やさしい法律講座v71「三菱UFJ銀行員の貸金庫内の物品の横領事件の法解釈」
実に興味深く知的好奇心がそそられる報道記事があった。
以前掲載したブログをご参照のこと。
やさしい法律講座ⅴ5 副題 物の占有と所有|tsukasa_tamura
やさしい法律講座ⅴ37 副題 他人の占有物等に係る自己の財物(刑242条)の保護法益|tsukasa_tamura
政治(法律)講座ⅴ238「ごみ収集所からの持ち出しは『窃盗罪』になる可能性がある」|tsukasa_tamura
毎度のことであるが、マスコミの「はてな?」の憶測記事が氾濫している。しかも、弁護士の肩書のある者まで、法律の条文と内容を理解していないように思える記事に遭遇したので、浅学菲才な吾輩の解説をする。
一般に占有と所有を理解せずに物事を考えるケースが散見される。
今般の事例は法律を学ぶ者にとっては大変用教材となると考える。
日本の法律は「占有」と「所有」とどちらを優先的に権利として保護しているか(保護法益)。条文を読む限り諸説あるが「占有」である。
そのものが権利があるかは「外観」を伴う者を優先する。その「外観」を不正に取得された者(被害者)に対しては、「占有」をもとに戻す占有回収の訴訟によって取得することになる。つまり、占有者に対して自力救済(力ずくで奪う)は近代法では認められていない。ただし、自分の目の前で略奪される場合など、奪い返すのは当然の権利(正当防衛)として認められる。
翻って「貸金庫」は誰の「占有」にあるかというと管理している銀行にあるのである。貸金庫は貸借しているのであくまでも銀行の「占有」という管理下にある。
今般の行員の罪は、自分の管理下のある「占有物(他人の財物)」を盗んだ場合に相当し、業務上横領罪となる。
このような事を前提に考えると、銀行は貸金庫の利用者に損害賠償の責任が発生する。
貸金庫の利用者は業務上横領した者に対して損害賠償ではなく、「占有者」たる銀行に対して損害賠償請求する流れになる。そして銀行が、業務上横領した者に対して損害賠償の求償権を行使することになる。
そして、この横領した行員から損害金相当の回収が出来ない場合に銀行が損害額が確定して、刑事事件(業務上横領罪)として告訴することになる。
損害金が回収できて、本人も深く反省しているならその人物の人生のやり直しも考慮して示談として、告訴はしないという温情対応もあり得る。なお、後述する「他人の占有物等に係る自己の財物(刑242条)の解説」欄を以前のブログから再掲載したのでご参考にしてください。
なお、古い話であるが、三和銀行オンライン詐欺事件(現在現・三菱UFJ銀行)があった。犯罪の裏には「男」がいた。
今般の事件の裏には犯罪を唆した共犯者(教唆罪)がいるのかは今後の犯罪の動機の解明とその展開を待たなければ憶測で発言できない。
なお、「上級国民か!」とかの国民間の格差意識を助長させる報道は皮肉を込めて言っているつもりであろうが、犯罪を憎むべきであり、動機を究明する以外の過激な表現は控えるべきであろう。
憲法 第十四条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
皇紀2684年11月29日
さいたま市桜区
法律研究者 田村 司
報道記事紹介
『元銀行員が10数億円窃取』まだ立件されないのはなぜ? 「100円のパンを盗んでも逮捕される時代に」紀藤正樹弁護士は疑念
弁護士の紀藤正樹さんが28日から29日にかけて、X(旧ツイッター)を連続更新。三菱UFJ銀行の貸金庫から顧客の金品を盗んだ事件で、犯行を認めている元行員が逮捕されない状況に、「銀行の不祥事隠しと言われてもおかしくない」と私見をつづった。
UFJ銀行は22日、行員が東京都内の2支店で2020年4月から24年10月までの約4年半、貸金庫を管理する立場を悪用し、約60人の顧客の金庫を無断で開けて金品を繰り返し盗んだと発表。行員は犯行を認めて、14日付で懲戒解雇にした。
紀藤さんは、UFJ銀行の発表直後、「この件すぐに元行員を逮捕しないとまずい」と指摘していた。今回の投稿では、UFJ銀行が事件把握したのが10月31日で、「この間元行員は犯行を認め懲戒解雇されたのにまだ逮捕されない」と、状況を説明。「コンビニで100円のパンを盗んでも警察呼ばれて逮捕される時代に10数億円も窃取した行員が逮捕されないのは異常。銀行の不祥事隠しと言われてもおかしくない状況」と断じた。
