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事業立ち上げ期におけるふりかえり

この記事はふりかえりAdvent Calendar 2021 21日目の記事です。

私は中堅規模のSIerで普段プロジェクトマネージャー、またはソフトウェアエンジニアとして動くことが多いんですが、4ヶ月ほど前から新規事業の立ち上げを行っています。

で、システム開発時は定期的にふりかえりするようにしているんですが、事業立ち上げみたいな時のふりかえりもめちゃくちゃ大事だなと思いまして。

そこで、この記事では

「事業立ち上げのような不確実性の高いフェーズでスピードを上げるために色々考えた結果日々こんな感じでふりかえりしています」

という一例を紹介できればと思います。

置かれている状況

はじめに、「こんな状況でやっています」という情報を記載しておきます。

  • 新規事業立ち上げ

    • 目的もやることも決まっていないので、それを決めるところから

  • フルコミットは1人

    • 定期的に進捗レビューしてくれる方はいるものの、現時点で手を動かすのは自分だけ

  • ざっくりタイムリミット1年

    • 「いつまでにこれをクリアしなければプロジェクト終了」のような明確なお尻はないものの、ざっくり「1年くらいやって期待できなそうであれば立ち上げ終了」というスケジュール

記載したとおり非常に自由な状況なんですが、「何でもできる」ってそれはそれで結構疲れるんですよね。
選択肢がありすぎるので自ら制約を課していかないと何も決まらないという。
また、ゴールが決まっていないので「進捗感」みたいなものも全然なくて「この2週間おれはなにをやっていたんだ。。」みたいなこともたくさんありました。

これから詳細するふりかえりは「事業スピードを上げる」目的もあるんですが、それと同じくらい「進捗感を可視化して自分自身のモチベーションを維持、向上させる」という目的も狙っています。

やっているふりかえり

詳細は後述するとして先にやっていることをざっくり記載しておきます。
なお、ほぼすべてをNotion上で行っているためHowの部分は少なからずNotionに依存しています。

スプリント(2週間)ごとにふりかえっていること

  • 事業のロードマップ

  • スプリントゴール

  • スプリントタスク

  • KPT + Learn

日次でふりかえっていること

  • 事業をやる目的

  • スプリントゴール

  • Try(KPTで出たTry)

  • YWT

以降でひとつずつWhy(なぜやっているか)とHow(どのようにやっているか)を紹介していきます。

スプリント(2週間)ごとにふりかえっていること

このフェーズでは毎日が朝令暮改の連続なんですが、それでも一定期間で区切ってふりかえり、向き直りをしていくことで「あれ、おれなんでこんなところに来ちゃったんだ」を回避したいという思いで2週間ごとにスプリントを切っています。
(ちなみに、初期は本当にやることが全く決まっていなかったので1週間スプリントにしていました)

前提

これから紹介する内容はすべてスプリントごとにNotionページにまとめています。(以下が対象ページの目次です)

事業のロードマップ

Why(なぜやっているか)

「何をやるか」も決まっていないところからのスタートなので、中長期的なスケジュールをしっかり決めることなんてできないし、効果もあまりないだろうなと考えています。
しかし、一方でふんわりした中長期的なスケジュールは

  • 関係者間の認識一致

  • 自身のモチベーション維持、向上

  • 思考の整理

等の観点で一定の効果があると考えています。

How(どのようにやっているか)

以下のようなざっくりロードマップをスプリントごとに見直し、アップデートしています。

初期の頃はガラッと変わることが多いのでNotionのTimelineビューで行っていましたが、関係者との認識すり合わせを行う際にこちらの形式のほうが伝わりやすかったので少し手間ですが毎回絵を書き直しています。

このふりかえりの観点は「今後のざっくりスケジュールに変更はないか」のみです。
一応のタイムリミットはあるので「スケジュール通り進めているか」も見てはいるものの、あくまで「その時はこう考えていた」くらいのものなので、むしろスプリントごとに不確実性が減り、毎回ロードマップが更新されるほうが健全ではないかと考えています。

重複しますが、このふりかえりにより

  • 関係者間の認識一致

  • 自身のモチベーション維持、向上

  • 思考の整理

を行っています。

また、後述するKPT + Learnの材料にも使っています。

スプリントゴール

Why(なぜやっているか)

「おれはこの2週間何やってたんだ。。。」を防ぐためです。
特に初期では今日、明日やることさえ決まっていないのでスプリントゴールを決めることが難しい状況ではありますが、日次でゴール設定していると俯瞰して作業成果を見るタイミングがなくなり、「納期感」が薄れてしまっていました。
特に私が所属するSI界隈では「デスマーチ」「メテオフォール開発」などの言葉があるように「悪い意味での納期感」が普及しすぎてしまっているように思いますが、「良い意味での納期感」は事業スピードを底上げするのに非常に効果を発揮すると考えています。

