政治講座ⅴ1410「国連の改革」
国連は発足当初から何も変わり映えしない組織である。戦勝国の既得権益を保持するための組織である。その証拠に、枢軸国の国名が敵国条項が未だ記載されている。そして、常任理事国の拒否権も未だに既得権益として存在している。中華民国は国連から追い出され中華人民講和国がその地位を占めている。旧ソ連が滅んだ後にロシアが既得権益者として拒否権を発動して、世界は少しも平和になっていない。
今回は国連の解説の報道記事を紹介する。
皇紀2683年10月6日
さいたま市桜区
政治研究者 田村 司
国連安保理の常任理事国からロシアを排除する方法
横山 恭三 によるストーリー •
2023年9月20日の国連安全保障理事会(以下、安保理)の特別会合にウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が出席し、敵国であるロシアのワシリー・ネベンジャ国連大使と同じテーブルで向かい合った。
ネベンジャ氏が、安保理の理事国より先にゼレンスキー氏が発言することに反発すると、安保理の議長を務めるアルバニアのエディ・ラマ首相は、次のように一蹴した。
「ロシアが戦争をやめることだ。そうすればゼレンスキー氏がここに立つことはない」
国連憲章で謳われた主権と領土の尊重や紛争の平和的解決の原則を根底から覆し、ウクライナの主権と領土を踏みにじる軍事侵攻を続けるロシアの暴挙に辟易していた筆者は、溜飲を下げる思いであった。
さて、ゼレンスキー大統領は、安保理特別会合において、常任理事国のロシアが「拒否権を悪用し、すべての国連加盟国に不利益をもたらしている」と述べ、拒否権を奪うべきだと訴えた。
筆者は、拙稿「穀物輸送巡るロシアの暴挙、安保理常任理事国剥奪を」(2023.8.4)でロシアの安保理常任理事国の地位剝奪を提案した。
では、どのような方法で、ロシアの常任理事国の地位を剥奪するのか。
緊急特別総会を開催して、「ロシアの安保理常任理事国の資格を停止すること」を決議するのである。
現在、第11回緊急特別会期が開催中である。これまでに緊急特別総会において6つの決議が採択されている。総会で審議され採択された決議は国際社会の総意としての意義を持つ。
決議には、法的拘束力はないとはいえウラジーミル・プーチン大統領のみならずロシア国民にも相当のプレッシャーを与えるであろう。
一例を挙げれば、2022年4月7日、緊急特別総会は、ロシアの人権理事会の理事国資格を停止することを決議(ES-11/3)した。
これを受けてロシアは即日人権理事会からの脱退を表明した。
この緊急特別総会は、1950年11月3日に通常総会で採択された「平和のための結集(Uniting for peace)」決議(決議377A)に基づくものである。
付言すると、日本のマスメディアは、国連の総会には3つの種類があることを知ってか知らずか、3つの総会を弁別していないように筆者には見られる。
国連の総会には通常会期の総会(通常総会)、特別会期の総会(特別総会)、緊急特別会期の総会(緊急特別総会)の3つの種類がある。
特別総会は常任理事国の1か国でも拒否権を発動すれば開催されない。
一方、緊急特別総会は常任理事国が拒否権を発動しても常任理事国、非常任理事国の別なく15か国の理事国のうち9か国の賛成があれば開催される。
本稿は、これまで筆者がJBpressに投稿した記事から、緊急特別総会に関連する情報を取り纏め補足したものである。
初めに「平和のための結集」決議(決議 377A)について述べる。次に、緊急特別会期の招集手続きについて述べる。次に、過去の緊急特別会期の開催状況について述べる。
最後に第11回緊急特別会期において採択された各決議の内容について述べる。
1.「平和のための結集」決議(決議 377A)
(1)拒否権濫用防止の3つの方法
本項は、国立国会図書館外交防衛課苅込照彰氏著『国連安全保障理事会の拒否権』を参考にしている。
国連憲章のもとに、国際の平和と安全に主要な責任を持つのが安保理である。
安保理は、常任理事国5か国(中国、フランス、ロシア連邦、英国、米国)と、通常総会が2年の任期で選ぶ非常任理事国10か国の15か国で構成される。
