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やさしい物理講座ⅴ118「光(電磁波)の発生方法(蘊蓄)」

ちょっと難しい命題に挑戦してみます。自然界は実に面白い。今回は簡単に解説を試みる。

     皇紀2684年8月28日
     さいたま市桜区
     理論物理研究者 田村 司

通常(普通)の物質(分子)は、自分から光を発して光ることはない。なぜならば、電子・陽子で電気的なバランスで成り立っている。外部からのエネルギーの吸収で分子から電子が飛び出す場合は電気的にバランスを欠くことになる。普通の物質は物質の外部からエネルギーをもらい(吸収)して、そして、その物質の特有の光(電磁波)を放出する。
そのイメージ図が次の図である。

観測されるスペクトル線は原子のエネルギー準位間の電子遷移により生じる。



その時の電磁波の振動数を人間が認知できる方法は波長で表現される場合もある。人間の見える範囲つまり可視光線は我々が通常「光」と称している範囲である。それが次の図である。光の本質は電磁波であり、それは振動数(周波数)でも表される。



プリズム分光による。太陽の光は核融合によってそのエネルギーが電磁波(光)となって伝播してくるのである。その光が地上の物質に吸収されてそのエネルギーをもらった分子が独自の色(電磁波の波長・振動)を放出するのである。
しかし、普通でない物質の中には自ら光を発する放射性物質というものがある。これについては後述する。

燃焼による化学反応の結果の光(電磁波)の発生

蝋燭(ろうそく)や焚火(たきび)などの燃やしたときにでる炎の光はこれも電磁波である。 

燃料(可燃物)と支燃物(典型例は空気中の酸素分子)との激しい酸化還元反応である。光や熱(電磁波)の発生を伴う。

燃焼に必要な支燃物は、空気中の燃焼であれば主に酸素分子がその役割を果たすが、適切な酸化剤と還元剤の組み合わせ(火薬類など)が存在する場合は、酸素分子の供給が無くても燃焼は起こる。

燃焼反応の開始には、熱エネルギーによる高温発生も必要とする。 燃料の酸化反応は通常は発熱反応として進行し、反応開始後は必要な熱エネルギーを継続的に得ることができる状態となる。つまり、簡単に言うと、燃焼を起こすには条件が必要であり、高温状態でないと酸化反応が起きない。であるから、通常は分子は安定な状態を保つのである。化学反応を起こすにはある程度のエネルギーを吸収しないと変化は起こらないのである。

 燃焼の化学反応機構は100以上の素反応を経るためかなり複雑である。各素反応は、開始反応、連鎖分岐反応、置換反応、停止反応の4つに分類される。水素ガスの場合

水素ガス(H2)の燃焼が最も単純なため(理由は、反応には水素と酸素の2種類の元素のみが関わるため)、まず水素の燃焼機構について記す。

開始反応
H₂ + M → H + H + M (水素分子の開裂)
O₂+ M → O + O + M (酸素分子の開裂)

このうち、結合エネルギーから、水素分子の開裂のほうが起こりやすい。

連鎖分岐反応ラジカルの数が増える反応で、開始反応以外のもの)

O₂ + H → OH + O

H₂ + O → OH + H

O₂+ OH → HO₂ + O

置換反応(ラジカルの個数は変わらず、種類が変わるもの)

H₂ + OH → H₂O + H

H₂+ HO₂→ H₂O + OH

停止反応(ラジカルの数が減少するもの)

H + OH + M → H₂O + M

H + H + M → H₂ + M

O + O + M → O₂ + M

高等学校までの化学授業では、水素ガスが燃焼する反応は、単に

2H₂ + O₂ → 2H₂O

と習うのであるが、これは反応前と反応後の物質収支を述べたに過ぎず、実際には上記のように複雑な過程を経て最終的には停止反応により反応が終息する。

普通でない物質(放射性物質)が出す光

 すべての物質は原子から構成される。
さらに原子は負電荷を持つ電子と正電荷をもつ原子核からなる。原子核の種類を核種という。
 核種によってはその量子力学的バランスの不釣り合いから、放射線(α線、β線、γ線など)を放出して放射性崩壊と呼ばれる崩壊現象を起こして他の核種に変化することがある。そのような放射線を放出して放射性崩壊を起こす性質のことを放射能 (radioactivity) と呼ぶ。

元素の同位体で放射能を持つものを「放射性同位体」と呼び、放射性同位体を含む物質を「放射性物質」と呼ぶ。

放射性崩壊(Radioactive decay)によって放出された粒子電磁波は高いエネルギーを持つ。このエネルギーは崩壊エネルギーと呼ばれる。崩壊エネルギーは最終的に熱エネルギーに変質する。