続く投稿では、週刊文春電子版の記事閲覧ランキングで、兵庫県知事問題などを抑えてこの事件が、1位であることを紹介した上で、「国民の関心事が高い大事件であることがわかります」と。「しかしこの間のマスコミの追及もなぜか弱く銀行側の記者会見もない」と、UFJ銀行とともに報道の姿勢にも疑問を呈した。
この事件に進展がない点については、実業家の「ひろゆき」こと西村博之さんも27日、Xへの投稿で「銀行の管理職ともなると上級国民なのかな? 3億円事件がかすむ程の金額なんだけどね、、、」と皮肉を込めて指摘している。
紀藤さんの投稿には、「何故なのか?兵庫の70万円よりよっぽど知りたい」「銀行側が被害届を出した時点で逮捕が出来ますよね」「何かの力が働くだね」「この件闇が深い気がします」「ありがちです。某銀行業務の職場にいましたが、そこで大金の横領が発覚したのにニュースにならなかったの、マジで驚きました」「裏金議員は何千万円を私物化してもおとがめなし、おにぎり1個盗んだら万引となり警察車に乗せられ取り調べって、もはや国民は平等ではないのね」などの声が寄せられた。
ひろゆき氏 三菱UFJ行員の10数億円窃盗に「名前も顔も…銀行の管理職ともなると上級国民なのかな?」
2024/11/28 12:01(最終更新 11/29 10:54)
実業家の西村博之(ひろゆき)氏(47)が28日までに自身のSNSを更新。三菱UFJ銀行が、東京都内の2支店で貸金庫から顧客の金品を繰り返し盗んだとして、管理者だった行員を14日付で懲戒解雇したと発表したことに言及した。
2020年4月から24年10月までの約4年半で約60人が被害に遭い、金額は時価で十数億円に上るという。2支店は練馬支店(練馬区)と玉川支店(世田谷区)。22年6月に練馬支店に統合した江古田支店名義の貸金庫も含む。貸金庫を契約している顧客から指摘を受け、三菱UFJが行員に確認したところ認めたという。盗みが発覚した今年10月31日以降、三菱UFJは全店の貸金庫を調査し、同様の被害が他にはないことを確認した。
三菱UFJによると、元行員は金庫を無断で開けていた。「厳格な管理ルールを定め、第三者による定期チェックの仕組みも導入していた」というが、長期間にわたり機能していなかった。三菱UFJは対策本部を設置し、原因の究明や全容解明に向けた調査を進める。被害を受けた顧客には既に連絡しており被害を補償する。警察にも相談しているという。行員の年齢や支店の在籍時期など詳細な情報は「個人の特定につながる」として明らかにしていない。
ひろゆき氏は「コンビニで、500円分のコーヒーとパンを盗んで、店員に頭突きした男性は実名と顔写真が出された。三菱UFJ銀行の銀行員が貸金庫から十数億円盗んだのに名前も顔も出てこない。銀行の管理職ともなると上級国民なのかな?3億円事件が霞む程の金額なんだけどね、、、」とつづった。
三菱UFJ銀行員が十数億円を窃取 顧客約60人の資産、貸金庫から
朝日新聞社 によるストーリー
三菱UFJ銀行は22日、東京都内の貸金庫から顧客の資産を盗んでいたとして、貸金庫の責任者だった行員を14日付で懲戒解雇したと発表した。被害者は約60人に上り、時価で十数億円の被害を確認したという。
同行によると、元行員は2020年4月~24年10月、練馬と玉川の2支店の貸金庫から現金や金、宝石などを盗んだ。行内のルールでは、顧客に無断で貸金庫は開けられず、開ける際は管理職の許可を取って複数人で行うことになっている。だが、元行員は支店の貸金庫の管理責任者だったため、その立場を利用して顧客に無断で貸金庫を開けていた。
利用者が被害に気づき、事案が発覚。元行員も関与を認めた。同行は警察に相談するとともに被害者への補償を検討している。(山本恭介)
三菱UFJ元行員も「上級国民」なのか 貸金庫で巨額窃盗でも名前が発表されない理由
J-CASTニュース によるストーリー
三菱UFJ銀行の元行員が貸金庫から十数億円相当の金品を盗んだ事件について、なぜ元行員の名前や顔写真などが出てこないのかなどと、ネット上で疑問がくすぶっている。
官僚などと同様に、「上級国民」ではないのかとの声も一部であるほどだ。こうした疑問について、どのように説明するのか、同行の広報部に取材した。
「行員が着服なんて、対策打ちようがない」と嘆く声も
メガバンクで明るみになった事件は、やりたい放題とも言える犯行の規模に、大きな衝撃が走った。
三菱UFJ銀行は2024年11月22日、「元行員の不祥事について」と題する報告を公式サイトで行った。
