やさしい法律講座v69「強盗事件の加害者への正当防衛と闇バイト摘発の匿流(トクリュウ)対策」
最近、物騒な凶悪事件(強盗・強盗致死事件)が多発している。窃盗⇒強盗⇒強盗致死傷と罪が重くなる。そして、常習の場合は刑が加重される。犯罪は決して、割の良い仕事ではない。日本社会も物騒になりつつあるが、社会生活経験の浅い若者が軽率に悪事に足を染めるケースが散見される。「一角千金の仕事は犯罪しかない、破滅への道、地獄への道」との認識や常識が働かない若者に多い。一般の社会人は額に汗をかきながら、ひたすらつらい仕事に歯を食いしばりながら生きている。世の中には「うまい話はない」事の常識を教えられずに成長したのであろう。投資詐欺に引っかかて騙される被害者になりやすいのである。
今回はそのような事件に関する報道記事の紹介と法律事務所の解説の報道記事を紹介する。
皇紀2684年10月24日
さいたま市桜区
法律研究者 田村 司
まず、法律の条文から解説する。
刑法の規定と盗犯等防止法の条文
刑法の規定
(窃盗)
第二百三十五条他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
(強盗)
第二百三十六条暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。
2前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
(強盗致死傷)
第二百四十条強盗が、人を負傷させたときは無期又は六年以上の懲役に処し、死亡させたときは死刑又は無期懲役に処する。
(逮捕及び監禁)
第二百二十条不法に人を逮捕し、又は監禁した者は、三月以上七年以下の懲役に処する。
盗犯等防止法(盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律)
(第1条)盗犯(窃盗または強盗)に対する正当防衛をより広く認めるための規定である。
次の防衛行為を実行する際に、自他の生命、身体または貞操に対する現在の危険があり、それを排除するために盗犯犯人を殺傷した場合も、正当防衛として罪に問わないとするものである。
現場において、盗犯を防止もしくは制圧し、盗犯の現行犯人から盗んだ物を奪い返し[注釈 1]、凶器を携行しもしくは「門戸牆壁等を踰越損壊し又は鎖鑰を開き」して、「人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若は艦船に侵入」する者を阻止し、または住居侵入罪もしくは不退去罪を犯している者を排除しようとする際。
また、上掲の防衛行為に出た場合において、自他の生命、身体または貞操に対する現在の危険がなく、または危険を排除するために必要でなかったとしても、恐怖、驚愕、興奮または狼狽などに陥って盗犯犯人を殺傷した場合にはやはり罪に問わないとするものである。
(第2条)凶器携行、複数人での犯行、「門戸牆壁等を踰越損壊し又は鎖鑰を開き人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若は艦船に侵入」または夜間におけるこれらへの侵入と言った、悪質な窃盗または強盗(これらの未遂犯を含む)を常習として行った場合の加重罰則の規定である。「常習」については裁判官の判断(および判例)による。窃盗の場合は3年以上の有期懲役、強盗の場合は7年以上の有期懲役に刑が加重される。
(第3条)窃盗または強盗犯人(未遂犯を含む)につき、当該犯罪行為の以前10年間に3回以上、窃盗または強盗の罪(他の犯罪との併合罪を含む)を犯しよって6月以上の懲役の刑を執行された(恩赦その他により執行が免除された場合を含む)者について、必要的に刑を加重すべき事を定めている。第2条と同様の刑となる。
(第4条)強盗致傷罪、強盗・不同意性交等罪の常習犯への加重罰則の規定である。刑が無期または10年以上の懲役に加重される。
報道記事の紹介
千葉・市川市の女性連れ去り強盗事件、暗証番号狙いか 首都圏連続強盗と関連性
2024/10/21 15:16
