
政治講座ⅴ2064「日鉄・USスチール買収計画の行方」
祝福されない結婚と同じで政治的な批判がある案件は合併後も必ず、企業運営上で妨害が入る。「鉄」は斜陽産業と言われるが、これほど熱の入れように、常軌を逸しているのではないだろうか。大型M&Aで失敗して経営が傾いた企業に有名な「東芝」がある。M&Aを成功に導くには冷静さが必要である。中国の「鉄」の過剰生産と過剰輸出を俯瞰すると付加価値のある「鉄」が可能であるかであろう。日本と米国のM&Aの失敗に学ぶべきであろう。原発メーカーのウエスチングハウス・エレクトリックを思い出す。温故知新。
また、今回のM&Aは高い買い物をさせられる可能性がある。それを危惧するするのは吾輩だけであろうか。常識的には問題があるから売りに出されると考える。「鉄」は時代の遺物であり、後発の中国の追い上げで儲からない産業であるとのイメージが強い。
今回はそのような報道記事を紹介する。
皇紀2684年12月13日
さいたま市桜区
政治研究者 田村 司
報道記事紹介
日鉄のUSスチール買収計画、バイデン米大統領が最終的に阻止へ
Josh Wingrove、Joe Deaux によるストーリー

(ブルームバーグ): バイデン米大統領は日本製鉄による141億ドル(現行レートで約2兆1400億円)でのUSスチール買収計画について、国家安全保障を理由に正式に阻止する計画だと、事情に詳しい複数の関係者が語った。
関係者によれば、日鉄の買収案の審査を進めてきた対米外国投資委員会(CFIUS)は今月22日ないし23日までにバイデン氏に結果を伝える必要がある。関係者は審査プロセスが機密扱いだとして匿名で明らかにした。
CFIUSの審査結果がどうなるかは明らかになっていない。しかし、大統領への通知は少なくともCFIUSメンバーの1人がこの取引にリスクがあるとみていることを示唆している。関係者の一部によると、バイデン氏が買収阻止を決定した場合、日鉄とUSスチールはこのプロセスを巡り訴訟を起こす構えだという。
USスチールの広報担当アマンダ・マルコウスキ氏は「この取引はその是非に基づいて承認されるべきだ」と述べた。10日の米株式市場でUSスチールは一時22%安を付けた後、9.7%安で通常取引を終えた。
日鉄は発表文で、「政治が引き続き真の国家安全保障上の利益よりも重きをなすのは不適切であり、日米の不可欠な同盟を重要な基盤としている点を踏まえると特にそうだ」とした上で、「日本製鉄は米国の正義と公正さおよびその司法制度を引き続き信じており、必要であれば、USスチールと協力して公正な結論に至るためにあらゆる利用可能な措置を検討・行使する」としている。
かつて米国を代表する企業だったUSスチールの買収計画は激しい政治論争を招いてきた。USスチールはこの買収が事業存続に不可欠だとし、破談になった場合は本社をペンシルベニア州から移転し、一部の事業を閉鎖する可能性があると警告している。
ペンシルベニア州出身のバイデン氏はかねて売却に反対の意向を示しており、同社は米国資本の企業として存続すべきだと主張してきた。しかし、この取引を阻止するとは明言していない、一方、トランプ次期大統領は取引を阻止すると繰り返し表明している。
大きな政治的影響力を持つ全米鉄鋼労働組合(USW)も一貫して日鉄による買収計画に反対を表明してきた。
ホワイトハウスのシャーマ報道官は声明で、「USスチールが米国内で所有・運営されることが極めて重要だという大統領の立場は当初から変わりない」とし、「CFIUSのプロセスは今も継続中だ」と説明した。
この買収計画を巡り強い政治的圧力が加わる中、日鉄は支持拡大に取り組んできた。同社は10日、買収が実現した場合、USスチールの全従業員に5000ドルの賞与を支給する計画を別途発表した。
CFIUSは9月、買収計画を再申請する許可を与え、実質的に審査は延長された。審査終了期限は今月まで延期され、大統領選挙後に買収計画が前進するのではないかとの見方が浮上したが、バイデン氏は9月27日、「私は考えを変えていない」と発言した。
バイデン氏がいつ発表を行うかは不明。大統領は審査結果が伝えられてから15日以内に決定を発表しなければならない。一部関係者によると、CFIUSの審査がさらに延長され、決定が次期政権に委ねられることはない見通し。
林芳正官房長官は11日午前の記者会見で、ブルームバーグの報道について「個別企業の経営に関する事案であり、コメントは差し控えたい」と語った。
原題:US Steel Drops as Biden Plans to Block Sale to Nippon Steel (2)(抜粋)
--取材協力:青木勝.
