政治(経済・金融)講座ⅴ1512「中植系(企業集団)の債務超過は世界経済をも揺るがす」
やっと膿が出てきた。膿がでて自然治癒できれば良いが、本体が腐りだすと手の施しようがなくなる。今このような状態に中国経済が腐りだしているのであろう。
世界経済は中国を中心に回っていると豪語して「一帯一路」で世界に中心にしようとする世界戦略の化けの皮が剥がれた事実がやっと報道されてきた。
費用対効果のない不動産開発をして、GDPを引き上げた結果がこれである。
ゴーストタウン(鬼城タウン)・鬼城マンションなどのほとんどの売れない・買わない・住まない幽霊屋敷の建築費用や維持費は何処から捻出されたのだろうかと疑問を以前から抱いていた。
やはりね!
今まで隠蔽されていた報道記事が噴出し出している。
これが中国国内で治まる話なら中国国内に被害が限定的であるが、海外にこの不良債権がばらまかれているならば、世界金融恐慌の号砲となり得るのである。
日本の投資家も無傷で済むはずはない。しかも、株式・債券で運用している各銘柄が売り圧力に押されて値崩れを起こし、悪循環に陥る可能性は否定できない。
もう、ポートフォリオなどの手法の次元を超えた対策を検討しなければならない時期にきている。
14億人の人口に期待感を持ち中国に進出する日本企業はもう幻想を捨てた方が良いと個人的には思うのである。
そして、逃げ出そうとするときは、財産の没収以外にも日本人の社員をスパイ容疑などで人質として拘束される可能性は捨てきれない。もう、そのような事態が起きていると推測している。はやく脱出をすすめる。
今回はそのような報道記事を紹介する。
皇紀2683年11月25日
さいたま市桜区
政治研究者 田村 司
資産運用会社が債務超過 不動産不況で経営悪化 中国
11/24(金) 6:40配信
【北京時事】中国資産運用会社の中植企業集団が最大約2600億元(約5兆5000億円)の債務超過に陥ったことが分かった。 中国メディアが24日までに報じた。同社は不動産不況を背景に経営が悪化していた。 中植は北京に拠点を置く複合企業。報道によると、資産の約2000億元に対し、負債は約4200億~4600億元に及ぶ。同社は投資家に対し「資産の減価が著しく、流動性が滞っている」と説明。関連する商品で相次ぎ実質的なデフォルト(債務不履行)が起きているという。
中国民営の中植、債務超過最大5.4兆円 信託商品に火種
2023年11月23日 20:30 (2023年11月24日 18:11更新)
【上海=土居倫之】中国の民営複合企業、中植企業集団は23日までに負債が資産を上回る債務超過に陥っていると明らかにした。債務超過額は2200億〜2600億元(約4兆6000億〜5兆4000億円)にのぼる可能性がある。中国では不動産不況をきっかけに金融リスクが高まっている。中植はグループに信託大手を抱えており、21兆元規模の信託商品と呼ばれる投資商品が火種となりかねない。
中国シャドーバンキング大手、5.4兆円不足-「深刻な支払い不能状態」
Bloomberg News
2023年11月23日 23:21 JST
8月に懸念が表面化した中植企業集団、投資家に書簡で説明
流動性が枯渇、資産売却で回収可能な額も少ない見通し-書簡
経営難にあえぐ中国の巨大シャドーバンキング(影の銀行)グループ、中植企業集団は、364億ドル(約5兆4000億円)の資金が不足し「深刻な支払い不能状態」にあると投資家に説明した。資金繰りにいかに窮しているかが示唆される。
中植は投資家に送付した22日付の書簡で、流動性が枯渇し、資産売却で回収可能な額も少ない見通しだと明らかにした。ブルームバーグ・ニュースはこの書簡を確認した。
中植は傘下企業が組成した高利回りの信託商品で支払いが履行されず、8月に懸念が表面化。同社の資金難は、不動産危機と景気低迷に取り組む当局者の課題をいっそう困難にしている。
北京を拠点とするチャイナ・ビジョン・キャピタルの創業者、孫建波氏は「政府が支援に介入せざるを得ず、オープンで公正なアプローチによって資産売却が行われることを確実にするだろう」と述べた。不良資産は一般的に7割のディスカウントで売却されると指摘した上で、「投資家にとって、極めて高くついたレッスンだ」と語った。