首都圏で相次ぐ強盗のうち、千葉県市川市の住宅で女性(50)が一時行方不明となった事件で、軽乗用車などの他にキャッシュカードも奪われていたことが21日、捜査関係者への取材で分かった。県警は、女性を連れ去って暗証番号を言わせ、現金を引き出したとみて、事件に関わった疑いで逮捕した男2人の役割を調べる。
事件が起きたとみられるのは、17日午前2時前後。県警や捜査関係者によると、複数の侵入者が1人で就寝していた女性を連れ去り、車や携帯電話と共に奪ったカードを、何者かが使ったとみられる。
逮捕された2人のうち、強盗致傷などの疑いが持たれている高梨謙吾容疑者(21)は18日未明、神奈川県内の警察署に現れ、関与を申し出た。千葉県警の捜査員が17日夜、女性を埼玉県川越市の宿泊施設で保護した際、監禁容疑で藤井柊容疑者(26)を現行犯逮捕した。藤井容疑者の指紋は横浜市の強盗殺人事件の現場で検出された。
千葉 市川の強盗事件 暗証番号聞き出すため女性連れ去ったか
2024年10月20日 4時58分 事件
首都圏で相次いでいる一連の強盗事件のうち、今月17日、千葉県市川市の事件で一時、行方がわからなくなった住人の女性のキャッシュカードが事件後に使われて現金が引き出されていたことが捜査関係者への取材でわかりました。
逮捕された容疑者らが引き出したとみられ、警察は暗証番号を聞き出すため指示役の指示で女性を連れ去ったとみて調べています。
今月17日に千葉県市川市の住宅で起きた事件では、いずれも自称で横浜市旭区の内装工高梨謙吾容疑者(21)が強盗傷害の疑いで、住所、職業不詳の藤井柊容疑者(26)がこの家に住む女性を監禁した疑いで逮捕されています。
調べによりますと、2人を含む3人組が住宅に押し入り、車や携帯電話、キャッシュカードなどを奪ったとみられていますが、このカードを使ってコンビニのATMで現金を引き出していたことが捜査関係者への取材で新たにわかりました。指示役からの指示だった可能性があるということです。
警察は指示役が暗証番号を聞き出すため、女性の連れ去りを強行させた疑いもあるとみています。
また、捜査関係者によりますと、逮捕された高梨容疑者は千葉県白井市で起きた強盗傷害事件に、藤井容疑者は横浜市青葉区で起きた強盗殺人事件と千葉県船橋市で起きた強盗傷害事件にそれぞれ関わった疑いがあるということです。
警察は一連の事件との関連を詳しく調べています。
横浜、市川の現場付近で不審な訪問業者 「トクリュウ」による下見の可能性も 広域強盗事件
首都圏で相次ぐ強盗事件を巡り、横浜市青葉区の住宅で発生した強盗殺人事件の現場付近で数カ月前から、不審な業者の訪問が相次いで確認されていることが19日、捜査関係者などへの取材で分かった。実行役が重なる可能性もある千葉県市川市の強盗致傷事件の現場付近でも同様の目撃があり、神奈川、千葉両県警などの合同捜査本部は、「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)」による下見の可能性もあるとみて関連を慎重に調べている。
捜査関係者によると、住人の後藤寛治(ひろはる)さん(75)が殺害された横浜市の住宅周辺では9月上旬から今月中旬にかけて、「業者」と称する不審な人物の訪問や電話が17件確認されたという。それぞれ、不用品の回収や下水道の確認などと説明していた。
近くの女性(65)は1カ月ほど前、「何か直すところはないか」と20~30代くらいの男性の訪問を受けた。女性が断っても、男性は「中を見てみないと分からない」と食い下がったといい、社名や氏名は名乗らなかった。近くの親族の家にも不用品買い取り名目で男性が来たという。
強盗事件との関連は現時点では不明だが、合同捜査本部は大部分で社名を名乗らないなど不審点もあることから、慎重に捜査している。
市川事件で逮捕された男の指紋が横浜事件の現場で検出されるなど、両事件は実行役が重なっている可能性があるが、市川市でも事件前に同様の不審な訪問があった。
現場近くに住む農業の女性(69)は9月半ば、不用品回収をしているという20代くらいの男性の訪問を受けた。この男性も身分も明かしておらず、周辺でも同様の目撃があったという。(梶原龍、塚脇亮太、宮崎秀太)