(林官房長官の発言を追加して更新しました)
東芝を地獄に叩き落としたWHという会社
東芝を債務超過に突き落とした簿外債務
東芝が迷走している。2月14日の2016年度第三四半期の決算発表は当日急きょ延期、見通しだけを発表した。
発表された見通しを見ると、4999億円の最終赤字に1912億円の債務超過。まさに末期的ともいえる状況だ。その最大の元凶が「ウエスチングハウス(WH)」の米国の原発建設などに関連した簿外債務だ。その額6253億円(全体では7125億円)、東芝にとっての火薬庫といってもいい存在だ。
すでに報道ベースではWHを連邦倒産法第11章(チャプター11)の申請も検討されているといわれているが、さらに3000億円の追加損失が発生する可能性もあり、関係者の間からは「それができるくらいならだれも苦労はしない」(主要取引銀行関係者)という声が上がっている。
事実東芝はこのほかにWHの債務保証などをし、7934億円(2015年度の決算資料から)の偶発債務を抱えている。整理すればそれが一気に東芝の負債となってのしかかる。
実は簿外債務の原因となっている原発工事は、そのプロジェクトを推進するために電力会社が政府から巨額の債務保証を受けて、資金を調達し建設を進めてきた。WHがチャプター11を申請するようなことになれば工期はさらに遅れ、それが米政府の負担にもなりかねない。その総額は83億ドル(約9500億円)ともいわれ、日米間に大きな亀裂を生む可能性すらある。東芝にとっては“進むも地獄、引くも地獄”という状況なのである。
東芝を苦境に陥れたWHとはどのような会社なのか。
WHはもともと1886年から1999年まで存在した米国の総合電機メーカー「ウエスチングハウス・エレクトリック」の原子力事業部門で、1950年代以降「加圧水型原子炉(PWR)」の開発製造で独占的な地位を占めていた。
その後1999年に英国の「英国核燃料会社(BNFL)」社に売却された原子力事業が今のWHである。当時の売却価格は11億ドルといわれている。BNFLはMOX燃料など核燃料の開発や搬送、原子炉の運営などを行う英国政府が所有する持ち株会社。ところが財政が悪化し、2005年にはWHの売却を決断。当時は18億ドルの価値があるといわれたWHを東芝、ゼネラル・エレクトリック、三菱重工などが入札した。
このとき同じPWRを手掛ける三菱重工が有力視されたが、蓋を開けると、「沸騰水型(BWR)」を手掛けていた東芝が54億ドルで落札、当時は「2000億円の会社に6000億円を出すのはばかげている」(業界関係者)といわれたが、東芝の経営陣は勝利の美酒に酔いしれた。
BWRは国内が主要マーケット、世界の主流はPWRだ。WHで世界に大きく打って出たい東芝にとっては何が何でもほしい会社だったといえるのかもしれない。
ショー・グループに翻弄された東芝
しかしとんだ“おまけ”がついていた。米国の大手エンジニアリング会社「ショー・グループ」だ。ショー・グループはWHのEPC事業(エンジニアリング、調達、建設)に関して独占的に行う権利を持っていることから、その後のエンジニアリングを独占的に担当することになり、今回問題となっているCB&Iストーン・アンド・ウェブスター(S&W)はショー・グループの傘下の企業だった。
出資は東芝をはじめ、ショー・グループ、IHIが加わることになり、東芝の出資比率は77%(41億5800万ドル)、ショー・グループが20%(10億8000万ドル)、IHI 3%(1億6200万ドル)となり、07年にはカザフスタン共和国のカザトムプロムが東芝が保有するWHの株式10%を取得、一時は4社で株式を保有した。
WHはショー・グループ、S&Wと工事の受注に向けて奔走した。
08年4月には米国サザン電力の子会社であるジョージア電力(ジョージア州)と、5月には米国スキャナ電力の子会社であるサウスカロライナ・エレクトリック&ガス・カンパニー(SCE&G)と、それぞれ2基ずつ新規原子力プラントの建設に関する契約を締結した。このときショー・グループもパートナーとして参加、11年から着工する予定だった。しかし東日本大震災で13年まで着工できず、工期が遅れ、その費用の負担を巡って発注元やS&Wと訴訟騒ぎとなり、工事はさらに遅れた。
そうした中でショー・グループは13年1月に買取請求権がついていたWHの株を東芝に売却。13年2月に米国のCB&Iの傘下に入り、15年10月にはS&WもWHに売り払い、原発事業はから足を洗ってしまった。
東芝は当初、原発事業を単独でできるとほくそえんでいたのかもしれない。
「WHは、S&W取得のタイミングに合わせ、サザン電力、スキャナ電力と、米国のプロジェクトに関し現在訴訟となっているものも含め、全ての未解決のクレームと係争について和解をすることに合意しました。また、価格とスケジュールを見直すことにも合意しました。WHは今後も両オーナーとの協力関係を継続し、米国のAP1000TMプロジェクトの建設工事を進めます」と書かれたニュースリリースからもそうした東芝の思いを垣間見ることができる。
