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働きがい・やりがい・稼ぎがい――長く続けるための三つのモチベーション

最近、オフィス回帰の流れで定期的にチーム全員がオフィスに集まることになり、先日はその流れで終業後に飲みに行ったりした。マネージャーが5年目、6年目ぐらいの若手に聞く。

「君はどんな仕事がしたい?」

若手が口ごもる。まあそうだよね。就職とか配属とかの志望動機では、それっぽいことも言っただろう。でもそれがまだ練りこみが必要だったり、会社や部署を動かすにはそっちのミッションとのすり合わせができてなかったり、ちょっと今すぐやれることじゃないと気づいていく。高い志みたいなのはちょっと置いて、となりがちな時期だと思う。僕からも水をむけてみる。

「どの業務が楽しかったり、好きだったりする?」

今度は少しずつ答えがかえり始める。話し出せば膨らんでいく。同じような仕事を任されてるのに、一人一人好きなところが違うのが見えてくる。「好き」が言えるなら、彼らのモチベーションは大丈夫だ、と思う。

仕事をしていて、ここでは自分の能力が発揮できるとか役に立ててる、あるいはここにいる仲間とよくやっているみたいな、自分の居場所だと感じられるとそれは働きがいになる。あるいは自分のやっていることが顧客の、その先にいるみんなの、ひいては社会の役に立っていると思えると、やりがいを感じる。でもそれは普通、就職までに磨いた能力だけでなく、その仕事や職場で必要とされるスキルが伴ってからだ。

最初の数年間は、むしろ就職時にもっていた働きがいとやりがいに実態が伴わないギャップに、それらを削がれていくかもしれない。その期間、就業初期から感じられるはずなのは、まず自分の生活、もしかしたら家族の生活、そしてときどきの楽しみや潤いを自分の裁量で賄い支えられるようになる稼ぎがいだろう。それを励みに、5年間も一つの業務に携わっているといつの間にか、一万時間の経験を、上司や同僚、顧客からフィードバックを受けながら積むことになる。スキルが伴ってくる。

僕自身は異動、転籍、転職と復職を挟みながらもう30年ぐらい仕事をしてきたことになるけど、折れそうになる機会はまあまああった。それがまがりなりにもここまでこれたのは、働きがい=自己実現のモチベーション、やりがい=社会参加のモチベーション、稼ぎがい=経済的自立のモチベーションの三つを考えていたからじゃないかと思う。一つが折れても残り二つが支える。二つ折れると心が折れそうになるけど、残る一つに縋り付いて乗り切る。そうしている間に、折れたモチベーションが持ち直してくる。

退職代行が存在感を増している中、早期退職の手軽化・気軽化に懸念を示している記事に、ちょっと興味を惹かれる話があった。

この方にとって仕事選びとは、人材エージェントから手渡された「カード」のなかから、自分にできそうな仕事、面白そうな仕事を選ぶものであり、主体的に選ぶものではなかったからです。もし選んだカードが想像と違っていたら、カードを捨て、改めて示されたカードから選び直せばいい。(略)人材エージェントやスカウト媒体をAmazonやSpotifyのレコメンド機能のような感覚で使い、短時間でキャリアの意思決定をするのは「イマっぽい感覚だな」と、ヘンなところに感心してしまいました

意識低い系エンジニアは被害者? 人材不足のIT業界でさえ「気軽に退職したら次はない」 - エンジニアtype | 転職type

仕事の口が「カード」でそれを受け取るのが「レコメンド」感覚なら、実際の入社・配属は合わなければ引き直せる「ガチャ」を回す感覚で、退職は代行サービスで「ワンクリック」感覚かもしれない。一連のプロセスがまとめてイマっぽい。ただ早期退職を繰り返していて、働きがいややりがいが満たされる場所を見つけられるのか、他人事ながらちょっと気になる。やむを得ない退職はあるけど、そうでなければ早期退職してしまうと、スキル習得がままならないのでは。

ほとんどのスキルには「フラストレーションの壁」があります。つまり「無能であると自覚している」部分です。これは非常にフラストレーションがたまります。馬鹿みたいに感じたくありません。新しいことを学び始めると馬鹿みたいに感じることが壁となり、実際に練習に取り組むことを妨げます。

最初の20時間 — あらゆることをサクッと学ぶ方法(ジョシュ・カウフマン)|塚本 牧生

20時間の法則を提唱したジョシュ・カウフマンは、スキルの習得にはフラストレーションを覚える段階があることを指摘している。同時に20時間の法則でも1万時間の法則でも、習得過程でフィードバックを得ることが大事だとしている。それは仕事なら上司や同僚、顧客から、端的に言えば「ここがダメだよ」と指摘されるという事だけど、それはフラストレーションになるだろう。でもそれはある程度乗り越えられる打たれ強さ、フラストレーション・トレランスがあった方が、スキルをつけるためにはいい。

Threadsで、こんな投稿を見かけた。

「この仕事が楽しそう」「自分の研究テーマと通じる」「勉強になりそう」とか言って入社してくる人。入社数ヶ月くらいで「この仕事は面白い」「自分に向いてる」「素晴らしい会社」とか言ってる人。
一見すると優良物件ですが、大変危険です。
「退屈なタスク」「楽しくない作業」「面白くない業務」をさせた途端に、「こんなはずじゃなかった」と絶望して、呆気なく辞めます

@mochi.mochi.0105 • 人事のお仕事をされている皆様へ 「リクルート担当」「会社... • Threads

モチベーションとして、働きがいかやりがいしか見えない人。そのワントピックしかない人。スキル不足は、そのワントピックにフラストレーションを与えるから、呆気なく絶望して呆気なく辞める。それもイマっぽいリコメンド、ガチャ、ワンクリックな感覚であればなおさら呆気なく。でも他に働く理由があれば、そうでもなくなる。

私が思う優良物件↓
「よくわからなくても言われたことは1度はやってみる素直な人」「退屈でも金のために頑張れる人」「仕事と関係ない趣味のある…

@mochi.mochi.0105 • 人事のお仕事をされている皆様へ 「リクルート担当」「会社... • Threads

モチベーションとして稼ぎがいがあれば、他でのフラストレーションをなだめて「言われたことは1度はやってみる」を続けられる。成長もしやすくなる。それは、何年か遅れて働きがいを、さらに何年か遅れてやりがいを感じさせてくれるようになる。そんな感じじゃないかな。だから、5年ぐらいの勤務を経て業務の「好き」が言える若手を、彼らのモチベーションは大丈夫そうだと思う。彼らはもう、少なくとも二つのモチベーションを得て、一つが揺らぐことがあっても絶望したりしないだろう。

本当は、モチベーションなんて多様で「稼ぎがい、働きがい、やりがい」なんて三つにまとめる必要はない。でも三つの視点から考えたら、少なくとも三つのモチベーションが見つかる。つまりこれは、僕に仕事を長く続けさせてくれたオマジナイなんだ。ワントピック退職に陥らないためのオマジナイ。仕事を見つけてそれを長く続けていきたいと思っているみんなにも、このオマジナイが効いたらいいな、と思ってる。

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