横浜市の住宅強盗事件「指示役が場所を指示」宝田真月容疑者が供述 市川市の事件で逮捕の男の指紋も…“闇バイト”で複数事件に関与か
FNNプライムオンライン によるストーリー
首都圏で相次ぐ強盗のうち、神奈川・横浜市の住宅で男性が殺害された事件の実行役が、「指示役から場所は指示された」と供述していることが分かりました。
また一連の強盗では、実行役が複数の事件に関わっていることも分かってきました。
22歳の宝田真月容疑者は10月15日頃、仲間とともに横浜市青葉区の住宅で後藤寛治さん(75)の手と足を縛った上、暴行を加えて殺害し、現金20万円などを奪った疑いが持たれています。
警察は犯行に使われた車を押収していて、宝田容疑者は、「SNSのバイトに応募した」「指示役から場所は指示された」と供述しているということです。
現場からは、17日に千葉・市川市で起きた事件で逮捕された藤井柊容疑者(26)の指紋も見つかっているということです。
また、同じく市川市の事件で逮捕された高梨謙吾容疑者(21)は、16日に千葉・白井市で起きた事件への関与を認める供述をしていることも分かりました。
首都圏で相次ぐ強盗事件では、「闇バイト」に応募した実行役が、秘匿性の高い通信アプリで指示を受け、それぞれ複数の事件に関わっているとみられることも分かってきました。
「闇バイト嫌になった」千葉の強盗事件で自首の容疑者、別事件関与か
杉江隼2024年10月21日 5時40分
千葉県市川市で17日に男らが住宅に押し入り、住人の50代女性を連れ去った事件で、強盗致傷などの容疑で逮捕された自称横浜市旭区の内装工、高梨謙吾容疑者(21)が、同県白井市で16日未明に起きた強盗致傷事件への関与もほのめかしていることが、捜査関係者への取材でわかった。
高梨容疑者は18日未明、神奈川県内の警察署に自首した。捜査関係者によると、調べに対し、「闇バイトが嫌になった」という趣旨の供述をしているという。県警は同容疑者の白井市の事件への関与についても、裏付け捜査を進めている。
また、市川市の事件の現場からは、3人分の足跡が検出されていたことも判明した。この事件で千葉県警は17日、埼玉県川越市の宿泊施設で連れ去られた女性と一緒にいた住所・職業不詳の藤井柊(しゅう)容疑者(26)を監禁容疑で逮捕している。
事件では、複数の男らが住宅の窓ガラスを割って侵入。住人の女性に暴行を加えて粘着テープで縛るなどし、女性を連れ去った。室内は荒らされ、現金などが奪われていた。
藤井容疑者の指紋は今月、横浜市青葉区の住宅で起きた強盗殺人事件と、千葉県船橋市で起きた強盗致傷事件の現場からも検出されている。(杉江隼)
スマイリーキクチ 闇バイト事件に「〝物を運ぶ簡単な仕事〟で高額報酬なんか得られない」
東スポWEB によるストーリー
タレントのスマイリーキクチが21日、X(旧ツイッター)を更新。横浜強盗殺人事件に言及した。
横浜市で75歳の男性が殺害された事件で20代男が強盗殺人容疑で逮捕されているが、男はSNSでバイトを探し、指示役から指示を受けていたという。いわゆる〝闇バイト〟に応じていたというわけだ。
キクチは男が「ホワイト案件」という書き込みから指示役とつながったとする毎日新聞の記事を引用。「まともなバイトで〝ホワイト案件〟とは表現はしない。〝物を運ぶ簡単な仕事〟で高額報酬なんか得られない」と指摘した。
続けて、「普通ならわかる、この〝普通〟がわからない人物を犯罪の手下にする。この感覚なら何を言っても従うと。だから『やめたらお前や家族を殺す』と脅し文句を信じる」と分析。闇バイトでは指示役が実行役に身分証明書の提出を求めて個人情報を把握し、その情報を武器にして実行役を脅す手口が多い。
キクチは「怖いと思ったら #9110 に助けを求めて」と警察相談専用電話の利用を呼び掛けた。
強盗に入られたら、どこまで反撃していい? 94年前にできた「盗犯等防止法」が定める正当防衛の基準
弁護士ドットコムニュース によるストーリー