各理事国は1票の投票権を持つ。手続き事項に関する決定は15理事国のうち少なくとも9理事国の賛成投票によって行われる。
実質事項に関する決定には、5常任理事国の同意投票を含む9理事国の賛成投票が必要である。
常任理事国の反対投票は「拒否権」と呼ばれ、その行使は決議を「拒否」する力を持ち、決議は否決される。
さて、拒否権制度は、集団的安全保障制度を実効的ならしめるために導入されたが、冷戦開始とともに拒否権は濫発され、むしろ常任理事国の国益のために拒否権を行使するという弊害が目立つようになり、当初想定された集団的安全保障制度が十分には機能しなかった。
そのため、拒否権の濫用防止のため、いくつかの方法が編み出されてきた。
その一つは、常任理事国の棄権や欠席の場合に拒否権行使の効果を認めないというものである。
国連憲章第27条は、紛争当事国の棄権(義務的棄権)について規定しているが、常任理事国の自発的棄権については明記していない。
しかし、早くも1947年には、常任理事国の自発的棄権は拒否権の行使と同一視されないという慣行が確立されたものとして認められていた。
また、常任理事国が討議に欠席したときの取扱いについては、1950年の朝鮮戦争の際にソ連が欠席したときに問題となった。
しかし、現在では、安保理の先例や実行上、常任理事国が欠席した場合も拒否権の行使とならないことが認められている。
第2に、二重拒否権の弊害を防ぐため、安全保障理事会仮手続規則第30を活用することである。
この規則は、議長の裁定を覆すには9理事国以上の賛成を必要とする(拒否権は適用されない)という規定であり、もともと議事進行に関して緊急動議が提起された場合の議長裁定の適否を決定するための手続を定めたものであった。
しかし、すでに初期の段階から議長が手続事項であるか実質事項であるかについて裁定を下す慣行が生じていたことを踏まえ、この規則を援用することによって、二重拒否権(注)を防止しようとするものである。
第3が、1950年に国連総会が採択した「平和のための結集」決議(決議 377A)である。この決議は、
①安保理が拒否権のために行動を妨げられたときは、総会に審議の場を移し、②総会の3分の2の多数で集団的措置を勧告できるなど、安保理が国際の平和および安全の維持のために果たすべき機能を総会が代行しうるようにするものである。
(注)二重拒否権:常任理事国は、ある問題が手続事項に当たるか否かの決定の際、手続き事項でないことに拒否権を行使して実質事項とした上で、その実質事項の決定に際して再び拒否権を行使することができる。このように、拒否権が二度にわたって行使されることを「二重拒否権(double veto)」という。
(2)平和のための結集」決議(決議377A)がなされた経緯
本項は、元国連事務局総会課次長であった野健司氏著『総会緊急特別会期という制度』を参考にしている。
「平和のための結集」決議(決議377A)は、1950年6月の朝鮮戦争勃発後、中国代表権問題のために年初から安全保障理事会を欠席中だったソ連が8月に議長国として戻り、安保理における審議が拒否権の行使により行き詰まったのを受けて、米、英、仏、加、比、トルコ、ウルグアイの共同提案により総会で採択されたものである。
(投票結果は52-5(反対:ソ連、チェコ・スロバキア、ポーランド、ウクライナ、ベラルーシ)-2(棄権:印、アルゼンチン))
(3)決議の内容
決議の核心は主文第1段落で、「平和への脅威、平和の破壊または侵略行為があると思われるいかなる事案においても、安全保障理事会が、常任理事国間の一致がないために国際の平和と安全の維持に関する主要な責任を遂行できない場合には、総会は、集団的措置(平和の破壊または侵略行為の場合には、必要であれば軍隊の使用を含む)について加盟国に適切な勧告を行うことを目的として、その問題を直ちに審議しなければならない。総会が会期中でない場合には、そのための要請があってから24時間以内に緊急特別会期で会合することができる」とある。
さらに同決議主文第2段落に基づき、招集のための手続が総会手続規則(A/520/Rev.17)に定められている。