そのリリースによると、元行員は在職中、東京都内の練馬支店と玉川支店で貸金庫の管理責任者を務め、20 年 4 月~24 年 10 月の約 4 年半にわたって窃盗を重ねた。金庫を無断で開扉しており、判明しただけで、約60人の客から時価十数億円ほどの被害があった。
元行員は、自身の行為を認めたため、同行では、懲戒解雇した。警察にも相談しながら、事実関係の調査や客への被害補償の検討を進めている。リリースでは、「貸金庫は、お客さまに無断で開扉することができないよう、厳格な管理ルールを定めており、第三者による定期チェックの仕組みも導入しておりましたが、未然防止に至りませんでした」としてお詫びした。
このリリースや報道を受けて、ネット上では、銀行の貸金庫で同様の被害に遭ったとの投稿が相次ぎ、衝撃的な事件だけに、様々な意見が寄せられている。
「行員が着服なんて、対策打ちようがない」と嘆く声のほか、この元行員の情報が少なすぎるとして、「実名を出して欲しい」「"上級国民"って言葉が頭をよぎります」などと不満の声も相次いだ。
この騒ぎを受けて、週刊文春も27日、後追い報道し、「三菱UFJ銀行 貸金庫から10億円を奪った"有名女優似"行員」のタイトルを付けた電子版記事で、この元行員は、40代後半の女性だと報じた。
三菱UFJ銀行は、なぜ巨額窃盗をした元行員の名前などの情報を公開しなかったのだろうか。
「捜査中で逮捕されていないので、個人情報は開示できない」
この点について、同行の広報部は11月28日、J-CASTニュースの取材に対し、次のように説明した。
(以下引用)
「警察に相談している段階で、警察も捜査していますので、個人情報に関わることは開示できません。本人は、まだ逮捕されていませんので、犯行の手口などの情報もお答えできません」
(以上引用)
元行員について、週刊文春が40代後半の女性だと報じたことについては、「我々からは、コメントするものではありません」と述べた。
窃盗の被害届については、「被害者は恐らく、我々ではなく、貸金庫を使っておられた個人のお客様になると思います。被害届を出したかについては、分かりかねます」と説明した。同行が元行員を刑事告訴するかについては、「どういう形になるか、弁護士と検討しており、決まっていません」とした。
時間がかかりそうなのが、客への補償をどうするかだ。
(以下引用)
「金庫の中に何が入っていたか、記録されておらず、行員がその中身を確認できませんので、分かりません。どれくらいの被害があったのか、犯行の内容解明を優先していますが、補償をどうするか、お答えできる状態ではありません。銀行が補償することはありえますが、それも警察の捜査が進展するのを見ながらになります」
(以上引用)
同行が元行員に対して損害賠償の訴訟を起こすかについても、警察との相談がどれだけ進むか次第だと説明した。
(J-CASTニュース編集部 野口博之)
他人の占有物等に係る自己の財物(刑242条)の解説
「他人の占有物等に係る自己の財物(刑242条)」が何を保護法益にしているかについて、本権説(所有権)と所持説(占有権)の対立がある。
民法上の物権の概要は次の通り。
本権(占有を法律上正当づける実質的な権利)
所有権(民法206条)
制限物権
用益物権
地上権(第265条)
永小作権(第270条)
地役権(民法第280条)
入会権(民法262条、民法294条)
担保物権
法定担保物権
留置権(民法第295条)
先取特権(民法第303条)
約定担保物権
質権(民法第342条)
抵当権(民法第369条)
占有権(180条) ・・・物に対する事実上支配状態(占有権)の保護を目的とする権利。
1,本権説(所有権)は
占有を裏打ちする「所有権その他正当な権利・利益」が保護法益であるとする。
2,他方の所持説(占有権)は
他人の占有等に係る自己の財物 第242条 「自己の財物であっても、他人が占有し、又は公務所の命令により他人が看守するものであるときは、この章の罪については、他人の財物とみなす。」という規定も設けている。所有権に基づかない占有(所持している)状態その物も保護される。ここでは「所有権その他正当な権利・利益」が謳われていない。
ここに、窃盗罪の保護法益は、本権とは関わりのない占有権そのものだとする所持説(占有権)を支持する一つの根拠がある。
さらに、所持説(占有権)については、財産秩序をどのように構成するかという見地から理論づけがなされている。