この書簡によると、中植の負債総額は4200億-4600億元(8兆8000億-9兆6000億円)に上ることが会計監査で判明。これに対し、資産は2000億元しかないという。
同社は創業者の解直錕氏が2021年に死去し、幹部が相次ぎ退社したため内部管理がうまくいかなくなったと書簡で指摘。「自己救済」のこれまでの取り組みも期待通りの成果には結びつかなかったと説明した。
中植はコメントの要請に応じなかった。同社はこれまでに、長期化が見込まれる再建プロセスを実行するためKPMGを起用した。
中植の経営難は、富裕層の個人に影響が及ぶ公算が大きい。同社のようなシャドーバンキングは緩い規制しか受けず、個人の資金を集めて融資を提供したり不動産、株式、債券、商品などに投資したりしている。中植とその傘下企業はここ数年、競合の信託がリスク縮小に動く中でも、問題のあるデベロッパーに対して融資を拡大し、中国恒大集団などの企業から資産を買いあさっていた。
原題:Troubled China Shadow Bank Warns of $36 Billion Shortfall (1)(抜粋)
中国の隠れた金融リスク、影の銀行巡る急展開で露呈-安定試す試練に
Bloomberg News 2023年8月18日 20:45 JST
中植、中国経済における金融の脆弱性を示す新たな象徴
中国当局に「できることは限られている」との指摘
中国の中植企業集団はほんの1週間前まで国内でほとんど注目されず、もちろん国外でもその社名を耳にする機会はなかった。
だが、この秘密主義の巨大シャドーバンキング(影の銀行)グループは今、中国経済における金融の脆弱(ぜいじゃく)性を示す新たな象徴となっている。18兆ドル(約2619兆円)規模の中国経済に対し、投資家や企業、消費者は急速に信頼を失いつつある。
1兆元(約20兆円)を超える資産を管理する非上場の中植とその傘下の信託会社は数千人の顧客への支払いを停止した後、厳しい監視下に置かれている。
この問題の重要性を裏付けるかのように、監督当局はリスクの連鎖を阻止しようと作業部会を設置。債務再編を探る中植はKPMGを起用した。事情に詳しい関係者が明らかにした。
中植のトラブルは中国では珍しい抗議活動に発展。本土各地の警察は不満を持つ顧客の自宅を訪れ、公での抗議活動を控えるよう求めた。
中植の資金繰り難が伝わると中国資産の価格は急落し、人民元が売り込まれた。
中国人民銀行(中央銀行)は15日、中期貸出制度(MLF)の1年物金利を予想に反して2.5%に引き下げると発表。だが、2兆9000億ドル規模に上る中国信託セクター内でさらなる破綻が懸念される中、信用を高める効果はほとんどなかった。
中植企業集団系の信託会社、中融国際信託は数十の商品で期日までに支払いを履行できず Source: Bloomberg
今回の混乱は、習近平国家主席に突き付けられた新たな試練だ。習政権はすでに景気低迷や不動産不況、米国との地政学的緊張の高まりへの対応を迫られている。
こうした混乱はまた、持続不可能な債務を巡る懸念が長年つきまとう不透明な中国金融システムでは望ましくないサプライズが起こり得ることも示している。
BKアセット・マネジメントのマネジングディレクター、キャシー・リエン氏は17日のブルームバーグテレビジョンとのインタビューで、ファンドの支払い遅延が増えることで問題は「増幅するばかりだ」と述べ、中国当局に「できることは限られている」とし、この状況を「信用の危機」と呼んだ。
年利8%
中植を巡り事態は急展開した。公になったトラブルの最初の兆候は、11日遅くに顧客企業が上海で行った証券取引所への届け出だった。
中植と密接に結び付いている信託会社、中融国際信託で複数の高利回り投資商品の支払いが滞っていると警鐘が鳴らされた。
