見出し画像

やさしい法律講座ⅴ20 副題 消滅時効

ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。よどみに浮ぶうたかたは、かつ消え、かつ結びて、久しくとゞまりたるためしなし。世中にある、人と栖(すみか)と、又かくのごとし。

(随筆した庵の広さが方丈(1丈・約3m)四方であったことから、鴨長明自ら、『方丈記』と名付けた。)

明治から続く民法は120年ぶりに改正されたが、我々の生活は法改正で変わるものでもないが、ある程度の制約はうけるのであろう。「流れに棹さす」改革であろう。

時代は「ゆく河の流れのように」変わりつつある。

最先端のAI(人工知能)の開発で、失業するのは法曹界とも言われている。そのような時代が到来している 。

スマホに「ヘイ! シリ―! 時効とは」と聞くと答えてくれる時代ですが、まだ、ブログ等の掲載記事が表示されるだけで、本質まではたどり着けず、自力で「思考」しなければならない。

時効の原則は「権利の上に眠るものは保護しない」と言われていた。

このような思考ができるかは、優秀なプログラマーによるアルゴリズムができたなら可能であろう。将棋でも名人に勝ちました。

しかしながら、今のところ、AIは、しばらく人間の思考能力には追い付かないであろうから、吾輩の「やさしい法律講座」シリーズは有益であろう。呵々。

                         2021.1.9

                        さいたま市桜区

                          田村 司

はじめに

消滅時効で大幅な改定は

1,主観的起算点

2,客観的起算点

3,「時効の中断」が「時効の更新」に変更

  「時効の停止」が「時効の完成猶予」に変更

4,除斥期間が消滅時効へ

1,主観的起算点とは

主観的起算点は、2020年4月の民法改正で新しく加わった概念である。
これは「債権者が債務者や権利の発生、履行期の到来などを認識した時点(権利を行使することができることを知った時点)」です。

民法140条には「初日不算入」という原則があり、日・週・月・年で時効期間を定めた場合、その期間の最初の日はカウントしないことになっています。

2,客観的起算点とは

客観的起算点は「債権者が法律上の障害なく権利行使できる状態となった時点(権利を行使することができる時点)」です。
返済期限が来てもお金を返してもらえなかったときにようやく、「法律上の障害なく、お金を返してほしいという権利を行使できる状態」になるのです。

この場合の消滅時効の起算点も初日不算入の原則でカウントが始まる。


結論から言えば、主観的起算点と客観的起算点は一致することが多く、消滅時効は実質的に10年から5年へと短縮されるケースが多くなると考えられます。

3,時効の更新の効果

消滅時効の更新とは,それまで進行してきた時効期間を一から更新させることができるという制度です。時効が更新されると,それまで進行してきた時効期間はリセットされます。

4,除斥期間と消滅時効

除斥期間は、権利を消滅させる期間であるという点で消滅時効に類似します。

但し、時効援用の要否や更新・完成猶予の有無、期間の起算点や遡及効の有無に差があります。

消滅時効と除斥期間の違い

除斥期間は、ある権利について法律が定めた存続期間である。権利を行使しないままにその期間が経過すると、その権利は法律上当然に消滅する。

除斥期間の目的は、権利関係を速やかに確定させることにある。

除斥期間は、時間の経過により権利が消滅するという点で消滅時効と類似する。 しかし、次のような点で消滅時効とは異なっている。



主要な違い         消滅時効      除斥期間

援用の要否(民145条)      必要        不要

更新・完成猶予 (旧法:中断)   有り       無し

起算点        権利行使し得るときから    権利発生のときから

遡及効(民144条)         有り        無し

5,消滅時効と除斥期間の判別

条文上、個々の権利ごとに定められている行使期間が、消滅時効期間と除斥期間のいずれであるかが問題となる。

立法者は「時効によって」という文言の有無によって決まるとしたが、現在の学説は、法文の形式にとらわれずに権利の性質や規定の趣旨から実質的に判断する。

たとえば、形成権は、その性質上、一方的な意思表示によってその内容を実現することができて更新を考える余地がないので、その期間制限の性質を除斥期間であると解するのが通説である。

また、請求権を1年などの短期の行使期間(民151条)にかからせる規定は権利関係の早期確定を図る趣旨であるから、その期間の性質は除斥期間であると解される(通説)。

他、短期の行使期間の規定、566条、637条、426条、600条、622条、644条の2などの期間制限は除斥期間と言われている。

6,不法行為による損害賠償請求の消滅時効

民法724条「不法行為による損害賠償の請求権は次に揚げる場合には、時効によって消滅する。

一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき

二 不法行為のときから二十年間行使しないとき

従来、「主観的起算点から3年、客観的起算点から20年」とされてきました。

後半の20年の方は「除斥期間」と言われており、時効の援用をしなくても成立し、時効のリセットなどもされない絶対的な期間として扱われてきました。

しかし改正後は、また、不法行為に基づく損害賠償請求権のうち、人の生命や身体の侵害によって生じた損害賠償請求権では、民法724条の2「主観的起算点から5年、客観的起算点から20年(時効)」となり、主観的起算点が3年から5年に伸びることになります。