すなわち、社会生活が複雑となり、権利関係が錯綜している今日では、社会生活上の財産秩序は、占有という外観上の基準をもとに構成しなければならない。
そこで、所持説は、私法上適法な占有と言えない場合でも、刑法上保護されるべき占有が認めれれると解する。
社会生活上の財産秩序が権利者らしい外観を示す占有を基礎に成り立っていることからすれば、所持説は正しい面を有している。そして、民法の占有権の規定から窺い知る事ができる。
解説・・・占有訴権制度の目的は、通説はこれを「自力救済の禁止」に求める。
現にある支配状態が仮に法的に許されないものであっても、これを裁判の手を借りずに私力で除去しようとするのは法治国家の建前上許されないから、一時的にであれ現にある事実状態を維持するという点にこの制度の存在意義があるとする。
3,民法の条文から垣間見えるもの
所有権の取得の規定は「無主物の帰属」の規定のみであり、ほとんどは占有権の規定が主であるところからも法の目指す方向が垣間見える。以下占有権に関する規定を列挙する。
(占有権の取得) 第180条 占有権は、自己のためにする意思をもって物を所持することによって取得する。
解説:自分で利用したいなどで所持するだけで占有権を取得する。適正な取引によるものなどの条件は付与されていない。所持するだけで適法な権利と推定される。
(現実の引渡し及び簡易の引渡し) 第182条 占有権の譲渡は、占有物の引渡しによってする。
解説:占有権の譲り渡しは「物」の引渡しにより所持人が代わる。つまり占有者が代わる。これで権利の移転(権利譲渡)は完了する。
(占有の態様等に関する推定) 第186条 占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定する。
解説:占有しているだけで正当な権利者らしきものと推定される。反証があれば、裁判で覆せる。例、盗品であることを知っていた事実(悪意)を立証。
(占有物について行使する権利の適法の推定) 第188条 占有者が占有物について行使する権利は、適法に有するものと推定する。
解説:権利者らしきもの権利行使であるから適法であろうと推定される。反証があれば裁判で覆せる。
(即時取得) 第192条 取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。
解説:取引行為(売買・贈与など)
(動産に関する物権の譲渡の対抗要件) 第178条 動産に関する物権の譲渡は、その動産の引渡しがなければ、第三者に対抗することができない。
(占有の訴え) 第197条 占有者は、次条から第二百二条までの規定に従い、占有の訴えを提起することができる。他人のために占有をする者も、同様とする。
(占有保持の訴え) 第198条 占有者がその占有を妨害されたときは、占有保持の訴えにより、その妨害の停止及び損害の賠償を請求することができる。
(占有保全の訴え) 第199条 占有者がその占有を妨害されるおそれがあるときは、占有保全の訴えにより、その妨害の予防又は損害賠償の担保を請求することができる。
(占有回収の訴え)
第200条 占有者がその占有を奪われたときは、占有回収の訴えにより、その物の返還及び損害の賠償を請求することができる。
(本権の訴えとの関係)
第202条 占有の訴えは本権の訴えを妨げず、また、本権の訴えは占有の訴えを妨げない。
2 占有の訴えについては、本権に関する理由に基づいて裁判をすることができない。
解説・・・占有の訴は、占有の事実自体につき決定されるべきもので、本権(所有権、地上権、永小作権、賃借権等)に関する理由に基づいてこれを裁判することができない。つまり、占有の訴えについては、本権に関する理由で裁判をすることが許させず、占有の侵奪や妨害や妨害の危険性のあるなしだけで裁判される。占有であれば、たとえ、本権によらない占有であってもこれを占有権として保護するという占有権制度の趣旨から当然の規定である。本権の理由で裁判したのでは、占有自体が権利として保護されないことになるからである。
占有の訴で被告として敗訴するも、本権の訴で勝訴することが出来よう。
所有権の取得の規定は(無主物の帰属) 第239条 所有者のない動産は、所有の意思をもって占有することによって、その所有権を取得する。 2 所有者のない不動産は、国庫に帰属する。
(占有権の消滅事由) 第203条 占有権は、占有者が占有の意思を放棄し、又は占有物の所持を失うことによって消滅する。ただし、占有者が占有回収の訴えを提起したときは、この限りでない。