中融は中国でトップ10に入る信託会社で、主に裕福な個人投資家や企業からの預金を預かり、株式や債券、その他の資産に投資。データプロバイダーのユーストラストによると、中融には今年満期を迎える総額395億元の高利回り商品が計270本ある。
Zhongrong Troubles Draw Scrutiny on Trust Industry
The company is among China's top 10 trust firms
Source: Bloomberg Economics, KPMG, Company Financial Statements
資金を呼び込むため、中融のような信託会社は1年物で6%や8%という高金利を提示。中国の株価が急落し、不動産価格が2年連続で下げる中で、四半期ごとに配当が支払われるこれらのファンドは一見すると見逃せない金融商品に見え、何兆元もの資金を集めている。
中植は1995年に材木会社として創業された。ここ数年、ライバルの信託会社がリスクを縮小する中でも、中植とその関連会社、特に中融は、問題を抱えた不動産開発会社へのファイナンスを拡大し、中国恒大集団などから資産を買い取った。
信託セクターのトラブルは今に始まったことではないが、中植の規模は懸念を増大させている。
ユーストラストによれば、今年は7月31日までに440億元相当の信託商品106本ほどがデフォルト(債務不履行)に陥った。不動産投資は金額ベースでデフォルトの74%を占めたという。昨年も数十億ドル相当のデフォルトが発生した。
フィッチ・クレジットサイツのアナリスト、ツェリーナ・ツェン、カレン・ウー両氏はリポートで、「デフォルトが投資家と市場のセンチメントを引き続き損ねる可能性がある」と指摘し、「大手の信託会社や資産運用会社の無秩序な清算は足元の金融安定を試す恐れがある」との見方を示した。
China's Trust Industry Assets Have Fallen From a 2017 Peak
Regulators have reined in the industry on potential risks
Note: AUM figure for 2023 is at end of March.
原題:China’s Hidden Financial Dangers Erupt With Shadow Bank Crisis
深まる中国シャドーバンキング(影の銀行)の問題
#木内 登英
2023/08/18
信託会社・中融の問題は当初考えられていたよりも深刻
中国の不動産不況が、金融セクターに波及し始めている。現在、その中心にあるのが、銀行ではない金融機関・商品、「シャドーバンキング(影の銀行)」である。その中でも、現在特に注目を集めているのが信託業界だ。中国最大級の資産運用会社の一つである中植企業集団の傘下にある、信託会社・中融が組成した高利回りの信託商品でデフォルト(債務不履行)が生じたと、顧客3社が11日に明らかにした。中融は中国で9番目に大きな信託会社である。
その後、中融が明らかにしたところでは、同社は8月8日に信託商品の支払いができなかっただけでなく、7月下旬から少なくとも他に10件の支払い遅延が生じている。少なくとも30商品の支払いが滞っているという。
またデータプロバイダーのユーストラストによると、中融には今年満期を迎える総額395億元(約7,900億円)の高利回り商品がまだ270本あることから、今後支払いが滞る商品は急速に増えていく可能性が高い。当初考えられていたよりも、事態が深刻であることが次第に明らかになってきた。
不動産セクターは銀行借り入れから信託商品からの資金調達にシフト
中国信託業協会によると、国内信託会社の資産は今年3月時点で約2兆9,000億ドル(約422兆円)に上り、このうち約72%は、富裕層や企業に投資商品を販売する融資信託が保有している。
2019年半ばには、この融資信託の資産の約15%が不動産に投資されていた(コラム「高まる中国信託商品のリスク」、2019年7月16日)。その比率は、2019年以降62%減少し、今年3月時点でわずか7.4%まで低下したとされる。
