政治(金融・経済)講座ⅴ968「ドル基軸通貨の終焉と日本の将来」
基軸通貨の地位を中国の「元」は狙っているのであるが、元の基軸通貨構想とは、中国が人民元を世界の基軸通貨として位置づけることを目指す構想である。
現在、世界の基軸通貨は米ドルであるが、中国は経済規模や国際的な影響力を高めることで、ドルに代わる通貨として人民元を推進している。しかし、人民元が基軸通貨になるには、まだ多くの課題がある。例えば、人民元の流動性や信用性の向上、市場での自由な価格決定、国際的な決済システムの整備などである。人民元の国際化に向けての課題は、主に以下の3つである。
人民元の流動性の向上:人民元の国際取引や投資を促進するためには、市場で自由に価格が決まる変動相場制への移行や、資本取引の自由化が必要です。しかし、中国政府は経済や金融の安定を重視しており、人民元の変動率や資本の流出入を厳しく管理している。これは、人民元の流動性を低下させる要因となっている。
人民元の信用性の向上:人民元を信頼できる通貨として認められるためには、中国の法制度や金融システムの透明性や健全性が必要である。しかし、中国では法治主義や司法独立が不十分であり、金融機関や企業の財務情報も信憑性に欠ける場合がある。これが、人民元の信用性を損なう要因となっている。
国際的な決済システムの整備:人民元を国際的に利用しやすくするためには、国際銀行間通信協会(SWIFT)などの決済システムへの参加や、人民元建て商品や金融商品の開発が必要である。しかし、中国は米国と対立することで、SWIFTから除外されるリスクがある。また、人民元建て商品や金融商品はまだ少なく、市場規模も小さいのである。これは、人民元の利便性を制限する要因となっている。以上が、人民元が基軸通貨になるために乗り越えなければならない課題である。
中国は、人民元の国際化を推進するために、以下のような取り組みをしている。
通貨スワップの締結:中国人民銀行は、人民元建てでの投資・貿易の拡大を目的として、33か国と通貨スワップを締結している。これにより、人民元の供給量や安定性が向上している。
資本市場の開放:中国は、外国人投資家が人民元建ての株式や債券に投資できる制度を拡大している。これにより、人民元の需要や流動性が高まっている。
デジタル人民元の開発:中国は、世界で初めて中央銀行デジタル通貨(CBDC)としてデジタル人民元を開発している。これにより、人民元の利便性や普及率が向上すると期待されている。
SDR構成通貨への参加:中国は、2016年に国際通貨基金(IMF)の特別引き出し権(SDR)の構成通貨に人民元が加わることを実現した。これにより、人民元の信用性や国際的な地位が高まっている。
以上が、中国が人民元の基軸通貨化に向けて行っている主な取り組みであるが、ドルの凋落の報道記事がでたので紹介する。米国債と米国経済を陰で支えている日本もドル基軸通貨と運命共同体であるのでそうならんことを願うのみである。
皇紀2683年3月29日
さいたま市桜区
政治研究者 田村 司
アメリカの銀行破綻はG7世界体制崩壊につながる ドルの凋落と金の復活、アジア、アフリカの復興を呼ぶ
的場 昭弘 によるストーリー • 1 時間前
2008年のリーマンショック以来となるアメリカの銀行の破綻が起きた。その後にアメリカの100以上の銀行の危機が伝えられ、なおかつそれがスイスのクレディ・スイスに波及し、破綻を引き起こし、今ではドイツ銀行も危機だと伝えられている。
人々は、これがリーマンショック以来の世界恐慌になるのではないかと、危惧している状況だ。もちろん、アメリカのバイデン大統領はすぐに信用不安を取り除く発言を行い、イエレン財務長官も不安の除去に躍起となっている。
さて、今回の出来事は次の点でリーマンショックとまったく違っている。それは、バブルの破綻といういわば自業自得の問題ではなく、その背景にアメリカのドルの価値低下と、アメリカの国債の信用低下が関連している点である。
ドル基軸体制の危機