しかし、「被害者による自己の物の奪い返し」のように正当な権利者が不法占有者から財物を取り戻す場合については、検討の余地あり。これは窃盗の被害から数日経過して被害者が取り戻すような場合である。というのは窃盗の現場で、被害者が奪い返すのは当然の権利(正当防衛)として認められるからである。
さて、窃盗の被害者が自己の物を奪い返す場合に不法占有者の占有を保護して、被害者を窃盗罪に問うのは不合理である。刑法がこのような場合も含めてあらゆる事実上の占有を保護するとすれば私法関係に対する過度の刑罰権の介入になるとともに一般国民の健全な正義観念に反することになる。そこで窃盗罪やその他の財産犯罪において保護される占有は、いわば単なる占有ではなく、仮に本権に基づかないとしても、一応の理由のある、外観上平穏な占有ということになる。(船山氏p287~288)
吾輩の考えとしては、我が国の刑法は自力救済を認めず、「外観上平穏な占有」に保護法益があると規定する。正当防衛や緊急避難に通わせてこの機会を逃したら困るという限定的な範囲で違法性阻却を認めるべきである。
4,刑法242条の「他人の占有等に係る自己の財物」について「他人の財物とみなす」の解釈
本権説:242条は自己所有物の特例を定めた例外規定であって、そこにいう他人の「占有」とは、権限による占有、すなわち適法な原因に基づいてその物を占有する権利(本権)のある者の占有だけを意味している。
占有説:242条は他人の占有それ自体の保護を示す注意規定であり、ここにいう「占有」は占有一般を意味し、占有が適法か否かは客体の要保護性と関係が無い。
○修正本権説
小野清一郎先生(元東京大学名誉教授、故人)
→刑法242条の「占有」は、一応理由のある占有、その意味で適法な占有であることを必要とするが、必ずしも実体的な権利 (本権)に基づく占有であることを要しない
団藤重光先生(元東京大学名誉教授、元最高裁判事、行為無価値論の巨頭)
→窃盗罪の保護法益を「所有権のほかに、占有の基礎となっている本権及び占有の裏付けとなっている法律的―経済的見地における財産的利益」
平野龍一先生(元東京大学名誉教授、元総長、結果無価値論の巨頭)
→一応平穏と思われる占有のみを保護(平穏占有説)
*近時の判例の事案は、本権説の側からも理解が全く不可能とは言えないこと、また、すべての占有を刑法的保護の対象とするのは妥当ではないから、平穏占有説が有力である。
5,行為者が窃盗犯人から盗品を取り戻す行為
(修正)本権説:被害者の占有は最初から行為者の意思に反した無権原・不適法な占有であって、およそ正当な権利者である行為者の所有権に対抗することはできず、仮に窃盗罪の構成要件該当性を認めるとしても、その行為は自救行為を援用するまでも無く適法と解せられる。
→なお、平穏占有説では、窃盗犯人の占有が行為者との関係では平穏でないとして窃盗罪の成立を否定する。
占有説:それが自救行為(権利を侵害された者がその回復について国家機関による法的救済に待つときは回復が不可能又は困難となる場合に、自力でその権利の救済を図ること)の要件を満たさない限り、窃盗罪を構成する。
刑法学においては、法益の帰属主体(誰がその法益の持ち主か)に着目して、個人的法益、社会的法益及び国家的法益に三分するのが通例である。この分類も、その法令の解釈や適用の指針とすることを目的とする。
(窃盗) 第235条 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
(不動産侵奪) 第235条の二 他人の不動産を侵奪した者は、十年以下の懲役に処する。
(強盗) 第236条 暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項とする。
(横領) 第252条 自己の占有する他人の物を横領した者は、五年以下の懲役に処する。
(業務上横領) 第253条 業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、十年以下の懲役に処する。
(遺失物等横領) 第254条 遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金若しくは科料に処する。
解説:これがネコババというものです。占有離脱物横領とも言います。
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