2.緊急特別会期の招集手続き等について
本項の出典は国連の総会手続規則(A/520/Rev.17)である。
緊急特別会期は、常任理事国、非常任理事国の別なく9か国の賛成を得た安全保障理事会の要請、加盟国の過半数の要請、または加盟国の過半数の同意を得たいずれかの加盟国の要請があった場合、24時間以内に緊急特別会期を招集することができる。
(1)安全保障理事会の要請又は加盟国の過半数による要請による招集(規則8)
(b) 総会決議 377A(V)に基づく緊急特別会期は、安全保障理事会のいずれかの9理事国の投票に基づくその会期についての同理事会の要請または中間委員会における投票もしくは他の方法により表明された国際連合加盟国の過半数の要請を事務総長が受領した時から24 時間以内に開催されるものとする。
(筆者コメント:これまでに加盟国の過半数の要請による招集の事例はない)
(2)加盟国による要請(規則9)
(a)いずれの国際連合加盟国も事務総長に対し総会の特別会期の開催を要請することができる。
事務総長は、ただちに当該要請を他の加盟国に通知し、かつ他の加盟国がその要請に同意するかどうかを照会しなければならない。
事務総長の通報の日付から30日以内に加盟国の過半数がその要請に同意するときは、総会の特別会期は、規則8に従って開催されるものとする。
(b)当該規則は、決議 377A(V)に基づく緊急特別会期の開催についてのいずれかの国際連合加盟国による要請にも適用する。
この場合には、事務総長は、利用することができる最も迅速な通信方法により他の加盟国に通報しなければならない。
(筆者注:規則9は、「いずれの加盟国も緊急特別会期の開催を事務総長に要請できる。かかる要請があった場合には、事務総長はただちに他の加盟国に通告し、右要請に同意するか否か照会しなければならない。事務総長の通告から30日以内に加盟国の過半数が要請に同意する場合には、規則8に則り緊急特別会期が開催されなければならない」との趣旨である)
(3)緊急特別総会の議長(規則 63)
総会は、他の諸規則の規定にかかわらず、かつ総会が別段の決定をしない限り、緊急特別会期の場合には本会議のみを招集するものとし、また同会期の開催を要請する際に審議のため提案された議題をあらかじめ一般委員会その他の委員会に付託することなく、ただちにその審議に入るものとする。
この緊急特別会期の議長および副議長には、前の会期の議長および副議長として選出された各代表団の長がそれぞれ当たるものとする。
(筆者注:前の会期の議長および副議長とは、通常会期の議長および副議長を意味している)
(4)表決(規則 83)
重要問題に関する総会の決定は、出席しかつ投票する構成国の3分の2の多数によって行われる。
重要問題には、国際の平和および安全の維持に関する勧告、安全保障理事会の非常任理事国の選挙、経済社会理事会の理事国の選挙、第86条1C による信託統治理事会の理事国の選挙、新加盟国の国際連合への加盟の承認、加盟国としての権利及び特権の停止、加盟国の除名、信託統治制度の運用に関する問題ならびに予算問題が含まれる。
(5)その他(休会と再会・終了)
一般に緊急特別会期中に何度かの総会が行われるので、招集された会期を暫時休会し、後日再開するという方式がとられている。
その場合は、「緊急特別会期を暫時休会(adjourn temporarily)し、直近の会期の総会議長に、加盟国からの要請を受けて特別会期の会合を再開(resume)することを授権する」等の決議を採択する。
ここで言う「直近の会期の総会議長」とは、通常会期の議長を意味している。
ちなみに、緊急特別会期を終了する場合には、緊急特別総会において会期を終了する旨の決議を行う。
3.過去の緊急特別会期の開催状況
(1)これまでに開催された緊急特別会期
これまでに開催された緊急特別会期は、下記 の10回である。なお、カッコ内は、招集期間、議題、招集要請者、決議のリファレンス(参照先)を示している。
第1回会期(1956年11月、スエズ危機、安保理、A/3354)
第2回会期(1956年11月、ハンガリー動乱、安保理、A/3355)