放射性物質は放射性崩壊を起こすことで不安定な原子核の構造から安定した原子核の構造に変化しようとするが、その際に粒子または電磁波の形で放出されるのが放射線である。放射線は、直接的あるいは間接的に、物質中の原子や分子を電離または励起させる(物質にエネルギーを与える

その放射線とは、高い運動エネルギーをもって流れる物質粒子アルファ線、ベータ線、中性子線、陽子線、重イオン線、中間子線などの粒子放射線)と高エネルギーの電磁波(ガンマ線とX線のような電磁放射線)の総称をいう。

放射線の種類

アルファ線、ベータ線、ガンマ線、中性子線

放射線の透過能力:上からそれぞれアルファ線、ベータ線、ガンマ線、中性子線の透過能力の図。アルファ線は紙1枚程度で遮蔽できる。ベータ線は厚さ数mmのアルミニウム板で防ぐことができる。ガンマ線は透過力が強く、コンクリートであれば50cm、鉛であっても10cmの厚みが必要になる。中性子線は挙動がほかの放射線と著しく異なり、鉛などの金属(原子番号の大きな元素)によって遮蔽することはできず、水やコンクリートの厚い壁に含まれる水素原子によって遮断できる。

放射線にはその発生機構や物理的性質によってさまざまなものが存在する。放射線は、その物理的性質から大まかに電磁放射線と粒子放射線に分けることができる。

電磁放射線 (electromagnetic radiation)

主な電磁放射線:ガンマ線(γ線)X線 電磁放射線は波長が非常に短い電磁波である。 公衆被曝で問題となるのは、この波長が極めて短いことで高い透過性をもった電磁放射線である。

粒子放射線 (particle radiation)

主な粒子放射線:アルファ線(α線)ベータ線(β線)電子線陽子線中性子線重粒子線など 粒子放射線は質量を持った粒子の運動によって生じるものである。その物理的実体としては、原子を構成している素粒子や原子核そのものであったりする。

X線の発生方法

X線は、波長が1 pm - 10 nm程度の電磁波である。発見者であるヴィルヘルム・レントゲンの名をとってレントゲン線と呼ばれることもある。電磁波であるが放射線の一種である。

電子の励起準位の差によるもの

 対陰極(陽極)として銅、モリブデン、タングステンなどの標的に加速した電子ビーム(30 keV程度)を当て原子の1s軌道の電子を弾き飛ばす、すると空になった1s軌道に、より外側の軌道(2p、3p軌道など)から電子が遷移してくる。この遷移によって放出される電磁波がX線(特性X線)である。この時、軌道のポテンシャルエネルギーの差で電磁波の波長が決まるので、どのような波長のX線でも出てくるわけではない。

加速電圧(管電圧)と電子流による電流(管電流)からくる消費電力の1 %程度だけがX線に転換される。つまり電子線の電力の99 %が対陰極の金属塊を熱するということになるため、実験上冷却が重要である。このような方法でX線を発生させる装置は、X線管(特にX線管の中で分析管と言われるものは特性X線を利用する)、クルックス管がある。

運動エネルギーによるもの

電子を対陰極で急激に制動させたり、磁場により運動方向を変更したりするなどの加速度運動をするとX線が放射され(制動放射)、制動X線と呼ばれる。特定のスペクトルを示さないので、白色X線と言われる。このような方法でX線を発生させる装置はX線管、放射光施設(SPring-8等)

熱によるもの

レーザーで高温のプラズマを発生させ、超短パルスのX線を発生させたり、X線レーザー発振の研究が行われている。高温のプラズマ、ブラックホールに落下し加熱されたガス

トライボルミネッセンス

セロハンテープのロールを一定の速さではがすことによるもの。トライボ(摩擦)ルミネッセンスの一種であるが、X線の発生については2008年現在の摩擦学の理論では十分な説明ができない。
1950年代には旧ソ連の科学者たちが、セロハンテープロールをある速さではがすとエネルギースペクトルのX線の領域でパルスが発生することを突き止めていた。
2008年にUCLA(米カリフォルニア大学ロサンゼルス校)のチームが、真空中でセロハンテープを秒速3 cmの速さで剥がすことでX線撮影が可能な強度のX線が発生したことを観測し、ネイチャー誌に発表した。

強誘電体の熱膨張・収縮によるもの

強誘電体に電流を流す事で熱膨張・収縮する時に生じる高電圧(80 kV)により低圧~真空容器内の残留ガスに起因する電子が加速され、微小試料に衝突して試料に含まれる元素特有の特性X線が発生する。百円ライターやガスコンロの着火に使用される圧電素子でも高電圧が発生してX線が発生する可能性がある。