しかし実際には、融資信託の投資先は明確には分からないようだ。迂回されて不動産セクターに投資される部分もかなり多い可能性がある。ちなみに、大きな問題を抱える地方融資平台(中国の地方政府傘下にある投資会社)への投資の数字も明らかにされておらず、数字の透明性は低い。
政府が不動産デベロッパーへの銀行融資を規制し始めてからは、不動産デベロッパーは規制の緩い信託からの資金調達を増やした可能性がある。一種の規制逃れである。そこで、中融信託など「中植系」信託会社は、資金供給で大きな役割を果たしたとみられる。そのため、不動産市場が調整し、不動産デベロッパーの経営が揺らぐと、信託商品の投資のパフォーマンスが悪化し、支払いが滞ることになる。
信託商品も政府の「暗黙の保証」で価格が歪められている可能性
信託商品に富裕者や金融機関のお金が集まった背景には、庶民が保有する傾向が強い投資信託の一種である理財商品と同様に、「暗黙の保証」という問題がある。多くの信託会社は地方政府や国有企業が株主になっており、一部の融資は地域のインフラ計画を支えている。そのため、信託商品には政府による暗黙の保証が付いている、とみなされることが多い。
そのため、信託商品の投資家は、高い運用利回りを享受する一方、投資リスクを十分に把握していないことが考えられる。このことが、信託商品の価格を歪めている面があるだろう。また信託商品の価格が元本割れをし、またデフォルトを起こした際には、それが社会問題化しやすい背景にある。
景気減速、不動産市場の調整をきっかけに信託商品の価格が大幅に低下すれば、それに投資する金融機関では損失が発生し、金融システムを不安定化させる可能性がある。また、信託商品の解約が急増し、それに応じきれない信託会社の破綻が相次げば、信託会社からの資金調達に依存する企業の経営が一気に行き詰まり、実体経済に大きな打撃となる事態も生じ得よう。
「影の銀行」シャドーバンキングの仕組み-中国以外にも存在するそのリスクを考える
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「裏の」だとか「影の」という形容詞がついた名詞は途端にきなくさく聞こえる。
昨今、経済ニュースを騒がせる「影の銀行」シャドーバンキングなどはその最たるものだろう。2007~2008年の金融危機の引き金となった他、今もなお中国内で蔓延し同国経済の大きな不安要素として存在し続けている。
功罪の罪の部分が多く取りざたされ、世界経済を揺るがしかねないリスク要素として経済誌の誌面を騒がせるシャドーバンキング。その仕組みと拡散の背景、そして実際には何がリスクの原因たりうるか、ちょっと詳しく見ていきたい。
シャドーバンキングとは?
そもそもシャドーバンキングとは何だろうか。金融安定委員会が定めた定義によると、
“銀行の規制システム外にありながら、銀行の中核となる機能を果たしている機関”
がシャドーバンクであるとしている。
銀行の中核となる機能は、複数の預金者から預金という形でお金を集め、それを貸し出して利子を取ることで利益を得ることだ。シャドーバンクの行っていることも全くこれと同じなのだが、既存の銀行と決定的に違うのは、銀行が単一の組織内でこの機能を果たすのに対し、シャドーバンクは複数の組織を組み合わせた活動によりこの機能を果たす点だ。
簡単な例を挙げつつ、シャドーバンキングの一連の動きを追ってみたい。シャドーバンクの動きは銀行で言う預金の部分よりも最後のローン貸し付けの部分から説明した方がわかりやすいので、まずはそこから始めることにしよう。
銀行の機能の最終段階、すなわちローンの貸し付けは一般の銀行が行う。個人や企業が年いくらの金利で数年から十数年単位でお金を借りるのは我々の身近でも起こっていることなので、直観的に理解しやすいし、ここだけ見れば普通の銀行業務と何ら変わるところはない。
この段階で、銀行がいくら貸し出したという記録が財務諸表に記録される。
次に、銀行は第三者へとローンを売却する。
