やさしい法律講座ⅴ15 副題 事務管理
吾輩は、片田舎から上京してから、早50年。過去の思い出に涙する日々である。
石をもて追はるがごとく
ふるさとを出でしかなしみ
消ゆる時なし
ふるさとの訛なつかし
停車場の人ごみの中に
そを聴きにゆく
はたらけど
はたらけど猶わが生活(くらし)楽にならざり
ぢつと手を見る
ふるさとの山に向ひて
言ふことなし
ふるさとの山はありがたきかな
いのちなき砂のかなしさよ
さらさらと
握れば指のあひだより落つ
(石川啄木より)
都会の人間関係は希薄で、相互扶助の希薄さに寂しさを感じている。
法律にも安堵感を感じさせるものとして、民法に「事務管理」の規定がある
耳寝れない言葉です。「事務管理」にはどのようなイメージを持ちますか?
頼まれてもいない(委任されていない)なんの義務もないことをやったらどうなると思いますか?不法行為で訴えられると親切な行為が仇になるよ。
法律上の義務のない者が、他人のためにその事務を処理することを法律用語、法律規定では「事務管理」という。
例えば、隣人の留守中に集金に来たガス代を立て替える行為など。
海外滞在中の隣家が台風でこわれたのを修理してやった。
迷いこんだ犬を保護してえさをやったりする。
入院中の友人のために税金の立替え払いをしてやる。
留守中の隣人のために新聞代の集金人に立替払いをする。
これだけの親切をした結果は,頼まれもせず,また義務を負っているわけでもないのにかってに干渉し,これを処理すると,場合によって不法行為として損害賠償義務を負わされる(民法709条)。
これだと困りますので、同人の明示または推知しうる意思に反せず,かつその他人の利益のためという意思で行われたときには,これを適法な行為とし,その他人と管理者間に適当な権利関係を生じさせることが,相互扶助の精神から望ましいのでできた規定です。「ほっこり」させる法律に感動。
今回の講座はこの相互扶助という社会共同生活の理想に基づいた制度の「事務管理」に焦点を当てる。
2020.12.27
さいたま市桜区
田村 司
はじめに
何とも耳慣れない言葉「事務管理」は
元々継受法であり、フランスでは「準契約」という。契約に準じるということだが契約ではない。どちらかというと「委任」に似たところがある。そして、ドイツではこれを「委任なき事務処理」と呼んでいる。
委任も契約もなく、権利関係は発生しないので、他人の領域に勝手に踏み込んで他人の権利を侵害したとして、「不法行為」になる恐れがある。けれども、債権関係がなくとも、頼まれずにやった行為がその被行為者の利益になり、意思に叶うものなら、負担した費用の請求はできる、これが「事務管理」である。
つまり事務管理は、「義務はないが好意で他人の事務を処理した場合、それがその人の意思と利益に適合しているならば、その結果、その人との間に何らかの債権関係が発生する」というものである。
この事務管理は、よかれと思って他人の領域に踏み込むことを、一定の範囲で許容するという制度である。
もしこの制度がないと、誰も他人のことに手を全く出さず、社会における相互扶助の精神が失われるだろう。
個人の独立と、他人の干渉とのバランスを取って事務管理の効果が定められている。たとえば、かかった費用は(有益なものだったら)請求できるが報酬は請求できない。任意に謝礼を上げるのはかまわない。
事務管理の成立要件
1,法律上の義務のない管理
民法697条(事務管理)
「義務のない事務の管理」
2,他人の事務
民法697条(事務管理)
「他人の事務の管理」
3,他人のためにする意思(事務管理意識)
民法697条(事務管理)
「他人のための事務の管理」
4、本人の意思及び利益への適合
民法697条(事務管理)
2管理者は本人の意思を知っているとき、又はこれを推知することができるときは、その意思に従って事務管理をしなければならない。」
事務管理の効果
1,総説
事務管理と認められると次の効果が生じる。
⑴本人と管理者との間に債権関係が発生する。
⑵管理行為に違法性がなくなる(違法性の阻却)。
⑶管理人には有益費の償還請求権が発生するが特別法に規定のある場合(遺失物法4条)を除いては、報酬請求はない。
⑷管理人が事務管理をした結果、損害を被ったような場合にも、委任と違って、管理人は本人に損害賠償をすることができない。
頼まれずにやった行為ですから、優遇はないのである。
2、管理者の義務
民法699条(管理者の通知義務)
「管理者は、事務管理を始めたことを遅滞なく本人に通知しなければならない。」
民法700条(管理者による事務管理の継続)
「管理者は、本人又はその相続人若しくは法定代理人が管理をすることができるに至るまで、事務管理をしなければならない」
管理者は善管注意義務をもって管理に当たらなければならない。
3,緊急事務管理
民法698条(緊急事務管理)
「・・・悪意又は重大な過失があるのでなければ、これによって生じた損害を賠償する責任を負わない。」
ここでいう「悪意」は、一般の取引の知っているという意味の「悪意」とは違い、本当に害する意図の意味であり、「害意」の表現であるべき。
4,管理者の費用償還請求
民法702条(管理者による費用の償還請求等)
「管理者は本人のために有益な費用を支出したときは、本人に対し、その償還を請求することができる。・・・
3管理人が本人の意思に反して事務管理をしたときは、本人が現に利益を受けている限度においてのみ、前二項の規定を適用する。」
管理人にはいささか不利ではあるが「頼まれないのにした」ことの結果で致し方ないのである。
当該法律条文
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