やさしい法律講座ⅴ64「不動産の相続登記義務化」
日本には憲法第29条で侵してはならない「財産権」がある。そして、第30条には「納税の義務」がある。今問題になっているのは九州より広い410万ヘクタールに及ぶ所有者不明の土地の問題である。このまま放置すると、固定資産税などの地方財政の税収にも絡んでくるのである。昔は租税逃れの為に不動産の登記を意図的にしないことが散見された。
そのような事情から不動産登記の法的効果として、第三者対抗要件(公示力)が認められている。しかし、不動産登記には公信力がない(公信の原則)のである。これは次回解説予定。
今回は報道記事から日本の不動産の問題点を紹介する。
皇紀2683年6月27日
さいたま市桜区
法律研究者 田村 司
九州より広い「所有者不明土地」 解消の課題は「相続」
伊藤和也2021年4月8日
誰のものかわからない土地が、九州の面積より広く存在するとされている。こうした「所有者不明土地」をこれ以上増やさないためにはどうすればいいのか。主な課題となっているのが、所有者が亡くなったときの相続のあり方だ。
国内の土地は、一筆ごとに所在や面積のほか、誰が所有しているのかが登記簿に記録されている。ただ、登記簿上の所有者がすでに亡くなっていたり、すぐに連絡がとれなかったりするケースが数多くあり、公共事業や都市開発の妨げになっている。有識者でつくる研究会の推計では、こうした土地の総面積は2016年時点で九州本島を上回る410万ヘクタールに上り、40年には北海道本島に迫る720万ヘクタールに達する可能性があるという。
法務省によると、登記簿で所有者が判明しないケースの約34%は転居先などの住所変更が届けられていないことが原因だった。残りの約66%は、すでに亡くなった人の名義になっており、相続が発生したときに名義変更が行われていなかったという。
そんな問題を解消するため、住所変更時や相続時の登記を義務化する不動産登記法の改正案が今国会で審議されている。住所を変更した場合は2年以内、相続した場合は相続を知った日から3年以内に登記を申請することを義務付け、違反した場合はそれぞれ5万円以下と10万円以下の過料を科すとの内容だ。
ただ、相続には複雑な事情が絡むため、権利関係の整理に大きな負担がかかる。土地の相続を登記する場合、法定相続人の間で分け方を決めて遺産分割協議書を作成し、全員が署名、実印を押したうえで、土地を管轄する法務局に提出する必要がある。全員分の印鑑証明書や住民票、亡くなった元の所有者の戸籍謄本などの書類もそろえなければならず、手間だけではなく費用もかかる面倒な作業だ。
相続専門会社「夢相続」代表の曽根恵子さんは「ちゃんと登記するにはまずはちゃんと相続すること。そのためには事前の準備が大事です」と話す。
相続でトラブルになる相手は兄弟姉妹が突出して多く、中には親の死後で収拾がつかなくなっているケースもあるという。曽根さんは「財産をすべてオープンにし、どう分割するか親が自分の考えを伝えるのがいい。子どもの意見も聞くのがベターだが、まとまらないことも多い」。そのうえで、結果を遺言として残すよう勧める。
所有者不明土地とは 経済損失6兆円規模
2021年7月19日
▼所有者不明土地 不動産登記簿を調べても所有者が分からない土地や、所有者が分かっても連絡がつかない土地のこと。超高齢化時代で所有者が亡くなり相続の発生が増えるのに対し、子供など相続者の所有意識が薄く登記されずに放置されるケースが多い。遺産分割をせずに相続が繰り返されると土地共有者が増え、管理が難しくなる問題もある。
民間有識者による所有者不明土地問題研究会が2017年にまとめた報告書によると、全国の不明土地は16年時点で九州を上回る規模の約410万ヘクタールに上る。死亡者の増加によって今後さらに増える可能性が高く、40年には北海道の面積に迫るという。機会損失や税の滞納などで40年までに累計で約6兆円の経済的な損失が生じると予測する。
東日本大震災後に問題が表面化した。所有者が分からず同意を得られないため被災地の高台移転など復旧・復興事業が進まない事例が出た。道路建設をはじめとした公共事業や民間取引でも支障が目立つ。土地の管理が行き届かなくなると不法投棄されたゴミが異臭を放ったり雑木が生い茂ったりして近隣にも悪影響を及ぼす。
「相続登記の義務化」スタート もし手続きが進められない状態なら、どうしたら良い?