How(どのようにやっているか)

以下のようにシンプルなテキストでまとめています。

もう少し不確実性が減るとスプリントゴールの完了条件をしっかり明記する必要が出てくると思いますが、今の私の置かれている状況でこれ以上抽象度を下げてしまうと計画と成果のズレが大きくなってしまう懸念があるためあえてこの抽象度に留めています。

これをスプリント開始時に決めておくことで「おれはこの2週間何やってたんだ。。。」を防いでいます。

こちらをスプリントごとに達成状況確認、再設定しつつ後述するKPT + Learnの材料にしています。

スプリントタスク

Why(なぜやっているか)

後述するKPT + Learnの材料として、のみです。

なお、このタスクは「プロダクトバックログ→スプリントバックログの選定」というスクラム開発におけるよくあるステップを行わず「スプリントゴールに対して必要と思われるタスクを週次、あるいは日次で場当たり的に選定」していることから意図的に「スプリントバックログ」でなく「スプリントタスク」としています。

How(どのようにやっているか)

日次で行っているYWTのデータのうち、対象スプリントのものを表示するだけです。

詳細は後述するYWTのパートで紹介しますが、ここではYWTで作成したタスクを

↑の条件でフィルターを掛けて埋め込んでいます。

ここまで記載したロードマップ、スプリントゴール、スプリントタスクを材料にこの後のKPT + Learnを行っていきます。

KPT + Learn

Why(なぜやっているか)

KPTの主目的をどうするかはフェーズ、チームによって異なると思いますが、私が現フェーズで主目的としているのは「次スプリントの質を上げるため」です。
また、KPTだけではスプリント内での学びを次スプリントに活かしきれていないなという感覚があったためLearnも追加しています。

How(どのようにやっているか)

KPTはかんばんで以下のように行っています。

私が普段行っているKPT手法は別途こちらにまとめていますのでKPT部分の詳細は割愛しますが、特に意識しているのは

  • 過去のスプリント分もスタックしておく

  • Tryはできる限り具体的な行動レベルに落とし込めるものとする、また無理をしない

の2点です。

Learnは「日次のふりかえり」をもとに「スプリントでの学び」をふりかえっています。

まず、日次のふりかえりは後述する日次の学びをスプリントごとに一覧表示しています。

次に、スプリントでの学びはスプリントごとに「特にこれは良い学びだった」と思うものを1,2つだけスタックしています。

先述したKPTの中で「Tryはできる限り行動レベルに落とし込める」ようにしたことで「意識レベルで頭に置いておきたいこと」をKPTのスコープから外しましたが、それでもいくつかの学びは継続的に目につく場所に置いておいたほうがふりかりの質が上がるなという体験があったため、このようにKPTの他にLearnも残すようにしています。

スプリント(2週間)ごとにふりかえっていることのまとめ

だいぶ長くなってしまいましたが、ここでのまとめです。

  • 事業ロードマップをふりかえることで関係者間の認識一致、思考整理を行い、

  • スプリントゴールをふりかえることで良い意味での納期感を大事にしつつ、

  • KPT + Learnで次スプリントの質を上げる

なお、ここまでの情報を見ると「毎回こんなにふりかえっていたら時間掛かり過ぎでは?」という懸念もあると思いますが、現状は1人で行っているためすべてのふりかえりを行っても30分も掛からずに終わっています。

チームの人数が増えてくると「ふりかえりのコスパ」を意識する必要が出てくると思いますが、1人ふりかえりの場合自分自身との対話だけで済むので、特に事業立ち上げのような不確実性の高いフェーズでは自身の思考整理も兼ねてこれくらいは行ったほうが精神衛生も保てる気がしています。

日次でふりかえっていること

ここまででスプリントごとのふりかえりを記載しましたが、このフェーズでは2週間もあれば状況がガラッと変わることもよくありますので、日次でのふりかえりも必須だと考えています。
そこで、以降で日次でのふりかえりも紹介します。

前提

スプリント同様、日次ふりかえりのNotion上に「日報」という形で1ページにまとめています。

事業をやる目的

Why(なぜやっているか)

自身のモチベーション維持、向上のために行っています。
私の場合、事業立ち上げ期では「これ絶対うまくいくじゃん!」と「このままやっててうまくいく気がしない。。」という気持ちの変化が週単位、日単位で頻繁に繰り返し訪れているため、根底にある気持ちを毎日1分ほどで確認するようにしています。

How(どのようにやっているか)