第3回会期(1958年8月、レバノン情勢、安保理、A/3905)
第4回会期(1960年9月、コンゴ動乱、安保理、A/4510)
第5回会期(1967年6月-9月、第三次中東戦争、ソ連、A/6798)
第6回会期(1980年1月、ソ連のアフガニスタン侵攻、安保理、ES-1,2)
第7回会期(1980年7月-1982年9月、パレスチナ情勢、セネガル、 A/ES-7/1から7/9まで)
第8回会期(1981年9月、ナミビア情勢、ジンバブエ、 A/ES-8/1)
第9回会期(1982年1月-2月、中東情勢、安保理、 ES-9/1)、
第10回会期(1997年4月-2009年1月、パレスチナ情勢、多数、ES-10/1から10/18まで)
(2)緊急特別会期の総会決議により派遣された第1次国連緊急軍
国連は、安保理決議だけでなく、緊急特別会期の総会決議により次のような国連軍を派遣したことがある。
1956年10月29日、エジプトのガマール・アブドゥル=ナセル大統領のスエズ運河国有化宣言に衝撃を受けた英国がフランス、イスラエルに働きかけ、協同で出兵し、エジプトに侵攻した。
イスラエルの侵攻が開始された翌日の10月30日、米国は安全保障理事会の緊急会合開催を要請した。
10月31日に緊急特別会期を招集することを決定した安保理決議119を採択した。
11月2日には総会決議997により関係国への停戦とスエズ運河通航の再開を求めた。
カナダの外務大臣であったレスター・B・ピアソンがこの問題の解決に尽力し、国連憲章に規定された強制措置とは異なり関係国の同意を持って展開する国連主導の軍隊の考えを持ち込んだ。
これは受け入れられ、11月4日から7日にかけての総会決議998、1000、1001により、第1次国際連合緊急軍(First United Nations Emergency Force:UNEF1)が設立されることとなった。
11月8日には停戦が得られ、11月14日にはエジプトの合意が得られたことから、11月15日よりUNEF1の展開が開始された。UNEF1は、
①総会または安保理の直接の統制のもとに置かれること、
②5大国以外の国家が提供する軍隊等から構成されること(最大人員規模は6000人であった)、
③派遣先の同意を要すること、
④エジプト領内に駐留し、その地域の平穏を保つことなどをその職務にすること、
⑤隊員の給与等については提供国が負担し、その他の一切の経費は国連が通常予算の枠内で賄うこととされた。
1957年3月に展開されたUNEF1は、監視およびパトロールを通じて休戦協定順守の確保にあたり、中東地域の安定と平穏化に一定の貢献をした。
エジプト・イスラエルの関係が再び悪化した1967年5月16日にエジプトの要請により、任務を中止し撤退した。その後、1967年6月5日に第三次中東戦争が勃発している。
現代的な国連平和維持活動を形作ったピアソンは1957年にノーベル平和賞を受賞し「国連平和維持活動の父」と呼ばれる。
(3)筆者コメント
筆者は拙稿「反転攻勢に一定の成果で、米国がウクライナに停戦協議呼びかけか」(2023.9.4)で次のように指摘した。
「現時点でウクライナ、ロシアとも和平交渉の席につく気配は見られない。しかし、西側諸国の中にはウクライナ支援疲れが顕在化してきた」
「そのような中、ウクライナを支援している西側諸国のリーダーである米国が停戦協議の開始をウクライナに提案するという可能性が浮上してきた」
そこで、筆者は、ウクライナは現在展開している反転攻勢で、できるだけの領土を奪還し、そのラインを停戦ラインとして、停戦協議を開始すべきであると述べた。
なぜなら、NATO(北大西洋条約機構)軍が参戦しない限り、戦争の長期化はウクライナにとって不利であるからである。
また、筆者は、米国と中国がそれぞれウクライナとロシアに停戦協議を呼び掛けることを期待している。筆者は、中国が世界の仲介役として存在感を示してもいいと思っている。
さて、筆者は、ロシアとウクライナの間で停戦が成立したら、国連は、停戦ラインに平和維持部隊を派遣すべきであると思っている。
安保理で決議できなければ、上記の第1次国連緊急軍のように、緊急特別総会で決議すればいい。