闇バイトなどを実行役に使った強盗事件が相次いでいる。もし強盗に押し入られた場合、私たちにはどこまでの反撃、防御ができるのか、気になるところだ。
刑法の特則である「盗犯等防止法」は、被害者が現在の危険を排除するためであれば、強盗や窃盗などの不法侵入者を殺しても罪に問わないと規定している。
条文だけみれば「斬り捨て御免」のバイオレンス感漂う法律だが、なぜこんな特別法が生まれたのか。そして実際の事件ではどのように運用されているのだろうか。(ジャーナリスト・角谷正樹)
●東池袋の強盗返り討ち事件でも盗犯等防止法を適用
強盗が押し入った先で被害者の返り討ちに遭って死亡する事件は、最近では昨年(2023年)3月に東京で起きている。
東京都豊島区東池袋のマンションにある会社事務所兼社員寮に5人の男が点検業者を装って押し入り、経営者の40代中国人男性と30代女性の手足を縛り、現金約110万円とノートパソコン5台などを奪った。その際、強盗犯の1人でモンゴル国籍の20代の男が中国人経営者から反撃され、はさみで首を複数回刺されて死亡した。
警視庁は昨年12月、強盗を死亡させた中国人経営者について、殺人容疑の上、盗犯等防止法に基づく正当防衛として不起訴にするべきだとの付帯意見をつけて書類送検している。
●緊急立法のきっかけとなった「説教強盗」
盗犯等防止法(盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律)は、1930(昭和5)年に帝国議会に急きょ立案され、同年成立・施行された。制定の目的は、当時世間を騒がせた「説教強盗」などの強盗事件続発による社会不安に対処することにあった。
「説教強盗」こと妻木松吉は、1926(大正15)年から4年間にわたって東京周辺を荒らし回り、1929(昭和4)年に逮捕されるまで65件の強盗と30件の窃盗を繰り返した。
押し入った先で金品を奪った後、たばこを吸いながら被害者に「お宅の戸締まりは弱い」「犬をお飼いなさい」などと防犯の心得を説く大胆不敵な犯行で恐れられ、「説教二世」「説教三世」といった模倣犯まで出現。新聞で連日大きく報じられ、犯人逮捕につながる情報には懸賞金もかけられた。
礫川全次著「サンカと説教強盗」によると、「説教強盗」の命名は、当時この事件の報道で活躍した朝日新聞記者・三浦守によるものという。
三浦は事件の取材中、ある刑事が「説教強盗はサンカではないのか」と漏らしたのを聞く。サンカとは、かつて山奥や川原などを漂泊しながら生活を送っていた人々のことで、警察用語では「山窩」と書き、野盗集団のようなニュアンスでも使われていた。
実際には妻木は左官工で、サンカ出身ではなかったようだが、刑事のひと言がきっかけとなって三浦はサンカに興味を抱き、のちにサンカ小説の第一人者・三角寛として知られるようになる。
妻木は1929(昭和4)年2月、侵入先に残した指紋が手がかりとなって逮捕され、無期懲役刑に処せられたが、1947(昭和22)年に仮釈放で出所。その後は各地で防犯に関する講演をしていたというから、根っからの説教好きだったのだろうか。1989(平成元)年に87歳で死去している。
●正当防衛の成立要件を緩和
昭和初期の強盗事件多発をきっかけとして制定された盗犯等防止法。
その1条では刑法36条の特例として、強盗や窃盗に対する被害者側の正当防衛の成立範囲を拡大している。
1条1項は、
(1)盗犯を防止しようとするとき、または盗品を取り戻そうとするとき
(2)凶器を持ったり、門戸や塀を乗り越えたり壊したり、鍵や鎖を開けたりして人の住居などに侵入する者を防止しようとするとき
(3)ゆえなく人の住居などに侵入した者や、要求を受けても人の住居などから退去しない者を排斥しようとするとき
−の三つの場合に、自己または他人の生命、身体、貞操に対する現在の危険を排除するために犯人を殺傷したときは罰しないとしている。
さらに1条2項では、上記の三つの場合には、自己または他人の生命、身体、貞操に対する現在の危険がなくても、行為者が恐怖,驚愕(きょうがく)、興奮、ろうばいによって現場で犯人を殺傷したときは罰しないと定めている。
●実際の事件ではどう判断しているのか?