ローンを売却というと妙な書き方になるが、「返済されてくるお金を受け取る権利」と言い換えるとわかりやすい。銀行がローンを売却すると、元々の貸し主である銀行の代わりにローンを買い取った側が返済金を受け取れることになるのだ。
ローンとして貸し出した金額はこの段階で銀行の財務諸表からは削除される。もちろんこの操作は返済金を誰かに渡すことが目的ではなく、さらに行程は次の段階へと進む。
このローン、もとい「返済されてくるお金を受け取る権利」は複数の銀行から買い集められ、専用の口座に一度まとめられる。
こうして蓄えられたローン(ひいては先述の権利)はさらに証券化のプロセスを通る。
証券化とは、住宅ローンなどから得られるキャッシュフローを裏付けとして資産担保証券を発行し、販売を引き受ける証券会社から金融商品として販売することだ。
銀行から買い集められたローン(債権)は一度特別目的事業体に移転され、それを原資産、つまり裏付けとして証券が発行され、証券会社で取り扱われる金融商品として販売される。
最終的にこれを買っていく投資家の資金が上記の取引の連鎖によって銀行へ流れてゆき、ローンとして貸し出されるお金となっていくのだ。かなり回りくどい方法だがこうしてシャドーバンクは回っていく。普通の銀行ならローン貸し出しに使うお金を窓口やATMを利用する預金者が出すところを、シャドーバンクでは証券会社で取引をする投資家が出すようなしくみになっているのだ。
ただ、上記のモデルはあくまで一例で、シャドーバンクの基本的な機能は果たせるものの、実際はもう少し複雑な組織図から成るものが多い。中国のみならず、アメリカやヨーロッパでも拡大するシャドーバンク市場の状態を考えると、その組織図は千差万別といっていいだろう。
ここまででシャドーバンクが何なのか良く分からないという人は、債権を商品券やお米券に置き換えて考えてみると良い。商品券と言うのは現金ではないが、特定のお店でお金のように商品を買うことができる。しかし、お店にとって商品券はお金ではないため、お金に変えるためには商品券を発行しているギフトカード会社(これがシャドーバンクに近い)に届ける必要がある。ギフトカード会社は現金と引き換えに商品券を交換してくれるが、ギフトカード会社にとっても商品券はお金ではないため、交換した商品券をお客さん(投資家)に売ってお金に変える必要がある。
商品券で買えるのは商品だけな上に、商品券を発行しているのがそもそもギフトカード会社なので厳密には別物だが、このケースにおけるギフトカード会社とシャドーバンクの立ち位置は似ている。ギフトカード会社が商品券を一手に引き受けてくれるので、お店側が一生懸命商品券の買い手を探す必要がなくなり、商品券を扱いやすくなるのだ。
簡単なシャドーバンクのモデルを俯瞰してみたが、ここで疑問が出てくる。
多数の人から集めたお金をローンとして貸し出すという機能は同じなのに、どうしてこうも複雑なステップを踏む必要があるのか?
率直に言えば、銀行に関わる規制を逃れるためだ。
銀行に関わる規制の内、おそらく代表的なものがバーゼル合意(BIS規制)であろう。これは購入した債券やローン融資など原本が保証されない資産(これをリスクアセットという)に対して一定割合以上の自己資本比率を保つよう求めるものだ。ここでいう自己資本とは、銀行自身が株を発行して調達した資金、銀行が過去に上げた利益の蓄積分、所有する不動産など、誰かに返済する必要のない資産の総額を指す。銀行の利益は貸し出したお金についてくる利子から出るため、多くローンを貸し出して多く利子を得ようと思えば、その前に銀行は株を発行したり不動産を得たりして相応の自己資本を蓄えなければならない。
ここで重要なのが、預金者から集めた預金は自己資本に含まれないという点だ。
貸し出すローンの元になるお金は預金なのだが、預金はあくまで短期的に「借りている」お金なので、もしもある日突然預金額が10倍に増えても、すぐさまそれまでの10倍の額を貸し出して事業規模を拡大できるわけではなく、そうしようと思えば自己資本を10倍にする必要がある。
シャドーバンキングの目的はこれを筆頭とする数々の規制を逃れることにある。
