないシステムは論外なのです。さらに言えば、受発注やトレーサビリティなど外部連携が想定されるシステム機能はマイクロサービス仕様にして、自律的に外部システム機能と接続できるようにしておくべきです。IoTやブロックチェーンといったデジタル技術も、企業間のシステム連携のために重要な役割を果たすようになっていくでしょう。

従来から食品卸などでの利用が多かった「BtoBプラットフォーム受発注」(旧フーズインフォマート)のようなマーケットプレイスも、エコシステムのためのしくみと言えます。プラットフォームという言葉を使っていることから、DX定義にある「第3のプラットフォーム」としての地位を確立することを意識しているのかもしれません。

Googleのような超巨大企業ですらDX推進のための企業結合を重視しています。日本の大企業の間でもコラボビジネスを模索する動きが加速しています。しかし、人材などリソースが不足する中小企業こそ企業結合が不可欠なはずです。DXは単なる自社をIT化する話しではありません。企業結合によって価値創造力を高め、新時代を生き残っていくための「生存活動」なのです。さあ、まずはDXの共同勉強会を始めましょう!それこそが自分たちのためのエコシステムの始まりです。

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