信用不安の大きな理由は、アメリカという戦後経済を支えてきたドルを基軸とする世界システムが危機に瀕していることにある。
戦後経済体制は、1944年のブレトンウッズ体制で始まった。ドルを基軸通貨としたIMF(国際通貨基金)体制は、強い経済力をもつアメリカと圧倒的に多くの「金」を持つアメリカによる支配体制でもあった。
1国の通貨ではなく、どの国のものでもない客観的通貨を作ろうとするケインズ案は葬り去られ、アメリカという国家の通貨を基準とした国際通貨システムができあがったのだ。それは、当時のアメリカの圧倒的経済力からすれば当然のものであった。
人類の歴史は、獲得した富を貨幣によってどう維持し、発展させるかで悩んできた歴史といってよい。資本主義の根幹こそ、この貨幣の探求なのだが、その貨幣となるものの価値が安定していないのだ。結局、人類は歴史的に金や銀といった産出量が限られていて、世界中の誰もが認める金属を貨幣だと考えるしかなかった。
あるものが貨幣となるには、5つの貨幣の機能を充足しなければならない。
①頭の中だけで存在し、現実的価値の実体を持たなくてもいい観念的貨幣、つまり計算の単位としての価値尺度機能、
②流通を円滑にする流通手段としての機能、
③現実に存在し価値を体現している実体的貨幣、すなわち価値を蓄蔵する蓄蔵貨幣としての機能、
④国際決済において支払い手段として承認される機能、
⑤誰もが認める世界貨幣としての機能だ。これをすべて満たすものは、今の時代でもやはり金や銀しかないともいえる。
1971年、当時のアメリカのニクソン大統領がドルと金との兌換一時停止を宣言した「ニクソンショック」までは、ドルは金とのリンクをもっていたことで、間接的であるが、この5つの機能を持つことができた。世界中の誰もがドルを信頼し、いざというときにドルを金に変換すればいいので、安心してドルを使うことができた。
ドルは信用貨幣であり、一種の手形である。その意味でそれ自体に実体的価値を持っているのではない。国家による信用の裏付けが価値なのである。しかし、金にない利点もあった。それは金と違って経済成長に合わせてどんどん自由に発行できることで、貨幣不足を避けることができるという特徴だ。
ほころぶSWIFT体制
もちろん金に価値の実体があるといっても、それはその産出に必要な労働の費用にすぎず、金を価値として認める人々の信用がなければ意味がない。「猫に小判」という言葉にあるように、猫にとっては金であろうとドルであろうと無価値である。しかし、金はそれを生産する膨大なコストがかかることで、信用のみならず実際にも大きな価値を持っている点がドルのような通貨と異なっている。
だからこそ、絶大なる生産力を持つことで信用を獲得したアメリカのドルは、金に代替できる信用を勝ち得ることができたともいえる。価値尺度として、流通手段として、蓄蔵貨幣として、支払い手段として、世界貨幣として、アメリカという体制が世界経済の中心にある限り、あたかもドルは金のような役割を持つことができた。
しかし、国家というものは成長することもあれば、没落することもある。アメリカ経済はすでに世界経済を牛耳るレベルにはない。その実態を暴露したのが、2022年から始まった経済制裁のつまずきである。
アメリカはドルによる決済体制「SWIFT」を持つことで、すべての国の貿易にドルの使用を義務づけることができていた。だからこそ、この支払い体制からある国がはじかれると、その国は国際貿易決済が不可能となり、経済が立ちいかなくなる。アメリカはヘゲモニー(覇権)国家として、この方法を弱小国に多用してきた。
しかし、何度もその制裁の対象になったロシアや中国などが、このやり方にいつまでも我慢し続けるわけではなかったのだ。ウクライナ戦争に対するロシアへの制裁が功を奏さなかったのは、制裁慣れしたロシアがその抜け道をすでに見つけていたことにある。
もうずいぶん前から、ロシアや中国などは金の備蓄を始め、自国通貨の価値の安定を図り始めていた。そして、ドルによる多国間決済制度に代わるものとして2国間決済制度を導入し、国際貿易を維持することに成功する。
