政治(経済・金融)講座ⅴ1849「円安論議とその是非」
白状するが吾輩の相場観は当たらない。期待値を悉く外す。よく言う相場の格言に「頭と尻尾はくれてやれ」がある。それにしても、相場の予想は難しい。色々な経済専門家や相場師の話を聞くが、とにかく当たらない。
今回はドル/円相場について素人ながら考えてみた。
まず、円を必要とする実際の需要がどれほどあるか(これも実際のところ事前調査不能)。そして、その需要を予想して為替予約を入れるなど先物相場が動き出す。また、相場の変動リスクを予想して為替ヘッジとして思惑買い・売りが発生する。予想が変動するとそれに対する為替ヘッジの動きが起こる。現在の円安の要因が日米の金利差の隙間を狙い、超低金利の日本円でお金を借り、その資金を利回りの高い外貨建て資産で運用する取引の「円キャリートレード」も相場の複雑化の要因を生み出している。貿易収支だけではないのである。
日本が失われた30年と言われている要因の一つに「資産の時価相場」と「資産の簿価」の乖離があり、その解消にそれだけの歳月を要したこともあると考える。その損失を償却できない中小企業や個人が不良資産として包含してきたのである。最近株価の上昇でその含み損の解消の兆しが出てきたように感じる。
翻って日本が保有する米国の国債1兆1500億ドル(185兆円)は、実際はレートがいくらのときに取得したの簿価が分からないのである。為替を仕入れて売却する商売と考えたら、日本は相当損をしているのではないだろうか。
1ドル360円を経験している吾輩は米国の為に無駄に働かされて為替で儲けをほとんど吐き出されたように考えるのである。
360円で稼いだドルはどんどん為替変動に合わせて保有するドルの貨幣価値が下落してきて、我々日本の財産の円ベースでは大幅な目減りを齎していることに注目が必要であろう。
2024年7月12日現在ドル/円 159.30円
日本企業が稼いだ円が相場で利益を吸い上げられた結果と企業の会計簿記の時価と簿価の乖離の解消に費やされたのが失われた30年の要因の一部であると考える。そして、「有事の時のドル買い」という言葉があるがいま世界情勢が緊迫して有事へと向かうカントリスクが円安要因ではなかろうか。
今回は円安に関する各経済専門家の報道記事を紹介する。
さて、皆さんは今の円安をどのように捉えるか。
皇紀2684年7月12日
さいたま市桜区
政治研究者 田村 司
金利を上げれば円安が止まる?→むしろ円安リスクが高まるワケ【エコノミストが解説】
原田 泰 によるストーリー
「円安になるのは日本の金利が低くてアメリカの金利が高いからだ。だから、日銀は円安を止めるために金利を上げるべきだ」と思っている人は多いだろう。しかし、金利を上げると円安になる可能性もある。その理由を解説する。(名古屋商科大学ビジネススクール教授 原田 泰)
貯蓄・投資・経常収支・資本流出の関係を理解する
なぜ、金利を上げると円安になる可能性があるのか。
それを説明するためには、まずは2つについて、理解していただく必要がある。面倒だが、少しお付き合いいただきたい。
まず、国際的な取引を考えるためには、GDP(国民総生産)よりGNI(国民総所得)で考えた方が分かりやすい。GNIとは、GDPに海外からの受け取り(日本の投資への配当や金利の支払いなど)を足して、海外への支払いを引いたものである。以下、この受け取りと支払いをそれぞれ通常は財・サービスに限られる輸出等、輸入等に足したものを「輸出等」「輸入等」と書く。
すると
GNI=消費+投資+政府支出+輸出等-輸入等
となる。輸出等-輸入等は経常収支である。
ここで、貯蓄はGNIから消費と政府支出を引いたものだから、
貯蓄=GNI-消費-政府支出
したがって、
貯蓄=投資+輸出等-輸入等(=経常収支)
となる。
すなわち、
貯蓄-投資=輸出等-輸入等=経常収支
である。この式の意味は、経常収支は国内の貯蓄と投資の差額であるということである。これが第1の理解である。
第2に、海外からの受け取りで海外への支払いを賄えていなかったら、それは海外から借金をしているか出資を受け入れていることになる。逆に、海外からの受け取りが、海外への支払いより大きければ、海外に貸し出しをしているか出資していることになるということである。
すなわち、経常収支が黒字のときは
経常収支=純資本流出(=海外純投資)
経常収支が赤字のときは
経常収支=純資本流入
したがって、貯蓄は国内の投資になるか、海外への純投資(純資本流出)になる。すなわち、
貯蓄=投資+経常収支(=純資本流出)
である。
つまり、国内貯蓄を国内投資で使いきれなかったら経常収支の黒字になり、それは純資本流出になっているということである。
以上はGDP統計の定義式から導かれる恒等式で絶対に正しいが、これを因果関係と解釈することもできる。