実際の事件への適用例はどうか。過去の報道をもとに確認してみたい。
水戸地検は2004年1月、水戸市内の土産物店で盗みに入ったとされる男性を取り押さえる際に首を圧迫して死亡させたとして重過失致死容疑で書類送検された元同店会長の男性について、盗犯等防止法に基づき、不起訴処分にした。<朝日新聞2004年1月7日など>
また、2002年3月、大阪市住吉区のマンションに窃盗目的で侵入したとみられる無職男を包丁で刺殺したとして殺人容疑で送検された会社経営者の男性について、殺意を否認したことから大阪地裁は傷害致死容疑に切り替えて捜査をしてきたが、同年5月、盗犯等防止法に基づき不起訴処分としている。<産経新聞2002年5月2日など>
以上は不起訴処分となった事例だが、無罪判決が出た事例もある。
福岡市で1999年7月、元会社員男性が自宅に押しかけてきた知人の首を絞め死亡させたとして殺人罪に問われた事件で、福岡地裁は2000年3月、無罪判決を言い渡した。
裁判長は「深夜に突然自宅に侵入され、蹴られて左目が見えなくなった被告が恐怖を感じ、慌てたのは当然」とし、さらに「大柄で体格差のある被害者から極めて強度の暴行を一方的に受け、被害者を押さえ続けなければ反撃される恐れがあった。やむを得ない行為だった」とし、盗犯等防止法の適用を認め、正当防衛が成立するとした。<毎日新聞2000年3月23日など>
●条文にない「相当性」の要件
一方、盗犯等防止法に基づく正当防衛を認めなかった判例もある。
中学生7人から強盗目的で暴行を受けた高校生が、持っていたナイフで中学生の1人の胸を刺し失血死させた事件で、最高裁は1994(平成6)年6月、盗犯等防止法1条1項の正当防衛が成立するための条件として、次のように判示した。
「当該行為が形式的に規定上の要件を満たすだけでなく、現在の危険を排除する手段として相当性を有するものであることが必要」
「ここにいう相当性とは、同条項が刑法三六条一項と異なり、 防衛の目的を生命、身体、貞操に対する危険の排除に限定し、また、現在の危険を 排除するための殺傷を法一条一項各号に規定する場合にされたものに限定するとともに、それが『已ムコトヲ得サルニ出テタル行為』であることを要件としていないことにかんがみると、刑法36条1項における侵害に対する防衛手段としての相当性よりも緩やかなものを意味すると解するのが相当である」
この最高裁決定では、中学生たちの暴行がメリケンサック以外の凶器を用いておらず、生命にまで危険を及ぼすようなものでなかったのに、高校生はナイフでいきなり中学生の胸を刺して死亡させたと指摘。
高校生の反撃行為を「身体に対する現在の危険を排除する手段としては、過剰なものであって、相当性を欠く」とし、盗犯等防止法に基づく正当防衛の成立を否定し、過剰防衛の成立を認めた原判断は正当との判断を示した(最高裁平成6年6月30日決定)。
●盗犯等防止法は今の日本社会に合っているか
昭和初期の強盗事件多発に対処するため制定された盗犯等防止法は、今の社会状況に照らして適切なものだろうか。
警察庁の集計によると、刑法犯の認知件数は2002(平成14)年をピークとして、2003(平成15)年から2021(令和3)年まで一貫して減少し続けてきた。ところが戦後最少となった2021年からは2年連続で増加し、2023(令和5年)は70万3351件と、前年比17.0%も増加している。治安は再び悪化の兆しを見せているのだ。
そんな中、いま世間を騒がせているのは、闇バイトなどを実行役に使った「トクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)」による強盗事件や特殊詐欺事件の続発だ。
こうした事件では、実行役はSNSなどを通じたあいまいな文言での募集にアルバイトのつもりで応募し、指示役に身元を知られた上で脅迫されて不本意ながら犯行に加わっている場合もある。そのようなケースで、強盗の実行役が侵入先で返り討ちに遭っても殺され損というのでは、いかに強盗犯に非があると言っても、ちょっと酷な気がする。
盗犯防止法には、1条の正当防衛の規定以外にも考えるべき課題がある。
2〜4条では常習・累犯者に対する刑の加重を定めており、3条では、常習として窃盗や強盗、またはその未遂罪を犯した者で、その行為前10年内に同様の罪で3回以上6ヵ月の懲役以上の刑の執行を受け、またはその執行の免除を得た者には、窃盗では懲役3年以上、強盗では懲役7年以上を科すとして、刑法より重罰化している。事件や裁判の取材でよく聞くのが、この常習累犯窃盗だ。