スマホ・携帯電話などでは電波が使われている。

電波とは、電磁波のうち、比較的周波数の低いもの。日本の電波法などでは300万メガヘルツ以下のものと定義される


電波のイメージ

電波の発生メカニズム

導線に電流が流れると図1のような磁界が発生する


図1

導線を図2、図3のように曲げて電流を流すと次のような磁界の様相となる。

図2
図3
図2、図3をまとめた図4

これを集約すると次の図5である。

図5

そして、これを鉄にコイルを巻きつけると磁石(図5)になる。

図5


特殊な光・放射光

放射光は、シンクロトロン放射による電磁波である。
「光」とあるが、実際は、人工のものでは赤外線からX線、天然のものでは電波からγ線の範囲のものがあり、特に可視光に限定して呼ぶことは少ない。
また、電磁波が放射される現象は他にも多くあるが、シンクロトロン放射による電磁波に限り放射光と呼ぶ。

シンクロトロン放射は、高エネルギーの電子等の荷電粒子磁場中でローレンツ力により曲がるとき、電磁波を放射する現象である。「シンクロトロン(同期式円形加速器)」と名が付いているが成因を問わずこう呼ぶ。放射光と呼ぶのは人工のものであることが多い。


飛ばない光:近接場光(Near Filed Optics)

これは、我々が通常、目にする伝播光(飛ぶ光)ではなく、波長より小さい粒子が光を散乱するときに粒子の周りに幕のように附随する光のことです。

出典:『光とレーザー』p189

上の図のように、波長より小さい粒子に光をあてると、大抵の光は散乱されるが、ごく一部が粒子の大きさ程度の領域に接近場光として附随する。

この接近場光入射光の波長に依存せず粒子の大きさ程度に広がるという性質がある。これがとても重要です。通常の伝播光は、回折により、回折限界以上はビームを絞ることができない。

接近場光は使う光の波長よりも小さい粒子の大きさ程度にしか局在しない。そのひかりの波長より小さい局在性を使って面白いことが進められている。それについては次に記す。

接近場光の局在性の理由と原因

接近場光の局在性は光の電場により粒子が分極し、電気双極子になり、その双極子の電気力線が粒子の周りに張り付いていると考えられている。

接近場光の利用

走査型近接場光顕微鏡は、近接場光という特殊な光を利用した走査型の顕微鏡のことである。しばしば NSOM(Near field scanning optical microscopy)とも呼ばれる。

細いプローブで試料を走査するという点では走査型トンネル顕微鏡(STM)や原子間力顕微鏡(AFM)などと同様の仕組みであり、SNOM も走査型プローブ顕微鏡(SPM)の一種類といえる。

走査型近接場光顕微鏡 
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)

電気双極子とは

絶対値が等しい正電荷と負電荷とが非常に近い距離に存在して一対をなしているもの。電気二重極子あるいは(電気)ダイポールともいう。

 点電荷+q(空間的広がりが無限小で大きさがq)が点電荷-qの位置から測ってベクトルlの位置にあるとする。lが非常に小さいとき、この正負の点電荷は電気双極子をつくり、p=qlはこの電気双極子のモーメントとよばれる。lが非常に小さいとは、この正・負の電荷周囲の他の電荷との距離に比して、lが非常に小さいという意味である。

 電気双極子は本来は電磁気学における一つの概念であるが、物質は微視的には正・負の電荷をもつ微視的粒子が集まってできているので、とくに外から電界がかかっているときには、いろいろな微視的電気双極子が存在する。電磁気学によると、電気分極は電気双極子モーメントの単位体積当りの総和である。したがって、物質の誘電性は、微視的には、その中に存在する微視的電気双極子の行動として説明される。


参考文献・参考資料

電磁波 - Wikipedia

【図解】電磁波の種類や特徴を簡単に解説 | 電磁波対策おすすめ.jp (emf-protection.jp)

放射光 - Wikipedia

光 - Wikipedia

やさしい物理講座v15「『近接場光』という不思議な『飛ばない光』とは何か」|tsukasa_tamura (note.com)

X線 - Wikipedia

放射線 - Wikipedia

やさしい物理講座ⅴ116「光の2重性の考察」|tsukasa_tamura (note.com)

燃焼 - Wikipedia

放射能 - Wikipedia

電波 - Wikipedia

やさしい物理講座v15「『近接場光』という不思議な『飛ばない光』とは何か」|tsukasa_tamura (note.com)

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