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ヨッフム+ポリーニによる初期ベートーヴェン
録音:1982年11月、ウィーンにてライブ・レコーディング
ポリーニのベートーヴェン・ピアノ・コンチェルト全集は、2度目のアバド版(1992年)が見事に完成しているので、初回82年の「ヨッフムとの1番・2番」は、あまり聴かれないものとなってしまった。
もともとポリーニは、カール・ベームとの全集録音を進めていたが、ベームの逝去で、ヨッフムが振ることになった(ウィーン・フィルのベーム追悼公演はヨッフムが指揮した)。
ヨッフムは、オルガン奏者出身であることもあり、ブルックナーに傾倒しその業績も残しているが、協奏曲の指揮者としては、さほど目立ったものがない。ポリーニも、その資質とベートーヴェンの曲が合っているのかどうか。
さらにこの曲は、まだベートーヴェンがモーツァルトやその時代の趨勢の方を向いていて、自分の個性を全面にみなぎらせてはいない。
とうことで、どこかチグハグな印象を持ったまま演奏が続いていくが、「ヨッフム+ポリーニ+初期ベートーヴェン」という三角形が、マイナスにばかり働いているとも言い難い。
ヨッフムの指揮は堅実で、フレーズを歌わせ、構成力と推進力がある。ポリーニのピアノも、純度100%という感じで澄みきっている。ポリーニのピアノがオーケストラの中からスッと出てくる時など、思わず聴き入ってしまう。モーツァルトが達成したピアノ協奏曲の形式が、十全な形で機能している。
繰り返し聴いていると、ヨッフムの朴訥とした人間性と音楽表現が、独特の滋味となってしみてくる。それに寄り添うようなポリーニのピアノも好ましい。もしかしたら今まで聴いてきた中で、一番素敵な演奏かもしれない、とふと思ったりする。
アバドとの全集も、大人の熟成した音楽で優れたものだが、ヨッフムとのこれには、無垢の輝きがあり、それが曲の性質に合っている。聴いていると、ベートーヴェンがこれを書いた”18世紀末の青年期”に、自分もいるような気分になる。
ヨッフムとポリーニは、第2番も録音していて、それらはドイツ・グラモフォンの「Beethoven Edition」などで聴くことができる。