テキストでまとめていて、それを毎日さらっと読み返すだけです。

私は「過去の流れ」も記載していたほうが気持ちが入りやすかったので目的の他にここまでの流れもまとめています。

なお、毎日やっていると形骸化してきてしまうのと、そもそも気持ちがノッている時は無理に見る必要はないと思っているので、日次のふりかえり項目には含めつつも厳密には「毎日」ではありません。(平均すると3日に一度程度)

スプリントゴール

Why(なぜやっているか)

前述のスプリントタスクのパートで記載した

「スプリントゴールに対して必要と思われるタスクを週次、あるいは日次で場当たり的に選定」している

という状況のため、日次で「スプリントゴール達成のために次やるべきことは何か」をふりかえっています。

スプリント開始時にタスクレベルで計画しきれればそれに越したことはありませんが、前述のスプリントゴールのパートで記載した

もう少し不確実性が減るとスプリントゴールの完了条件をしっかり明記する必要が出てくると思いますが、今の私の置かれている状況でこれ以上抽象度を下げてしまうと計画と成果のズレが大きくなってしまう懸念があるためあえてこの抽象度に留めています。

という考えがあるため、日次でふりかえり、後述するYWTの材料にしています。

How(どのようにやっているか)

前提の画像にある通り、スプリントゴールのテキストをコピペし、YWTの判断材料にしています。

Try(KPTで出たTry)

Why(なぜやっているか)

Tryを忘れないためです。
KPTを行っても次のふりかえりまでTryを忘れている、ということが度々あったため、毎日見えるところに置いています。

How(どのようにやっているか)

KPTのデータベースからTryの項目のみを表示しています。

YWT

Why(なぜやっているか)

スプリントゴール達成のためにやるべきことをやれているか確認するためです。
日次のふりかえりではできる限り具体性を高めることでやるべきことにフォーカスしたいと考えているため、具体性の高いYWTを意識しています。

How(どのようにやっているか)

Y(やったこと)とT(次やること)は同一データベースで管理し、日付ごとにフィルターを掛けています。

Whyに記載したとおり具体性をとにかく高めたいので、こちらには具体的、かつ細かい単位で記載しています。

例えば、未知の領域でタスクの具体性を高めることができない場合は「○○のタスクの具体性を高める」というタスクを設定してたりします。
また、最も小さなタスクだとメール送信みたいなものも入ってきます。
とにかく具体性の高さを大事にしています。

なお、前述のスプリントふりかえりで記載した「スプリントタスク」として集計するため、「作業日」と「対象スプリント」を設定し、以下のようにフィルターを掛けています。

Notionの場合、フィルターを設定した状態でタスクを追加すればフィルターに合致した項目が初期設定されてくれるので、「カラムが増えると運用が手間になる」というデメリットは今のところ感じていません。

W(わかったこと)は別データベースで以下のように管理しています。

こちらもYTと同様に以下のようにフィルターを設定しています。

日次でふりかえっていることのまとめ

ここでのまとめです。

  • 事業をやる目的をふりかえることでモチベーションを維持、向上し、

  • スプリントゴールをふりかえることでやるべき方向性を見失わないようにしつつ

  • Tryをふりかえることで注意すべき点を意識しながら、

  • YWTで具体的にやるべきことだけににフォーカスする

こちらもスプリント同様「毎回こんなにふりかえっていたら時間掛かり過ぎでは?」という懸念もあるかもしれませんが、現状は1人で行っているためすべてのふりかえりを行っても10分も掛からずに終わっています。

「報告、共有するための日報」に対する賛否は色々あると思いますが、「自身のふりかえりのための日報」は効果が高く、個人的にやらない理由が見つかりません。

こちらも同様にチームの人数が増えてくると「人によってやりやすい型が異なる」等の理由であまりルールを増やしすぎると足かせになってしまいますが、形式はさておき「日次でライトなふりかえりを行う」というルールはチームの人数が増えても継続していこうと考えています。

脱線

本筋からズレますが、前述した内容はほぼすべてNotioin上で行っていますが、改めてふりかえりとNotionの親和性は非常に高いなと日々感じています。

他のツールを使ってここまで細かくふりかえりをしているとそれなりのコストが掛かるだろうと思いますが、Notionでやっている分には全くコストがかさんでいる感覚はありません。

なお、Notionはプロジェクト管理ツールとしても素晴らしく、その内容はこちらにまとめています。

さいごに

ふりかえりは日々意識的に行っているものの、改めて日々のふりかえりをふりかえる機会はあまりなかったので個人的にもこの記事を書いたことで非常に良いふりかえりになりました。

まだまだふりかえりスキルが低いので

↑の域には到底達していませんが笑、それくらいになれるよう今後もふりかえりに精進していきたいと思う2021年の年末でした。

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