そしてBRICSという新興国の経済グループの制度を拡大し、中国の元を中心とした新しい多国間決済制度を模索し始めた。もちろん、その先には人民元でもない、新しいデジタル通貨というものも構想されている。
ロシア、中国が世界通貨をつくったら
かつて社会主義体制では「振替ルーブル」という決済制度があった。この制度は社会主義国で相互の互恵貿易を前提にしていて1国が豊かになることを避ける決済制度であり、帳簿上でお互いが黒字、赤字にならないように調節するメカニズムであった。ただ、この振替ルーブルは、IMF体制のドルより世界貨幣としての流通性がなかったことによって、最終的には崩壊してしまった。
ロシアや中国が元もしくはルーブルなどにより、新たな世界貨幣としての制度作りを始めたら、いったいどうなるだろうか。そうなるとドルの世界貨幣としての流通性は限定される。とりわけ、エネルギー資源や原料の多くがBRICSに賛同する諸国にあることで、ドルによる資源や原料の購入ができなくなるのだ。ペトロダラーという言葉は、アメリカが自国で刷った通貨で、石油資源を安く叩いて買うという制度であった。それが機能しなくなったらどうなるか。
もっといえば、すでに金融やサービスに特化している西側諸国は、農作物や工業製品をBRICSの諸国に大きく依存している。アメリカは財政赤字と貿易赤字を抱えながら、どんどんドルを乱発し、これらの諸国から製品を買っていたのだが、それができなくなるのだ。
こうして起こった現象が、世界貨幣であったドルの価値低下である。流通領域が狭まり、価値ある通貨として認められなくなれば、ドルは売られ、金に代わっていく。アメリカの国債を売っている中国などの国は、国債を売って得たドルを、金へ交換することで、ますますドルの価値は低下している。
では、なぜ金を求めるのかといえば、金にはとてつもない魅力があるためだ。それは、金の生産は容易ではなく大量に生産できないこと、また腐敗することもなく、また細かく分割することもできることで、これまでの産出した金が価値を失わず残っていることだ。
18世紀イタリアの経済学者フェルディナンド・ガリアーニは『貨幣論』の中で、金を「神の授けもの」といっているが、まさに人間が人工的に作れないという点でその名にふさわしいといえる。
もちろん今後も、金が通貨として流通することはもはやないだろう。すでに、1オンス(約28.35グラム)=2000ドル以上という時代を迎え、金は稀少であり、通貨として流通する可能性はない。しかし金が、ある通貨の準備金になる可能性は十分ある。だから、今多くの国が準備金としての金を追い求めているのだ。
「世界市場はただひとつの富である貨幣を求めて叫ぶ」
今回のアメリカの銀行システムの危機は、IMF体制の危機問題と関係している。マルクスは、恐慌が起こったときに多くの者が「金」を求めることをこう述べている。
「鹿が水辺を求めて鳴くように、世界市場はただひとつの富である貨幣を求めて叫ぶ」(拙著『超訳「資本論」』祥伝社新書、104ページ)。
確かに、今回の銀行破綻で求められているのはドルであり、金ではない。しかし、ドルが国際通貨として不安定であることがインフレを招き、そのインフレが利上げを呼び、その利上げが資金ショートと預金引き出しを導き出したのだとすれば、問題は簡単ではない。
インフレを避けるためにドルを強くすべく利上げをすれば、資金需要は高まり、銀行預金のショートは加速される。しかし利下げをすれば今度はインフレが加速し、早く通貨を使おうと銀行の預金ショートは進む。まさに王手飛車取り、トレードオフの関係だ。
今の危機を乗り越えるには、経済制裁を解除し、ドルから離れていった国々を元のドル決済の国に戻すしかない。とはいえ、アジアやアフリカ、ラテンアメリカ諸国にはこれまでの強いドルで何度も経済破綻をした国々が多く、ドルへの不信は大きい。復帰は簡単ではないだろう。もはやG7による世界経済支配の体制は終わりに近づきつつあることを理解したほうがいいのかもしれない。