押しつけられたS&Wは粉飾のオンパレード
ところが買収したS&Wの実態はとんでもない粉飾決算のオンパレードだった。
12月末に買収が完了後、本来あるべき11億7400万ドル(約1326億円)の想定運転資本額が実際にはなかったという。そればかりか、WHの算出値では9億7770万ドル(約1173億円)のマイナス。しかもS&Wが建設工事を進めていたジョージア州とサウスカロライナ州の工事もS&Wの買収後、この建設を新規に請け負った米エンジニアリング会社、「フルアー」が改めて見積もり直すとすでに数十億ドル(数千億円)の損失が発生していたという。
東芝は2016年12月27日に「CB&Iの米国子会社買収に伴うのれん及び損失計上の可能性」というニュースリリースを発表、「必要なのれんの計上額は当初想定の8700万米ドルを超え、現時点で数十億ドル規模(数千億円規模)になる可能性が生じました」(同リリースより)と説明した。
WHはサザン電力、スキャナ電力以外にもショー・グループと組んで米国プログレス電力の子会社であるプログレス・エナジー・フロリダ(PEF)や中国などで原発を受注している。その工事もまた遅れており、今後さらに偶発債務が発生する可能性は否定できない。
網川智社長は14日の会見で東芝が経営の方向性を間違った理由といて「WHを買ったことといえなくもない」と説明している。
しかしそんなさなかでもまだ隠ぺい体質は治っていない。
東芝は今年に入ってから、WHによるS&W買収の取得価格配分手続きの過程で内部手続きの不備を示唆する内部通報があったことから、弁護士を使って調査をしていた。ところがその弁護士に対してWHの経営陣が「不適切なプレッシャー」をかけた疑いがあり、それが14日の決算延期の原因になった。日本テレビはその後の取材で「内部通報では東芝の志賀重範会長とアメリカの原発子会社ウエスチングハウスのロデリック会長が名指しされていたことがわかった」と報じている。
経営危機に陥ってもなお、続く東芝グループの隠ぺいに不正。いったいどこまでそれは続くのか。3月14日の2016年度第3四半期の決算発表ではすべてが明らかになるのか。
大企業・東芝の致命的ミス…買収で巨額損失、苦渋の撤退はなぜ起きた
2023.03.29
3月29日はどんな日? 金融ライターが独自の視点でお金にまつわる「今日」のトピックをセレクトし、そのトリビアをお届けする「マネー・トリビア」。会話のきっかけに、ビジネスの場でのアイスブレイクに、つい話してみたくなる豆知識をご紹介します。
投資の前にきちんと銘柄を調べていますか? もし調べていない場合「東芝」のように大失敗してしまうかもしれません。東芝の子会社「ウェスチングハウス」は買収した企業の価値を見誤ったために破綻し、東芝本体にも非常に大きなダメージを残しました。
3月29日はウェスチングハウスが破綻した日です。この事件は東芝に半導体事業の売却を迫るほどのインパクトを与えました。東芝に何が起こったのか確認しましょう。
およそ1兆円の最終赤字を計上
ウェスチングハウスは原子力発電に関連するサービスを提供する企業で2006年10月に東芝のグループ子会社となりました。1万2000人もの従業員がいましたが、2017年3月29日に破綻しました。
直接の原因は破綻のおよそ1年前に買収したストーン・アンド・ウェブスター社です。のれん(※)は当初約105億円と見積もっていましたが、買収後に数千億円に上ることが判明しました。
※のれん:買収金額-買収企業の純資産。買収側が支払う実質的なコスト。例えば100億円で買収する場合、純資産70億円の企業ならのれんは30億円、純資産10億円なら90億円となる。
ストーン・アンド・ウェブスターは原子力発電所の建設を手掛ける企業でした。安全意識の高まりなどから原子力発電所の建設コストは上昇傾向にあり、ストーン・アンド・ウェブスターは膨らむ建設費を吸収できず純資産を大きく減らしたとみられます。ウェスチングハウスは買収前にこの事実に気付けず、巨額損失が確定的となってしまいました。
東芝はそれ以上の損失を回避するためウェスチングハウスの破綻を選びます。関連する損失は1兆2000億円を超え、東芝の2017年3月期最終損益は9656.63億円の赤字となりました。
【ウェスチングハウスを巡る経緯】
2006年10月:東芝がウェスチングハウス(以下WH社)を買収
2015年10月:WH社がストーン・アンド・ウェブスター(以下S&W社)の子会社化を決定
2015年12月:WH社がS&W社を買収
2016年4月:WH社で2600億円の減損
2016年12月:S&W社で数千億円の減損の可能性が浮上
2017年3月:WH社破産
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?