海外への純投資が大きいから円安になる
下の式は、輸出が大きいから純資本流出が大きいとも、貯蓄が大きいから経常収支が大きいとも読める。
貯蓄=投資+経常収支(=輸出等-輸入等=純資本流出)
しかし、ここでは、国内貯蓄を国内投資で使いきれなかったら純資本流出、すなわち海外純投資になるが、そのためには経常収支が黒字にならないといけないと読む。
では、どうやって経常収支黒字を作り出すかと言えば、円安である。円安によって輸出等(インバウンドなどのサービス輸出、日本の投資の海外からの支払いを含む)が増え、輸入が減って経常収支黒字になる。
純輸出=純資本流出は、輸出が輸入より多いから海外投資をしているとも、純資本流出が大きいから輸出が輸入より大きくなるとも解釈できる。
後者であれば、国内のリターンに比べて海外のリターンが高いので、海外に投資するために純輸出(経常収支)の黒字が大きくならなければならない。だから、純輸出を大きくするために円安になるということである。
これは「経常収支がプラスであることは、日本経済が強力である証拠」という一般の考え方とはかなり異なる。国内の投資機会が豊富で海外からの投資をひきつける国のほうが、経済は強力と考えるということである。
日本は国内経済が弱いので海外に投資し、海外でのリターンを求めたほうが良い。海外に投資するためには純輸出がプラスにならなければならないので為替レートが低下すると考える訳だ。
つまり、国内の投資リターンが低く、海外のリターンが高いことが円安の要因である。であれば、日本の金利を上げてリターンを上げれば、円安は収まると考えるかもしれない。しかしここで、日本のリターンと海外のリターンとは何かを考えなければならない。
国内外のリターンの差は株価上昇率の差
多くの人が、NISAによる海外投資が、円安の要因と指摘している。日本経済新聞(6月17日)によれば「1~5月の国内の投資信託運用会社などによる海外投資は5.6兆円超の買い越しとなり、2023年通年の4.5兆円を早くも上回った」という。
このペースが続けば、24年通年では13兆円の買い越しになり、23年より8.5兆円の資本流出となる。
同記事では、その背景について、下記のように報じられている。
「背景にあるのが24年1月に始まった新NISAだ。非課税の期間制限をなくして恒久化し、非課税枠も最大1800万円に引き上げた」。
これによって資本流出が増加したのだ。
また「新NISAで最も買われている投信は三菱UFJアセットマネジメントの全世界株式型投信、全世界株式(オール・カントリー)」(オルカン)だ。投資先の6割が米国株で、1~5月の資金流入額は1兆1448億円と前年同期比で約5.7倍に膨らんだ」という。
日本の経常収支は23年で21.4兆円だから、NISAの13兆円の資本流出は円レートに大きな影響を与えるだろう。
NISAで海外投資をしている人は、日本で投資するより海外で投資した方がリターンが高いと考えるから、オルカンなどの投資をしているのだろう。この時のリターンとは、株価の上昇率である。日本より海外のほうが上昇率が高いから、海外に投資をするのだ。もちろん、将来のことは分からないが、過去においては、日本より海外の株に投資したほうが、上昇率は高かった。
また、日本の株が下がってもどこかの国の株が上がっている可能性があるので、オルカンはリスク分散投資になる。すべての国の株が下がっていたら諦めろと言うことになるが。
ここで金利を上げたら、日本の株価は下がるだろう。少なくとも上がり方が抑えられる。つまり、日本株より海外株のほうが、リターンが高くなる。であれば、NISAによる海外株への投資は拡大する。つまり、純資本流出は拡大する。拡大した純資本流出と同額の経常収支黒字を作るためには円は下落しなければならない。要するに、金利を上げれば円高になるとは言えないのである。
日米金利差やデジタル赤字だけではない“異常な円安”の「真の原因」
2024.6.13 6:30
市場は注目、日銀6月会合の追加利上げ
金利差だけが円安の要因なのか?
歴史的な円安局面が続くなかで、6月11日、12日のFOMC(米連邦公開市場委員会)とそれに続いて13日から始まる日本銀行の金融政策決定会合に市場の注目が集まっている。
市場の関心はFRB(米連邦準備制度理事会)の利下げ実施と日銀の追加利上げの見通しだ。
円ドルレートの今後を考える際に日米の金利差の動向が重要であることは間違いがない。一方で最近の円安は日米の金利差だけでなく、「デジタル赤字」に象徴される日本経済の構造に問題があるとする見方もある。
どちらも間違いではないが、最近の異常な円安の原因を十分に説明することにはなっていない。
通貨危機級の円安は日本の “自業自得”、悪いのは日銀だけか?