この国連平和維持部隊へは日本も積極的に要員を派遣すべきであると筆者は考えている。
4.第11回緊急特別会期で採択された各決議
(1)第11回緊急特別会期の開催
2022年2月24日、ロシア軍はウクライナへの侵攻を開始した。これに対しウクライナのゼレンスキー大統領は徹底抗戦を表明し、両国は事実上の戦争状態へと突入した。
この事態に対し米国とアルバニアはロシアによるウクライナ侵攻の非難と、即時撤退を要求する決議案を安保理に提出し、2月25日に採決が行われたが当事国かつ議長であるロシアが拒否権を行使したため採択されなかった。
これを受け、米国とアルバニアが緊急特別会期の開催を安保理に要請した。安保理は27日に採決を行った。
米欧など計11か国が賛成、ロシアが反対、中国とインドおよびアラブ首長国連邦(UAE)が棄権した。
緊急特別会期の開催要請に必要な9か国を超える国が賛成したことにより、安保理は、事務総長に緊急特別会期の開催を要請した。
緊急特別会期は2月28日から開催された。緊急特別会期の議題は「ロシアのウクライナに対する侵攻」とされた。
(2)第11回緊急特別会期における各決議の内容
ア.第1回総会決議(ES-11/1):ウクライナに対する侵略(Aggression against Ukraine)
2022年3月2日、国連は緊急特別総会を開催し、ロシアに対して軍事行動の即時停止を求める決議案を141か国の圧倒的賛成多数で採択した。
193の国連加盟国のうち、反対票を投じたのはベラルーシ、北朝鮮、エリトリア、ロシア、シリアの5か国のみで、棄権は35か国だった。
決議(ES-11/1)の中で、ロシアに対して、ウクライナに対する武力行使をただちに停止し、国際的に承認された国境のウクライナ領内から、ただちに完全かつ無条件に全ての軍を撤退させること、およびウクライナのドネツク州およびルハンスク州の特定地域の地位に関する決定を即時かつ無条件で撤回することを要求することが明記されている。
国連のアントニオ・グテーレス事務総長は「国連総会のメッセージは強力で明確だ。ウクライナでの戦闘行為を今すぐやめろ。銃声を今すぐ静めよ。対話と外交への扉を今すぐ開け」とロシアに呼び掛けた。
イ.第2回総会決議(ES-11/2):ウクライナに対する侵略の人道的影響(Humanitarian consequences of the aggression against Ukraine)
ウクライナに軍事侵攻したロシア軍は、子供を抱えながら退避する婦女子を情け容赦なく砲撃し、病院や学校を手加減せずに無差別爆撃するなど、その非人道的行為が露になった。
2022年3月23日、ウクライナからは「ウクライナに対する侵略がもたらした人道的影響」(A/ES-11/L.2)、南アフリカからは「ウクライナにおける紛争による人道的状況」(A/ES-11/L.3)という2つの相対する決議案が提出された。
3月24日、緊急特別総会は、ウクライナなどが提案した「ウクライナに対する侵略がもたらした人道的影響」を採択した。
193加盟国のうち140か国が賛成する一方、ロシア、シリア、北朝鮮、エリトリア、ベラルーシの5か国が反対し、中国を含む38か国が棄権した。
決議(ES-11/2)では、民間人やインフラへの攻撃に遺憾の意を示し、増える難民への重大な懸念を表明した。
また第1回決議(ES-11/1)の完全な履行を改めて要請し、人道支援者やジャーナリスト、脆弱な状況にある人々を含む民間人の完全なる保護などを求めた。
ウ.第3回決議(ES-11/3):人権理事会におけるロシアの理事国資格の停止( Suspension of the rights of membership of the Russian Federation in the Human Rights Council)
2022年4月1日、ブチャの虐殺のビデオ映像が公開され、虐殺にロシア軍が関与していることが判明した。
4月4日、米国の国連大使リンダ・トマス=グリーンフィールドは、ブチャの虐殺に言及し、米国は国際連合人権理事会からのロシアの除名を求めると表明した。