BIS規制の話だけをしても、銀行にとってリスクアセットになるローンを他者に売却することで、銀行は自己資本比率を少なく抑えることができる。そして売却したローンを活用して銀行に資金が流れてくる仕組みを作ることで、自己資本比率とは関わりなく自由に事業規模を拡大することが可能になるのだ。
先の例で言うなら、消費者から商品券を直接受け取るお店(銀行)は、お金とは言えず仕入れも出来ない商品券(債権)を大量に蓄えてはいけないという決まりがあるため、商品券をそうそうに回収してお金に変えてくれるギフトカード会社(シャドーバンク)が役に立つ、ということだと考えると良い。
シャドーバンキングのリスク
ポジティブな捉え方をすれば、シャドーバンクとは規制に縛られない柔軟な経営を可能にする形態の銀行業といえる。
しかし物事にはよい面ばかりあるわけではない。当然、シャドーバンクにもリスクは存在する。
第1のリスクは、シャドーバンク内部の不透明性だ。
シャドーバンクは全体の組織図が普通の銀行よりもはるかに複雑なことに加え、規制や調査の網を逃れるというその本来の性質上、資産の動きや保有者、関与する企業や事業体などが外部から見てかなりわかりにくくなっている。
そして情報開示の義務も負っていないことから、たとえば融資額を増すために多額の借金をしていながら投資家にはそれが開示されないこともあり、経営の健全性が確認できないというリスクが存在する。
第2に、セーフティーネットの不足が挙げられる。
銀行には預金者の保護を目的とする預金保険や中央銀行からの特別融資などのセーフティーネットが存在する。いずれも預金者を保護するとともに、銀行の資金が枯渇して経営破綻するのを防ぐ機能を担っているが、シャドーバンクは既存の銀行のシステム外に存在するため、公的な保護に関しては法整備が不十分なのが現状だ。
そして、万一破綻した際には広く経済に影響を及ぼす可能性がある点も無視できない。
その実例としては、2007年に起こった世界金融危機がある。世界中に波及したこの事件の引き金となったサブプライムローン問題は、その根本においてシャドーバンクと同じ構造を有していたのだ。
サブプライムローンとは元々、信用度の低い(=返済の見込みが比較的少ない)層に対して貸し出されるローンを指す。リスクが高い分金利は高く、かつ顧客層が広いため、リスクを減らしつつサブプライムローンの貸し出しを多く行えれば銀行にとって大きな利益となる。
その方法として証券化が用いられた。仕組みは上記とさほど変わりはなく、サブプライムローンを裏付けにした証券を投資家が買うことで資金が流れ込み、それが銀行の手に渡ってローンとして貸し出されることになっていた。銀行にすればローンを売却した時点で貸し出した資金は回収できるので事実上リスクはゼロとなり、ローンを多く貸し出せばそれだけ資金流入も増えていくという、魔法のような構造だったことだろう。
事実2001-2006年頃までのアメリカでの宅地価格上昇と相まって、ローンの融資総額と発行された証券の価格はどんどん上昇していき、バブル状態が形成されていたのだ。
2007年に住宅価格が下落に転じたことで、この構造は丸ごとひっくり返った。
住宅価格下落は借りたローン以上の住宅価格値上がりを見越して借りた層や銀行のローン乱発で債務を負った低所得者層の債務不履行を増やし、定期的に入ってくるローンの返済金を裏付けにした証券の価格はそれに反比例して下がっていった。
サブプライムローンに関わる債権は様々な金融商品に組み込まれていたため、市場全体で投資家は我先にと売却に走る。それまでサブプライムローンを組み込んだ証券で多大な利益を得ていた証券会社はここで大打撃を受け、ついに大手リーマン・ブラザーズが破産したことで世界的な金融恐慌の幕が大々的に開かれた。
ここでも商品券の例がリーマン・ショックの理解に役立つ。商品券(債権)はギフトカード会社(リーマン・ブラザーズ)がお客に商品券を売ってお金に変えることで成り立っていたが、商品券を買ってくれるお客がいなくなってギフトカード会社が倒産したらどうなるだろう?