2024.5.14 6:00
これほどまでの円安は、わが国の経済政策の“自業自得”といえるかもしれない。海外の一部の専門家からは、「通貨危機的円安」と言われる状況に陥っている。過度な円安を止めるには、いったいどうしたらいいのか。(多摩大学特別招聘教授 真壁昭夫)
円安は日本の経済政策の「自業自得」
海外から「通貨危機的円安」と言われる状況に
円安傾向が一段と鮮明化している。4月29日、160円24銭までドル高・円安が進行する場面もあった。その後、覆面介入とみられる動きなどから円は対ドルで反発したが、年初から5月3日までに、円はドルに対して8.5%下落した。海外の一部の専門家からは、「通貨危機的円安」と言われる状況に陥っている。
円安と、世界的な資源や食料品価格の上昇で、わが国では必要な資材の輸入が難しくなるケースも出始めている。オレンジの不作と円安が影響し、ジュースの材料を輸入できなくなる飲料メーカーも出ているという。果汁在庫がなくなり次第、販売を休止するようだ。円安の影響は、私たちの日常生活にも影響を及ぼし始めている。
円安の進行について、重要なポイントとなるのはわが国の金融政策である。1990年代初頭以降、日本経済の実力が低下したことは残念ながら顕著だ。景気低迷を金融緩和で支える経済政策によって、これまでの常識を超える大規模な金融緩和に拍車がかかった。
わが国の金利は極度に低い状況が続いている。円資金も必要以上に潤沢に供給された。それに対して、2022年3月以降、米国で急速に金利が上昇した。こうして主要投資家にとって、潤沢で金利の安い円を借りて、それをドルに換えて運用する「円キャリートレード」の妙味は高まった。また、日本企業や個人投資家が、成長期待の高い米国株などに資金を投じたことで、国内からの資金流出が勢いづいた点もある。
これほどまでの円安は、わが国の経済政策の“自業自得”といえるかもしれない。過度な円安を止めるには、いったいどうしたらいいのか。
円相場、一時1ドル157円台 FRBの早期利下げ期待高まる
毎日新聞 によるストーリー
2024年7月11日のニューヨーク外国為替市場の円相場は、対ドルで急速に上昇し、一時1ドル=157円台半ばをつけた。米労働省が発表した6月の消費者物価指数(CPI)が前年同月比3.0%の上昇となり、市場予測(3.1%)を下回った。このため、米連邦準備制度理事会(FRB)による早期利下げへの期待が高まり、前日に比べ4円程度、円高・ドル安が進む場面もあった。
6月のCPIは、伸び率が前月の3.3%から鈍化した。伸び率が前月を下回るのは3カ月連続で、2023年6月(3.0%)以来の低い水準となった。
内訳は、エネルギー価格が1.0%上昇にとどまり、前月(3.7%上昇)に比べ大幅に鈍化した。家賃など住居費も5.2%上昇で前月(5.4%)を下回った。一方、食料品は2.2%上昇で前月(2.1%)からやや加速した。
変動の大きなエネルギーと食料品を除くコア指数も3.3%上昇で、伸び率は前月(3.4%)から鈍化した。市場予測(3.4%)も下回った。
FRBは物価上昇(インフレ)抑制のための利上げを打ち止めにし、利下げに転じる時期を探っている。金融政策を決める重要な判断材料となるCPIが、市場予想を下回る結果になったことから、市場ではFRBが9月に利下げに踏み切るとの予想が高まった。これに伴い日米金利差の縮小を見込み、ドルを売って円を買う取引が強まった。【ワシントン大久保渉】
円キャリー取引とは 円を元手に高金利通貨運用
きょうのことば
2023年12月9日 2:00
▼円キャリー取引 低金利の円を市場で借りて、高金利通貨で運用することで金利差収益を狙う取引。例えば日米の政策金利差は足元で5%を超えており、円でお金を調達してドルに投資すれば、年率5%程度の金利差収益が得られる。市場で取引が活発になれば、円売りが増えるため円安圧力をもたらす。反対に取引が解消される局面では、円買いが広がるため円高圧力になる。
円高が進むなど為替変動によって損失がでる可能性があるため、値動きが安定していることが取引の前提となる。相場の変動が荒くなると、市場参加者がキャリー取引を手じまう動きが加速する。
キャリー取引の規模を反映するとされる、外国銀行在日支店の本支店勘定(資産)は2022年初は6兆円程度だったが、日米金利差の拡大を背景に直近では11兆円程度まで拡大していた。過去にキャリー取引が活発化した07年には一時23兆円まで拡大しており、08〜09年に取引が解消される局面では1ドル=84円台まで円高が進む原動力にもなった。
参考文献・参考資料
金利を上げれば円安が止まる?→むしろ円安リスクが高まるワケ【エコノミストが解説】 (msn.com)
円安での利上げは危険な誘惑!日銀の出口戦略が「水の泡」になりかねないワケ
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