4月7日、緊急特別総会で、国連人権理事会におけるロシアの理事国資格を停止する決議を採択した。
賛成は日米欧など93か国、反対はロシアや中国、北朝鮮など24か国で、賛成が採択に必要な投票の3分の2を超えた。
投票数には含まれない棄権はインドやブラジルなど58か国だった。
国連人権理事会の理事国の資格が停止されるのは、2011年に反政府勢力を武力で弾圧していたカダフィ政権下のリビアが停止されて以来、2例目である。
ロシアの任期は2023年までだったが、採決結果を予想し、ロシアは採決日前に国際連合人権理事会から脱退したと表明した。
英国のBBCは今年9月27日、2022年4月に国連人権理事会から事実上追放されたロシアが、同理事会への復帰を模索していると報じた。
投票には国連総会メンバーである全193か国が参加する。
国連加盟国の外交官たちによると、ロシアは積極的なキャンペーンを展開し、ロシアに投票する見返りとして小国に穀物や武器の提供を提案しているという。
そのため、ロシアが人権理事会に復帰する可能性は十分あると、外交官らは指摘していると報じている。
エ.第4回決議(ES-11/4): ウクライナの領土保全:国連憲章の原則を守ること(Territorial integrity of Ukraine: defending the principles of the Charter of the United Nations)
2022年9月23日から27日まで、ロシアはウクライナ4州の併合に関する住民投票を行った。
この投票結果を受けて、9月30日にロシアはウクライナ4州の併合を宣言、布告した。
10月12日、緊急特別総会で、ロシアによるウクライナ4州での住民投票と併合は国際法の下で無効であるとする第4回決議(ES-11/4)を採択した。
決議は賛成143か国、反対5か国、棄権35か国の圧倒的な賛成多数で採択され、ロシアの即時撤退を求めた第1回決議(ES-11/1)より賛成票が多い。
決議(ES-11/4)では、「ロシア連邦に対し、ウクライナのドネツィク、ヘルソン、ルハンシクおよびザポリージャ地方の特定地域の地位に関する2022年2月21日および9月29日の決定は、ウクライナの領土保全および主権の侵害であり、国際連合憲章の原則に矛盾するため、即時かつ無条件に撤回し、その軍事力のすべてをウクライナ領の、その国際的に認められた国境内から即時、完全かつ無条件に撤退することを要求する」と明記している。
オ.第5回決議(ES-11/5):ウクライナに対する侵略への救済と補償の推進(Furtherance of remedy and reparation for aggression against Ukraine)
11月14日、緊急特別総会は、ロシアがすべての軍事力をウクライナ領内からただちに完全かつ無条件に撤退させることと、ロシアは、ウクライナへの侵略によって生じたウクライナの損害に対する賠償を含め、その国際的に不当な行為のすべての法的責任を負わなければならないことを認めるとする第5回決議(ES-11/5)を採択した。
193加盟国のうち94か国が賛成する一方、ロシア、ベラルーシ、北朝鮮、シリア、中国、中央アフリカ、エジプト、イラン、マリなどの15か国が反対し、ブラジルを含む73か国が棄権した。
カ.第6回決議(ES-11/6):ウクライナにおける包括的、公正かつ恒久的な平和の基礎となる国際連合憲章の原則(Principles of the Charter of the United Nations underlying acomprehensive, just and lasting peace in Ukraine)
ロシアがウクライナへの軍事侵攻を始めて1年となるのに合わせ、緊急特別総会は、ロシア軍の即時撤退とウクライナでの永続的な平和などを求める決議を採決した。
欧米や日本など141か国が賛成し、ロシア、ベラルーシ、北朝鮮、シリア、エリトリア、マリ、ニカラグアの7か国が反対し、中国を含む32か国が棄権した。