過去最大“リーマン超え”米・中小銀行預金15兆円流出…バイデン大統領は沈静化に躍起
テレ朝news によるストーリー • 昨日 10:27
今月10日のアメリカ、シリコンバレー銀行の経営破綻に端を発し、世界の金融市場に広がった信用不安。
アメリカで2つの銀行が破綻した15日までの1週間に、中小規模の銀行全体で1200億ドル、日本円でおよそ15兆7000億円もの預金が流出したことが、FRB(連邦準備制度理事会)の統計で明らかになりました。
これは過去最大の流出額で、リーマンショックにつながるサブプライムローン問題が浮上した2007年3月の2倍を超える額です。
相次ぐ破綻で預金者の不安が高まり、預金を引き出して大手銀行などに移す動きが広がったためとみられます。
バイデン大統領は、沈静化に躍起です。
バイデン大統領:「事態が落ち着くまで少し時間がかかると思いますが、大混乱になるようなことは何もないでしょう。しかし、この件に関して不安を抱えていることは理解しています。中堅銀行は、生き残らなければなりません」
バイデン大統領は、銀行がさらに破綻するなど金融不安が続くと判断した場合、引き続き特例的な預金保護の措置を講じる考えを示しました。
(「グッド!モーニング」2023年3月27日放送分より)
今の金融不安はリーマンショックと何が違うのか シリコンバレー銀破綻、クレディ・スイス危機の本質
岩崎 博充 によるストーリー • 47 分前
この3月、世界はリーマンショック以来ともいえる「金融不安」に見舞われた。銀行の「流動性」が突然失われて現金不足となり、預金者の払い戻しに対応できなくなる銀行が現れたのだ。実際に、アメリカでは2行が相次いで破綻することになった。
しかし、今回の銀行破綻にはもうひとつの要素が潜んでいる。その背景に「Twitter」などの「SNS」が少なからず関係した、新しい時代の金融システム危機との見方がある。
中央銀行や財務省などの金融当局の素早い対応があったこともあり、現時点(3月27日)で表面的に金融市場は落ち着いたかのようにみえる。コロナバブルのツケが表面化したともいわれる今回の金融不安は、まだ氷山の一角なのかもしれない。欧米を襲った金融不安の背景と日本への影響を考える。
相次ぐ金融破綻の背景にSNS?
3月10日に起きたアメリカで第16位の中堅銀行「シリコンバレー銀行(以下、SVB)」の破綻から始まった金融機関の経営危機は、その後瞬く間に欧州にも飛び火し、世界的に金融不安が拡大してしまった。金融不安が表面化した順に簡単に紹介しておこう。
<シリコンバレー銀行>
シリコンバレー銀行=SVBファイナンシャル・グループの総資産は、2020年には1160億ドルだったのが、翌2021年末には2110億ドルに達している。わずか1年で急激に成長した銀行だが、その名が示すようにスタートアップ企業などベンチャーキャピタル向け融資を中心に急成長した銀行だ。今回、そのSVBがアメリカ史上2番目に大きな銀行破綻となった。
SVBの預金の90%近くは無保険状態であったと報道されているが、経営破綻の発端となったのは中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)の急激な利上げだといわれる。利上げによって、保有する債券の価格が急落し預金引き出しに対応するために、下落した債券の売却に追い込まれてしまう。
本来、売却してはいけない債券まで損切りして売却し、3月に入ってから債券売却による損失計上を発表、同時に損失を上回る増資の計画も明らかにした。SNSでは「深刻な経営危機」と数多くの投稿者が指摘し、その投稿にあおられた預金者たちが、一斉に預金を引き出しに動いたとされる。いわゆる「取り付け騒ぎ」が起きたのだ。破綻の前日には1日だけで実に420億ドル(日本円で5兆6000億円)の預金が引き出されたと報道されている。