昨日 20:00
令和6年(2024年)4月1日から「相続登記の義務化」がスタートします。
この制度で気になるのは、
10万円以下の過料が科せられる可能性があることと、
この制度がスタートする前に発生した相続についても、義務化の対象となることでしょう。
今回はそのあたりについてお話したいと思います。
相続登記の義務化 スタート 手続きが 進められない場合は?© マネーの達人 提供
相続登記とは?
相続登記とは、亡くなられた方(被相続人)から不動産を相続した際に必要となる不動産の所有権移転(名義変更)登記のことです。
相続登記の義務化がなされると、「相続の開始および所有権を取得したと知った日から3年以内」に相続登記をしなくてはなりません。
注) 被相続人の不動産所有を認知していない期間は、この3年には含まれないものとされています。
参考:東京法務局 「相続登記の義務化のリーフレット(pdf)」
これを早々に適切におこなって最新の登記情報にしておかないと、不動産の取引(売買や利活用、抵当権設定等)や管理上で問題が発生しかねません。
現状、国交省による調査によれば、所有者不明土地は土地面積にして約410万ヘクタールに相当していて、なんと、九州の土地面積より広い土地が誰のものか、わからない状態になってしまっているとのことです。
その経済損失や悪影響を鑑みて、今回の改正が行われた訳です。
相続登記の義務化で気になるのが次の2つではないでしょうか
正当な理由なく期限までに行わないと10万円以下の過料となる可能性
相続登記の義務化前の相続についても、義務化の対象であること
1.について、正当な理由とは下記のような場合です。
相続登記を放置したために相続人が極めて多数に上り、戸籍謄本等の必要な資料の収集や他の相続人の把握に多くの時間を要する場合
遺言の有効性や遺産の範囲等が争われている場合
申請義務を負う相続人自身に重病等の事情がある場合
注) 上記以外でも通達等により正当な理由が示される模様
2.についてが、場合によってはいちばん厄介になるかもしれません。
今回の義務化では原則、改正法の施行日(令和6年(2024年)4月1日)から3年間の猶予期間が設けられております。
また、改正法附則に「”知った日”又は”施行日”のいずれか遅い日」と規定されておりますので、自分が相続により不動産の取得を知った日が施行日より遅ければ、「知った日から3年以内」に相続登記をすればよいことになります。
先代分だけでなく、先々代以前から放置されてきたような場合には、そもそも現在も知らないということが考えられます。
その場合は「知った日から3年以内」と覚えておきましょう。
相続税申告書© マネーの達人 提供
遺産分割協議がまとまらない場合はどうしたらいいの?
遺産分割協議には期限がありませんので、いつまでも揉めている場合や、放置してしまっている場合があるでしょう。
この場合には、実際に相続登記を行うことは困難になるでしょう。(法定相続分での共有登記は可能ですが)
上述の正当な理由には含まれていない、この場合にはどうしたらいいのでしょうか。
この場合には新しく創設されます「相続人申告登記制度」を利用することになります。
相続人申告登記制度とは、登記官(法務局)に対して、
「該当の登記名義人に相続が発生したこと」
もしくは「相続人が判明していること」を申告することで、
登記官の職権で申告をしたものの氏名・住所などを登記簿に記録できる制度のことです。
注意点は、相続登記の義務を一時的に履行したものとみなされるための仮の手続きだということ、各相続人が個別に手続きを行う必要があることです。
そのため、遺産分割協議がまとまったら成立した日から3年以内に相続登記をしなければなりません。
以上、相続登記の義務化で気になる2点を中心にお話させていただきました。
施行まで1年を切っておりますので、未登記不動産に心当たりがないか家族で話をしてみましょう。(執筆者:CFP認定者、1級FP技能士 小木曽 浩司)
参考文献・参考資料
「相続登記の義務化」スタート もし手続きが進められない状態なら、どうしたら良い? (msn.com)
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