決議では、「武力による威嚇や武力行使による領土の獲得は合法と認められない」とした上で、「国連憲章の原則に基づいてウクライナにおける永続的な平和が可能な限り早期に実現される必要がある」とし、そしてロシアに対して、「ウクライナ領土から即時、完全かつ無条件に全軍を撤退させることを改めて要求し、かつ敵対行為の停止とウクライナの重要インフラ、学校や病院などの民間施設への攻撃の停止」などを求めた。
(3)各決議の投票結果の分析
ア.全決議の投票結果
全決議の投票結果は図表1「全決議の投票結果」のとおりである。
図表1「全決議の投票結果」
イ.投票動向分析
・すべての決議案に反対した国
ロシア、ベラルーシ、北朝鮮、シリアの4か国
・すべての決議案に賛成した国
日本、韓国、全NATO加盟国(31か国)を含む76か国
・中国は、第3決議案および第6決議案に反対、他はすべて棄権した。
傾向としては単なる非難決議には棄権しているが、資格停止や賠償を求めるなど実体を伴う決議には反対している。
・インドは、すべての決議案に棄権している。
・すべての加盟国(193か国)が賛成または反対の投票をした場合、決議案の採択に必要な2/3は、129か国となる。
ウ.「ロシアの安保理常任理事国の資格を停止する決議案」の投票動向の予測
ロシアの人権理事会の理事国資格を停止する第3回決議(ES-11/3)の場合、賛成が93か国、反対が24か国であった。
「ロシアの安保理常任理事国の資格を停止する決議案」に賛成する国が、これとほぼ同数の90か国と見積もれば、反対する国は45か国以下でなければ決議案は採択されない。
第3回決議(ES-11/3)で棄権した国は58か国であったが、この半数の29か国が反対に回れば、「ロシアの安保理常任理事国の資格を停止する決議案」は否決されてしまう。
同決議案を採択させるためには、相当熾烈なロビー活動が不可欠となると筆者はみている。
おわりに
筆者は、日本政府は、拒否権という関門に阻まれてなかなか結果の出ない国連安保理改革に取り組むだけでなく、『平和のための結集決議』に基づく緊急特別会期の総会をもっと活用すべきだと考えている。
国連憲章は、総会を構成する国の3分の2の多数で改正案を採択する通常の改正手続(第108条)のほか、憲章の規定を再審議するための全体会議を開催し、全体会議において3分の2の多数で改正案を採択する方法(第109条)の2通りの改正手続が規定されている。
いずれの場合も、採択された改正案が、国連加盟国の3分の2の多数によって、それぞれの国の憲法上の手続に従って批准されたときに、憲章の改正は効力を生じる。
そして、この批准国の中には、すべての常任理事国が含まれていなければならない。
したがって、国連憲章の改正の際も、常任理事国は拒否権を行使することができる。
他方、『平和のための結集決議』に基づく緊急特別会期は、常任理事国、非常任理事国の別なく9か国の賛成を得た安全保障理事会の要請によって開催できる。
そして、出席しかつ投票する加盟国(賛成票または反対票を投じた加盟国)の3分の2の賛成多数によって決議案は採択される。
さて、日本政府は、ロシアの常任理事国の地位を剥奪するために、現在、休会中の第11回緊急特別会期において、「ロシアの安保理常任理事国の資格を停止する」決議案の共同提案国となり、緊急特別総会の再開を総会議長に要請するべきあると筆者は考える。
緊急特別総会での表決は、武力によらない民主主義陣営と専制主義陣営の対決となる。
民主主義陣営は負けるわけにいかない。
日本は民主主義国の仲間と連携して、強力なロビー活動を展開し、第3回決議で棄権した国々を賛成側に引き込むなど必勝態勢を構築しなければならない。
同決議案が採択されれば、法的拘束力はないとはいえロシアに相当のプレッシャーを与えることができる。
そして、2022年4月の「ロシアの人権理事会の理事国資格を停止する決議(ES-11)」の時と同じように、ロシアは自ら安保理からの脱退を表明するかもしれない。
あるいは、同決議案が採択されれば、国際社会から嫌われかつ孤立した自国の立場を知ったロシア国民がプーチン大統領の退陣を要求するかもしれない。
参考文献・参考資料
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