久々に絡まれた話。
夜。信号待ちの交差点。久々に絡まれました。
近づいて来たのは酔っ払った30くらいのお兄さん。
ガタイがよく、浅黒いツーブロックで、白Tシャツにジャケットのセットアップを着こなしています。「あれ?あなたの界隈は六本木ですよね?」といったような出で立ち。幡ヶ谷の水道道路沿いで会うにはふさわしくありません。そんな「怖みの塊」のような方がフラフラとこちらに近づいてきます。この時はまだ「お兄さんも信号待ちするためにこっち来てるだけですよねー」という当たり前の選択肢が残っていたので、「まあ大丈夫でしょ」なんて心持ちでいましたが、その後、「仲のいいカップル」くらいの距離まで詰めてこられたので、あ、これは絡まれる系のやつなんだと察しました。一瞬でも「あれ、顔差されたのかな?」と思った自分を爆破したい気分でした。
真横までやってきたお兄さんが自転車のカゴに手を置きます。確保された感のある状況になりました。なんか慣れていらっしゃいます。この人の人生はずっとカツアゲする側の道を歩んでこられたんだなと思いました。ハンドルを持つ手がじんわり汗ばんでいきます。私は逆サイドをひっそり生きてきたのに、38にもなってまだこんな状況になるのかと思うとやるせなくなりました。車のライトに照らされたお兄さんの顔は、酒で赤黒くなっており、まるで「鬼」のようでした。っていうか、心底ビビっていたので「鬼」のように怖かった、の「鬼」が正しいかもしれません。酒臭い息が頬にかかります。え、マジで嫌なんですけど。これもブレイキングダウンの影響と言ったら怒られるでしょうか。「試合決定で」って言ってこられたらどうしよう。あ、でも言うのは朝倉未来さんか。この状況を客観的にみている朝倉未来さんはここにはいません。夜の水道道路に狩る側と狩られる側の二人きりです。詰んでいます。防犯ブザーを持ってたらスイカ割れるくらい連射するのに。
威圧感を込めた低い声で、お兄さんからお言葉が発せられました。狩られる側は耳を疑いました。
「…てめぇライトチカチカさせてんじゃねーよぉ…」
…思っていたお言葉とは種類も何もかも違いました。え??ライト??チカチカ???
当たり前ですが、ライトというのは周囲を明るく照らすために眩しく作られています。そして「チカチカ」は、光を目立たせるための機能です。別に超強烈なライトを搭載した自転車ではありませんし、ライトの角度がズレてお兄さんにピンスポを当てていたわけでもありません。このお兄さんは、なんか変なことを言っています。
ここで、ちゃんと顔を確認しました。こちらには狩られた経験が何度もあります。こういう時、目を合わすといつでも向こうの判断で試合が決定してしまう恐れがあるので絶対に見ません。しかし、その経験値を飛び越えてまでこの人の顔を見たいと思ってしまいました。なぜなら、なんか変なことを言ってきてるから。
お兄さんの目は据わっていました。あ、ダメだ、マジじゃん。マジの目じゃん。あぶな。この人ガチで言ってきてるじゃん。
こちらはまず「あっ…」と驚きました。この驚きは、忠告に対して自身がまるで気づいていませんでした、という風に見せるためです。ライトをチラ見し、「(なるほど!これは確かに眩しいですよね…)」みたいな感情を、言葉にせずに態度と表情で示します。外国の方になんとなく伝えるためのボディーランゲージみたいなものです。何がきっかけでカゴに置いた手がこちらの喉元を掴んでくるか分かりませんし。怖いからマジで。目が鎮座しちゃってんだもん。こうなると意味のわからない言いがかりの方が通常運転のいちゃもんより怖いかもしれません。「(いやぁホントに注意してくれてありがとうございます~)」みたいな雰囲気をまとわせた会釈をしながら、ライトのスイッチを点滅から点灯に切り替えました。するとお兄さんは、カゴから手を離しながら「…気をつけろよぉ…」と言いました。
…え、マジで何言ってんのこの人??
気をつけろよってなんだよ。
全開で意味わかんないじゃん。
気をつけるためにこっちはライトつけてるんですけど。
なんてことは絶対に言いません。信号が青になった瞬間に、何も言わずにすぐさま漕いで立ち去りました。
まさか久々に絡まれたと思ったらこんな形とは。なんだあいつ。え、マジでなんだあいつ。カラオケ入ってマイク使って「なんだあいつ」って叫んでやろうかな。
でも体は正直です。心臓がバグバグ言っています。ドクドクでもバクバクでもなく、もっと緊急事態を表す鼓動の「バグバグ」です。え、マジで怖かったんですけど。怖かったし意味わかんなかったんですけど。何あいつ。ライトを注意する夜回り先生か何かですか?いや、無点灯を注意するならまだしも。はぁ??何だあいつ。早く六本木帰れよ。
そういえばこの一個前に絡まれた時も、夜に自転車乗ってたな。その時は近所に住むうるとらブギーズ・佐々木君から深谷ネギをもらって帰る途中、コインランドリーの前にたむろしていた若者に「なんだおまえ」と言われ、チャリみて、ネギ見て、もう一回「なんだおまえ」って言われたっけ。間に入って仲裁してくれた相手の連れも、ネギを見て、「こんな奴と関わるな」と言ってなだめてくれていたな…もしかしたら夜の自転車と自分の相性がよくないのかもしれません。今のところ取れた統計だとそうなるし、そこにネギがあったらいよいよだし、ライトだって周りをよく見てチカチカさせたりさせなかったりした方がいいんだなと、別に得たくもない教訓を学びました。
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