商品券を集めたお店(銀行)が商品券をお金に変えたいとギフトカード会社に言っても、ギフトカード会社にお金がないので変えられないということになる。そうすると、お金に変える宛のない商品券ばかりがお店に溜まっていき、商品の仕入れができなくなったお店は倒産する。ざっくり言ってしまえば、これがリーマン・ショックの理屈だ。
そんなことがあったにも関わらず、シャドーバンキングの規模は急速に増大している。IMFが2014年10月に発表した資料によると、シャドーバンキング関連の資産はアメリカ、イギリス、そしてユーロ圏においてそれぞれのGDP比で100%を越え、特に2007年以降急速にその割合を増やしているイギリスでは350%にまで届く。
サブプライムローンは極端な例ながら、これだけの規模の市場が形成されていて、かつ監視の目も届かないというのは多大なリスク要因になりうる。そのため、規制の制定を求める声が少しずつ大きくなってきている。
これまでシャドーバンクは中国の例が大きく取り沙汰されていたが、広く世界的に見ても潜在的なリスク要因だといえる。今後の規制如何ではリスクを軽減し、既存の銀行の隙間を埋めるような業態として共存していける可能性もあるだけに、その動向には注意が払われるべきだろう。
習政権ひた隠し…中国最大級ファンド信用問題の衝撃
2023/8/14 19:51田村 秀男
中国の住宅着工の前年比増減率
香港メディアは14日、中国の信託大手、中融国際信託の顧客企業の一部が、期限を迎えた信託商品の支払いが滞っていることを明らかにしたと報じた。中融国際信託の親会社、中植企業集団は、中国最大級の投資ファンドである。中国では非銀行系金融機関(ノンバンク)系が総融資量の4割近くを占めているだけに、中植の信用問題を早期に収拾できなければ、中国金融界は根底から揺らぎかねない。
中国の金融は銀行系と中植のようなノンバンク系に分かれる。6月末の総融資残高は銀行系が230兆元(約4600兆円)、ノンバンク系が134兆元(2680兆円)で、先進国に比べてノンバンク系の比重が圧倒的に高い。中国の国内総生産(GDP)は2022年で121兆元(約2420兆円)と日本の4・2倍だが、ノンバンク系がGDPの増額分を上回る規模の新規融資を担ってきた。
中植への投資家は約15万人で、利払いが滞っている元本総額は約2300億元(約4兆6000億円)に上る。習近平政権は中植問題をきっかけに、投資家が資金を一斉に引き揚げる取り付け騒ぎを恐れているとみられ、情報隠しでやり過ごそうとしてきた。
中国の信託会社の支払い遅延が市場を揺るがした理由-QuickTake
Lisa Du 2023年8月15日 12:15 JST
2.9兆ドル規模の業界、中国シャドーバンキングの一部
不動産開発業者に関連する投資商品、過去にデフォルトも
中国の規制当局は長年、2兆9000億ドル(約422兆円)規模の信託業界を管理しようと試みてきた。この業界は中国のシャドーバンキング(影の銀行)の一部で、通常の銀行預金よりも大きなリターンを提供するが故に、リスクを伴う可能性がある。資産運用会社大手の中植企業集団の傘下にある信託会社が今月、複数の高利回り投資商品の支払いを滞らせたことで、懸念は浮き彫りとなった。世界2位の経済大国である中国の経済が懸念されるという微妙な時期の展開でもある。
1. 信託会社とは何か?
家計の貯蓄を集めて融資に回したり、不動産や株式、債券、商品に投資したりする規制が比較的緩い会社を指す。これらすべての資産クラスを扱う中国の金融会社は他にない。かつてこの業界は中国の富裕層にとって、多額のリターンを得るために資金を預ける安全な場所と見なされていた。しかし信託会社は近年、何十億ドルもの投資商品でデフォルト(債務不履行)に陥り、規制当局が中国のシャドーバンキングの行き過ぎを取り締まり始めた2017年のピーク時と比べ、業界規模は約20%縮小している。
2. 中植とは?
信託会社やウェルスマネジメント、プライベートエクイティー(PE、未公開株)に関与するシャドーバンキングの大手。
北京を本拠とし、解直錕氏が1995年に創業した。
解氏が心臓発作で亡くなった2021年は、新型コロナウイルスやそのパンデミック(世界的大流行)を受けて中国経済が減速、資本市場のボラティリティーが高まった。
現在は約1兆元(約20兆円)を運用している。
主要投資先の一つが33%出資する中融国際信託であり、データプロバイダーのユーストラストによると、同信託では270商品、総額395億元が年内に償還期限を迎える。
これら商品の平均利回りは6.88%と、銀行の1年物預金金利1.5%を大きく上回る。
3. 中植と中融の何が問題なのか?