この取り付け騒ぎによって、SVBは9億5800万ドル(約1300億円)の現金不足に陥り経営破綻することになった。引き出された預金額は全体の24%に上るとされている。SNSも絡まったわずか2日間の取り付け騒ぎで、流動性がストップして経営破綻した世界で最初の銀行といっていいかもしれない。周知のように、その後アメリカ財務省は預金保険を上回るものも含めて、預金全額を保証するというメッセージを出して事態は収まることになる。
暗号資産関連をメインとする銀行が破綻
<シグネチャー銀行>
シリコンバレー銀行の経営破綻から2日後には、暗号資産関連企業をメインの顧客としている「シグネチャー銀行」が経営破綻している。アメリカで3番目に大きな経営破綻となったのだが、「FDIC(連邦預金保険公社)」は、シグネチャー銀行のほぼすべての預金と一部の融資債権、全40支店が、「ニューヨーク・コミュニティー・バンコープ(NYCB)」の傘下銀行である「フラッグスター銀行」に資産買収されると発表している。
シグネチャー銀行の資産規模は、1103億6000万ドル(2022年12月末)。2090億ドル(同)のSVBとは大きな隔たりがあるが、ここでも預金保険を上回る預金を含めてすべて保証するとFDICは発表している。シグネチャー銀行が経営破綻した背景には、顧客に暗号資産関連企業が多かったために、規制当局が発した暗号資産に対する厳しいメッセージが原因ともいわれているが、管轄するニューヨーク州金融サービス局(NYDFS)は、破綻の原因を暗号資産とは無関係と答えている。とはいえ、シグネチャー銀行の取締役を務める元下院議員の、なぜ同行が閉鎖され、買収されたのか「不可解」というコメントをロイターなどが伝えている。今回の経営破綻では、金融マーケットが開くまでに、預金の全額保証や買収先まで決めてしまうという異例の素早さだったのだが、なぜここまで素早く対応する必要があったのか、また預金保険の上限(1人当たり25万ドル)を大きく超える預金に対しても保証する必要があったのか、そのあたりの疑問は今のところ明らかになっていない。
<クレディ・スイス銀行>
スイスの金融大手クレディ・スイスグループは、以前から経営危機の噂があった。そんな中でアメリカの金融不安が飛び火して、同行の預金流出が急速に進行。業績悪化も加わって株価は大きく下落。信用不安が世界中に広がるかと思われたのだが、スイスの金融当局は、アメリカ同様に救済に動き出す。結局、同じスイスの金融最大手の「UBS」が買収することになり、預金の大量流出=経営破綻を防ぐことに成功した。もっとも、その反面でクレディ・スイス銀行が発行している「AT1債」の保有者に対して、同債券が無価値になることをUBSが通知。世界中の金融機関に動揺が広がった。AT1債は、金融機関が自己資金を増強する際に使われるもので、2011年のリーマンショック以降、積極的に販売されてきた債券だ。今のところ、このAT1債を大量に保有している金融機関や投資家グループ等が破綻したという話は出ていないが、新たなリスクとして認識されるようになっている。
<ファースト・リパブリック銀行>
3月16日、アメリカの中堅地方銀行で破綻の恐れがあると懸念されていた「ファースト・リパブリック銀行」に対して、アメリカの大手11行が総額で300億ドル(約4兆円)を預金したと報道された。SVBやシグネチャー銀行の破綻が相次いでいたため、事前に預金という形で資金を供給したと考えられている。それだけ、銀行システムへの懸念が高まっている、といった見方をしたほうがいいのかもしれない。同行は、その前週に株価が70%近くも急落しており、預金を引き出されるターゲットにされるのではないかと危惧されていたが、大手銀行がタッグを組んで金融システムの安定化を目指した、と考えられている。株価が急落しているといえば、以前から経営基盤が脆弱と指摘されてきたドイツ銀行を筆頭に、欧州の大手銀行株は2月末と比較して3月24日時点で、軒並み20~27%の下落率となっている(日経電子版「欧州でも金融不安拡大 ドイツ銀行株、2月末比で3割下落」2023年3月25日配信より)。
リーマンショックとは異なる危機?