「主観的起算点から3年、客観的起算点から20年(時効)」とされて、除斥期間が撤廃さ、以前は除籍期間とされた20年は消滅時効とされた

7,時効の存在理由

時効の存在理由として、

⑴、永続した事実状態の尊重

①一定の期間継続した事実状態が存在する場合、それを前提にさまざまな法律関係が形成されるため、そのような法律関係について一定の法律上の保護を与えようとするもの

②取引の安全の保護

⑵権利の上に眠る者を保護しない

たとえ正当な権利者であったとしても、一定の期間、その権利を行使・維持するために必要な措置を採らなかった者を保護する必要はないというもの

⑶立証の困難の救済

①本来は正当な権利者であったとしても、長期間が経過した後にはそれを立証するのが困難になることがあるから、過去に遡っての議論に一定の限界を設けるというもの

②真の権利者保護を目的とする時効制度の根拠

⑷,時効制度の目的・根拠を多元的に考える(多数説)

種類ごとにその軽重を変えながら複合して、各種の時効の存在を支えている。

8,刑事法上の時効

一定期間公訴が提起されなかった場合に公訴権が消滅する公訴時効と、確定した刑の執行を消滅させる刑の時効がある。

一般に刑事事件で「時効」といわれるのは前者である。

国によっては公訴時効を刑事責任追及の時効、刑の時効を判決執行の時効という]。

公訴時効

公訴時効とは一定期間公訴が提起されなかった場合に公訴権が消滅すること。

日本では公訴時効完成までの期間は対象となる犯罪の法定刑が基準とされている(刑事訴訟法250条)

9,時効利益の放棄・喪失

民法146条「時効の利益(援用権)はあらかじめ放棄することはできない」と規定している。

これは債務者の足下を見てあらかじめ時効利益の放棄を約定させておくといった弊害を防ぐためである。

時効利益の放棄は時効が完成していることを知りつつもあえて放棄するという意思表示である。

10,時効の完成猶予及び更新

法改正による整理

2020年4月1日法律施行では、時効期間の経過が最初からやり直しになる時効の更新と時効期間の経過が一定期間止まるだけの時効の完成猶予に整理され再編された

改正前の時効の中断が時効の更新、時効の停止が時効の完成猶予に変更されたが、時効の完成猶予と時効の更新の関係も再構成され、

⑴,裁判上の請求や強制執行等の類型では請求等で手続が開始することが時効完成猶予事由

⑵,確定判決等によって手続が終了することが時効更新事由となった。

⑶、また権利についての協議を行う旨の合意が書面でされたときは、時効の完成が猶予されることになる(民151条1項)。

⑷、なお、連帯債務に関する規律も改められ、連帯債務者の1人に履行の請求を行い時効の完成を猶予させた場合でもあっても、原則として他の連帯債務者に関しては時効の完成猶予の効力が生じない

11,経過処置

改正後の法律が実際に適用される対象は、改正後(改正法の施行後)に行なった法律行為に基づく債権債務となります。
したがって、改正民法の施行前(2020年3月31日まで)にした借金については、改正前の民法のルール(職業別の短期消滅時効期間など今回の改正で廃止されるルールも含めて)が適用されます。

12,職業別の短期時効の廃止

医師、薬剤師、助産婦、工事の設計や施工を業とする者など:3年

弁護士、卸売商人、小売商人、一部の教育関係者:2年

飲食店、旅館など:1年

改正民法では、これらの職業別の短期消滅時効期間は全て廃止され、上記の債権に関しても、「主観的起算点から5年または客観的起算点から10年」の規定が適用されることになります。時効の起算点に「主観的起算点」の概念が加わったことによって、殆どの消滅時効は(債権者が権利を行使することを知った時から)5年になると考えてください。
不法行為による損害賠償請求権の「3年」が例外。)

13,商事債権の消滅時効

民法改正後は、こうした商事債権についても、先述の「主観的起算点から5年または客観的起算点から10年」が適用されます。

前述の通り、殆どの場合、主観的起算点と客観的起算点は一致するので(特に、商事取引の場面において、主観的起算点が遅れる(権利が行使できる状態にあることに債権者が気づかない)という事態は、まず考えにくいでしょう)、結局、時効期間は従来通りの5年ではあるのですが、念のため覚えておきましょう。

14,蛇足

本題とは違いますが、改正民法の用語の変更に言及します。

キズ・欠陥の意味の「瑕疵」(かし)という用語は、「改正民法では「契約の内容に適合しない」という表現に改められた。

抵当権等がある場合の買主の賠償請求)

民法570条「買い受けた不動産について契約の内容に適合しない先取特権、質権又は抵当権が存していた場合において、買主が費用を支出して、その不動産の所有権を保存したときは、買主は、売主に対し、その費用を償還することができる。」

変わらない部分

土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)

民法717条「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。

2前項の規定は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する。

15,参考資料

稲村晃伸他6名著『民法大改正ガイドブック』ダイヤモンド社 2015.7.2 1刷発行

有吉尚哉 著 『民法改正の要点がわかる本』翔泳社 2017.6.28 1刷発行

ここから先は

0字
この記事のみ ¥ 100

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?