中融を含め中植の関連企業が発行した商品の支払いを受けられなかったと、顧客3社が11日に開示。中融は現状についてほとんど公表していないが、同社が営業不可となっているとの偽の書簡がソーシャルメディア上に出回っていることを認識していると明らかにしている。
同社ウェブサイトの発表によると、これについて当局に報告した。ソーシャルメディアに出回った真偽不明の書簡1通の中で、中植の資産運用担当者は顧客に謝罪し、グループの資産部門が7月中旬以降、すべての商品で支払い遅延を決定したと説明。同書簡によると、影響を受ける投資家は15万人以上、投資残高は2300億元に上るという。
4. 政府は何をしているのか?
この問題に詳しい関係者によると、中国の国家金融監督管理総局(NFRA)は、中融の債務残高とリスクを調査する作業部会を設置した。同当局は中融に対し、将来の支払い計画と、流動性不足に対処するために処分可能な資産について報告するよう求めたという。
5. なぜ中国にとって重要なのか?
中国政府は、同国経済への信頼回復を迫られている。投資家は、新型コロナ関連規制からの回復ペースの遅さと、巨大な不動産セクターで続く弱さを警戒している。中国の7月の銀行融資は09年以来の低水準に落ち込み、企業と消費者の需要が衰えていることを示している。同国有数の不動産開発業者である碧桂園は、債務不履行の危機に瀕している。
中植の危機は、シャドーバンキング業界がこうした問題に対応できる能力に欠け、一部での動揺がすぐに連鎖して広範な信用危機を引き起こす「伝染」リスクを高めているのではないかとの認識につながっている。
不動産業界における金融不安は比較的収まっているものの、信託会社や資産運用会社における問題は、個人投資家や富裕層、企業に広がる恐れが大きい。
6. 不動産危機が中植の問題の根源か?
まだ、はっきりしていない。分かっているのは、中国の信託会社は不動産開発業者に関連する投資商品を提供しており、過去に債務不履行に陥ったことがあるということだ。中融の年次報告書によると、同社の信託運用資産6290億元の11%を不動産が占めている。同社は昨年、少なくとも10件の不動産プロジェクトに出資。最終的にこれが、投資家に発行した2300億ドル相当の不動産担保ファンドの一部支払いに充てる現金を生み出すことに賭けた。期待された不動産市場の回復は、今のところ実現していない。
原題:Why Missed Payments at China Trust Firm Jolted Market: QuickTake(抜粋)
中国複合企業の中植企業、「流動性危機」通信社報道
2023年8月17日
【上海=土居倫之】中国の民営複合企業、中植企業集団が資金繰り問題に直面している。ロイター通信によると、17日、投資家に対して「流動性危機にひんしており、債務再編を実施する」と説明したという。
中植は中国の信託大手、中融国際信託の主要株主。同社が設定・運用する信託商品は一部償還停止となっており、中植の経営問題が信託商品の運用などに波及した可能性がある。
参考文献・参考資料
中国の隠れた金融リスク、影の銀行巡る急展開で露呈-安定試す試練に - Bloomberg
深まる中国シャドーバンキング(影の銀行)の問題|2023年 | 木内登英のGlobal Economy & Policy Insight | 野村総合研究所(NRI)
「影の銀行」シャドーバンキングの仕組み-中国以外にも存在するそのリスクを考える (stonewashersjournal.com)
習政権ひた隠し…中国最大級ファンド信用問題の衝撃 - 産経ニュース (sankei.com)
中国の信託会社の支払い遅延が市場を揺るがした理由-QuickTake - Bloomberg
資産運用会社が債務超過 不動産不況で経営悪化 中国(時事通信) - Yahoo!ニュース
中国複合企業の中植企業、「流動性危機」通信社報道 - 日本経済新聞 (nikkei.com)
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