今回の銀行破綻や金融システムへの危機対応は、どうしても2008年に起きたリーマンショックと比較しがちだが、その違いは明確だ。リーマンショックは、デリバティブや金融工学を駆使したレバレッジド・ファイナンスが大きな危機に見舞われたが、今回は債券価格の下落という現物商品の危機が表面化しているものだ。
ただ、当時と大きく異なるのはSNSやフィンテックの発達で、危機が瞬間的に世界中に拡散してしまうことだ。まさにDX時代の金融不安であるということだ。原因となった要因をまとめてみると次のようになる。
1.FRBによる急激な金利引き上げによって、銀行が投資していた債券価格が急落したこと
2.金融不安が「SNS」の時代を迎えて、瞬時に世界中に拡散される時代になったこと
3.コロナ危機によって急成長した企業が、本来投資すべきではない資産に投資していたこと
4.一部にリセッション懸念など、金融不安に対する警戒感が蔓延していたこと
問題はこれからどうなるかだが、FRBによる金利引き上げ局面は今後も続きそうだ。インフレ懸念はいまだにおさまっていないために、もうしばらくは金利引き上げ、債券価格下落による金融機関の損失計上が続きそうだ。経営危機に直面する金融機関は、今後も出てくる可能性は極めて高い。
もっとも、今回のSVBやシグネチャー銀行の対応については、異例のスピードが目立った。預金保険を超える預金も含めて全額保護すると表明した財務省やFDICの対応は、逆に今回の金融不安騒動が深刻なものであることを示したともいえる。さらに、すべての金融機関を助けてしまうとモラルハザードの問題も出てくる。
財務省高官が「金融機関は救済されないが、預金者は保護される」「FDICの預金保険機構には1000億ドル(約130兆円)あまりの十二分な資金がある」と表明している――と、ブルームバーグ(「米財務省高官、SVBと同様の問題抱える金融機関は複数ある」2023年3月13日配信)は報道している。
未来の危機は未知数?
問題は今後、リーマンショック時のように「大きすぎて潰せない銀行」が複数出てきたようなケースだが、そのときには金融システムは一気に不安定になる。預金保険では救済できない「ノンバンク」が経営破綻した場合の問題もある。世界中の中央銀行が緩和政策を取り続けたために、その揺り返しがこれから襲ってくる可能性がある。
世界のあちこちで銀行の取り付け騒ぎが起こり、債券市場だけではなくて株式市場も暴落するシナリオを想定しておいたほうがいいかもしれない。今回の金融不安では表面化と同時に、金価格が1トロイオンス=2000ドルを瞬間的に超えたことでも、世界中の投資家が対応していることがわかる。
日本では金利が大きく上昇していないために、債券価格も大きくは下落していない。ただ、海外の金利高=債券価格下落の影響を受ける銀行や証券会社などの金融機関が出てくる可能性は否定できない。SVBにビジネスモデルが似ている金融機関や投資グループも少なくない。
かつての銀行の取り付け騒ぎは預金者が銀行の窓口に押し寄せて危機が発覚したが、デジタル化が進んだ現在ではネットで預金の引き出しが行われる。金融不安はある日突然表面化するということだ。SNSを見た預金者が一斉にネットで預金を引き出すのが現在の金融不安といっていい。われわれは、そんな時代に生きている現実を、まずは知ることが大切なのかもしれない。
参考文献・参考資料
アメリカの銀行破綻はG7世界体制崩壊につながる ドルの凋落と金の復活、アジア、アフリカの復興を呼ぶ (msn.com)
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