ただ、常習的に盗みを繰り返す人たちの中には、金がないとか物が欲しいといった動機もないのに盗みの衝動が抑えられないという人もいる。
「クレプトマニア(窃盗症)」と呼ばれ、現在では精神疾患の一種であることが明らかになっているが、裁判で心神喪失や心神耗弱が認められることはほとんどない。こうした精神疾患で盗みを繰り返すような人たちについては、盗犯等防止法の常習累犯窃盗罪を適用して刑務所で長期間服役させるより、適切な治療を受けさせるべきではないだろうか。
94年前にできた盗犯等防止法が今の日本の実情に合っているかどうか、いま一度、検証する必要がありそうだ。
立岩陽一郎氏「批判覚悟で言います」 トクリュウ型犯罪の首謀者摘発に必要な操作方法を指摘
デイリースポーツ によるストーリー
ジャーナリストの立岩陽一郎氏が22日、フジテレビ系「めざまし8」で、闇バイトによる犯罪が多発していることに「批判覚悟で言いますけど」と、トクリュウ型犯罪を無くすための独自の考えを述べた。
この日は、横浜市や千葉県などで起こった闇バイトによる強盗犯罪を取り上げた。実行犯は続々逮捕されているが、その首謀者までは摘発されていない。
これに立岩氏は「これ、私は批判覚悟で言いますけど」と切り出し「捜査のあり方、変わらなければいけない時代にきていると思う」と述べた。
「つまり、中学生、高校生が犯罪に関わるのは、首謀者がいるからですよ。頂上作戦で首謀者を徹底的に摘発していくしかない、負の連鎖を止めるには」と首謀者を逮捕しない限り、同じような犯罪は続いていくと指摘。そして「本当に批判覚悟で言いますけど、私は盗聴とおとり捜査。捜査員を潜入させて一網打尽にするという、アメリカなんかはやってますけど、盗聴は反対するかもしれないけど、限定的に」と、盗聴も必要と話した。
立岩氏は「関与している人がいるなら、そこに(盗聴は)限定的に、電子的捜査という言い方でいいと思うが、徹底して網をかけて、そのやり取りを網羅していくぐらい、捜査機関が把握できる状態にしないといけない」とも述べ「日本の警察は優秀ですが、地取りでまわってっていうのは…ぼくはそういう時代が来ていると思う」と、事件が起きた後に地取り捜査で犯人を捜しても、首謀者にはたどりつけないのではないかとの考えを述べていた。
【解説】“闇バイト”の指示役逮捕のワケ “匿名性高い”暗号資産の追跡も可能に サイバー捜査がポイントに?
FNNプライムオンライン によるストーリー
「闇バイト」による架空出品をめぐる事件で、指示役の男が逮捕されました。
暗号資産の追跡捜査で、異例の特定に至ったということです。
小林雄太容疑者(26)はフリマアプリ「メルカリ」に出品した架空の商品を他人のクレジットカードで不正に購入し、約275万円をだまし取った疑いが持たれています。
小林容疑者は実行役を「闇バイト」で集めた匿名・流動型犯罪グループの指示役とみられています。
小林容疑者は被害金を秘匿性が高く追跡が困難とされる暗号資産「モネロ」に交換していましたが、警察庁のサイバー特捜部などが日本で初めてモネロの追跡に成功したということです。
匿名・流動型犯罪グループ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
匿名・流動型犯罪グループは、2023年7月に警察庁が「SNSを通じて募集する闇バイトなど緩やかな結びつきで離合集散を繰り返す集団」と定義した組織犯罪の類型。略称は匿流(とくりゅう、トクリュウ)。
暴力団・準暴力団との関連も指摘される場合がある一方で、従来型の反社会的勢力のような統制がないため、勢いに任せて犯行に及ぶ傾向がみられる。
2024年3月には、2021‐2024年の3年間の累計で検挙された人数が1万人を超え、捜査が強化されている。
内訳は特殊詐欺が6170人、
薬物営利犯が2292人、
犯罪インフラ犯(旅券偽造、不法就労助長、地下銀行など)が1721人、
闇バイト関係(強盗や窃盗などの実行犯)が195人となっている。また、匿名・流動型犯罪グループの中には、資金の一部を暴力団に上納するなど暴力団と関係を持つ実態も認められるほか、暴力団構成員が匿名・流動型犯罪グループと共謀して犯罪を行っている事例もあり、このような集団の中には暴力団と匿名・流動型犯罪グループとの結節点の役割を果たす者が存在するとみられている。
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